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背中を押された午後


 いつもの駅で、父を乗せた妹夫婦の車を待つ。
 冬なのにあたたかく、早歩きをすれば汗ばむくらいだ。
 リハビリを兼ねて一緒に墓参りをするようになってから、父は少しづつ元気になってきた。それでも高齢だから、いつ何があってもおかしくない。

 この先は、穏やかに笑って過ごして欲しい。最近はそんな事ばかり考えていた。

「やっぱり……言ったほうがいいかな?でもなぁ……うーん……」

 ずいぶん心配をかけた親不孝娘の私は、今が幸せだと話しても、いまいち信用されていないもよう。なんでやねん……どんだけ暴れん坊のイメージやねん私……。

 お墓を掃除しながら時に大笑いし、昔話にしんみりし、揃って手を合わせれば不思議と心は決まった。
 妹夫婦が手桶を洗いに行っている間に、ベンチに座り父に話しだした。

「お父さん、私が早々に仕事を辞めて、あれから働きに出ないのが心配なんやろ?」

「そうやな」

「仕事はもうやりきった。だから、これからは少し違う人生を慎ましやかに生きて行く事にしたんよ?」

 私が小説投稿サイトで小説を書き始めたのは2008年だ。エブリスタに移り、楽しく書けていたものの、介護や仕事や色々な事情で続ける事ができなかった。

 ようやく復活できたのが2020年の春。もう、書く事に何も制限はない。若干、浦島太郎気分で書き始めたが、友人にも家族にも言わなかった。

 どうせなら、サイト内コンテストにもチャレンジするかと、現在までポツリポツリと投稿している。
 先日、4回目の優秀作品賞をいただいた時、覚悟が決まった。

 これ以上の賞は多分無理だろうなと。
 だから。

「私、小説書いてるんよ。毎日36時間くらい欲しいなぁ~って思うくらい。勉強しながら書いてるんよ」

 父はびっくりした顔をしたが、たちまち興奮して

「そうなんか!?つぐみが小説を!いい事や、それはいい事や!」

 それからは、車の中で妹夫婦も一緒になってワイワイと小説の話に花が咲いた。

「ねーちゃん、なんでゆってくれへんかったん!」

「何文字くらいの小説や?」

「お義姉さん、アクティブ」

 そうか、これはもう少し早く言えば良かったな。父も読書は好きだが、書くのも好きだったとは。

 きっと亡くなった母や祖父母が、言っちゃえ~!と背中を押してくれたのかも。
 
 こうして私のチャレンジはまだまだ続く。
 新しく追加された目標に向って。

 

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