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知ってるつもりだったけど、知らなかった円相場の超入門 ① (愚痴日記#30)

 今日のオンエアは、円安がテーマだった。
 私が円安を伝えるニュースを読み、スタジオに招いた専門家とトークしたんだ。
 私が読んだ原稿がこれだったの。

「5月25日のニューヨーク外国為替市場では、アメリカで利上げが続くとの観測から円安が加速し、円相場は半年ぶりに一時1ドル=140円台まで値下がりしました。
 1ドル=140円台をつけるのは去年11月下旬以来、半年ぶりです。
FRB=連邦準備制度理事会が、インフレを抑えるため利上げを続けるとの観測が広がり、日米の金利差を意識した円売りドル買いの動きが強まりました。」

 ある程度の知識がないとヤバい・・・と思って、プロデューサーSに事前に聞いておいた。一緒に番組に出る先輩キャスターMに聞くと、馬鹿にされると思ったからね。

「なんで、アメリカの利上げが続くと、円安になるのかって?単純な話だよ。貯金をしようと思ったとき、金利が1%の銀行と5%の銀行、どちらを選ぶ?」
「もちろん、5%の銀行です。」
「誰でもそう思うよね。これが外国為替市場で起こっていることだ。ドル預金の金利は5%程度、一方で日本円の金利はほぼゼロだ。当然、ドルで預金をしようという動きが出るワケだけど、そのためには円からドルに換える、つまり両替する必要が出てくる。この結果、円を売ってドルを買うという動きが広がり、ドル高・円安をもたらすわけね。」
「今回、FRBがさらなる利上げをするのではという思惑が広がったため、円売り・ドル買いに拍車がかかったわけですね。」
 
『よし、分かった!』
 ちょっぴり自信を付けて、オンエアに臨んだけど、途中から話が分からなくなったんだ。
 
 先輩キャスターMが、「今後の見通しはどうですか?」と質問すると、
専門家が『まだまだ、上がるんじゃないですか?145円まで上昇することもあり得ると思います。」っていうんだ。
『あれ?円安になるんじゃなかったの??まだまだ上がるって、どういうこと???」
 これはきっと、専門家が言い間違いしていると思って、『まだまだ、安くなるですよね・・・』って、修正してやろうと思ったけど、やめておいた。  
 Mもスルーしていたしね。

 オンエア後、Mに『あの専門家、勘違いしてましたよね。まだまだ上がるっていってましたけど、逆ですよね。まだまだ円安が進むわけですから。」といったんだ。そしたら、
『間違っているのは、お前の方だ!』」と一蹴された。

 泣きそうになった。
 私は、Sに助けを求めた。
 すると、ちょっとした「ねじれ」があるとSはいう。
「君が読んだ原稿のこの部分だけど・・・」

『円相場は半年ぶりに、一時1ドル=140円台まで値下がりしました。』

 「主語は何だと思う?」
 「主語ですか?円相場ですよね。」
 「本当にそうかな?『円相場は・・・』といってるけど、次に出てくるのは、『1ドル=140円台』という記述だ。こちらは主語がドルになってるだろ。」
 そう言われてみればそうだ。
「そもそも、変な感じがしないか?円安になるといっているのに、数字が大きくなってるよね。」

 確かに、以前から何となく違和感があった。
 円高というと数字が小さくなり、円安というと数字が大きくなる。逆じゃないかって・・・。

「実は外国為替市場の主語は、円ではなくてドルなんだ。「1ドル=○○○円」となっているんだからね。だから、上がるといえば『ドルが円に対して上がる』、下がるといえば『ドルが円に対して下がる』ということ。こうなれば、違和感がなくなるだろ。」
「外国為替市場での取引は、ドルを中心に行われている。世界の基軸通貨だからね。例外はユーロやイギリス・ポンド、豪州ドルなどかな。こちらは「1ユーロ=」、「1ポンド=」で取引されているんだ。」
「もし、『1ドル=140円』を、円を主語にすると
『1円=0.0071』
 もし、135円の円高になると、
『1円=0.0074』
 数字が大きくなってよね。
 もし、145円の円安になると、
『1円=0.0069』
 ほら、数字が小さくなってる。」
「日本国内では、自国通貨である円を主語にしているけど、外国為替市場での主語はドル。一種の『ねじれ』が発生しているんだね。だから、ニュース原稿でも、『円相場は・・』といいながら、具体的な数字を示す時には『1ドル=』としている。もちろん、円を主語にすることもできるけ。でも、為替相場をリアルタイム表示している画面も「1ドル=」で、世界標準になっていることから、主語をこっそり入れ替えているんだ。」
「当然、為替ディーラーなどの専門家の頭の中も、『「円』ではなく『ドル』が主語になっている。だから、『売る』といえば『ドルを売る』ことで、番組出ててきた専門家が「上がる」といっていたのは「ドルが上がる」という意味なんだったわけだ。」

「視聴者も混乱しませんか?私も混乱したし・・・。」
「そうだね。秘かに戸惑っている人はいると思うよ。人に聞くと馬鹿にされそうだから、黙っているだけで。だから私も、番組に登場する専門家には、『上がる』、『下がる』と単純に言うのではなく、『ドル高・円安』などと、より丁寧は表現をしてもらうようにお願いしている。視聴者が混乱しないようにね。」
「今回、もし、私がフォローするとしたら、どうすれよかったのでしょうか?」
「『それはドル高・円高が進むということですね・・・』とかいえばいいと思うよ。本当はMがフォローすべきだから、後で話しておくよ。」

 知っているつもりだったけど、知らなかった「円相場』、っていうか「ドル相場」。 
 私と同じような人もいると思うよ。でも、もう大丈夫だ。

『主語はドル!』


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