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THE TOKYO PERFECT DAYS day.1

仕事で東京に行くことになった。それも4日間。普通に考えると疲れるし、気乗りがしないのだけれど、ここは自分の喜びも同じだけ満たしてしまおう。

東京はかれこれ20数年前に住んでいた、僕にとっては第二の故郷だ。結局8年暮らした。最初の4年はバンド仲間と今の妻とみんなで同棲した。今考えるともうそんな事はできないだろうなと思う。青春の日々だ。

20代前半、奈良にずっといてもしょうがないと思った僕は、バンドメンバーと思い切って東京に移住した。借りたトラックに荷物を詰め、たいして夢も持たずに、ただなんとなく。

バイトをしながら好きなことをした。バンド活動もマイペースでしかしていなかったけれど、とにかく楽しかった。お金にならなくても良かった。テレビのオープニング曲になったり、渋谷のHMVのインディーズチャートに一瞬だけトップになったり、それなりに嬉しいことはあった。スウェーデンのバンド、カーディガンズを世に広めた渋谷系の原型を作ったとも言える元WAVEの名バイヤー荒木陽路美さんがやっていたインディーズレーベルからCDを出した時はダメ出しをくらって、寝ずに徹夜で曲を仕上げたり。お金ももらえないのに、今では考えられない。でもCDさえ出せればそれで良かったのだ。よく渋谷のタリーズコーヒーだったかで打ち合わせをしたなぁ。今思うと本当にいい経験をしたと思う。荒木さんとは連絡先が分からなくなってから会えていない。元気にしてるだろうか。東京滞在中に奇跡的に会えたらいいな。

田舎に飽き飽きして東京に行ったわけだけれど、結局東京で暮らすうちに自然の良さや田舎の良さが見えてきて、東京生活に終止符を打った。大きな夢を抱くこともなく東京に行き、大した挫折感も味わうことなく。僕らしいと言えば僕らしい生き方だ。

それが今、奈良でマイホームを建てサラリーマンで妻子持ちとは言えど、同じようなことをし続けている。まあ以前と同じように、いやそれ以上に楽しかったりはする。

そんな思い出の東京に4日間も滞在するのだ。仕事はそれなりに、自分への欲求はそれ以上に満たしたい。それじゃないとテンションが上がらない。

まずは1日目、眠い目を擦りながら始発電車で東京に向かった。最初の訪問先は武蔵野美術大学だ。前日に読んでいた横尾忠則さんの本にその名前が出てきてシンクロニシティを感じた。なんでも高校生の時に美術の先生に勧められて大学受験をしていたところ、受験前日になって突然受験を辞めて西脇に帰りなさい、と言われなんの抵抗もなくそのまま帰ったと言うエピソードだ。まあ無茶苦茶な話だが、先生は両親から受験を辞めるように懇願されたらしいということを、ここ最近先生自身から聞いて知ったという事だった。その話自体は知っていたけれど、大学名までは知らなかったからびっくりした。結局人生の流れに身を委ねたことで今の横尾忠則があるのだと思うと人生というのは不思議だ。それからリリーフランキーが卒業生だと言うことも前日に知った。

東京に着いたのが9時すぎ、山手線の車内ディスプレイには早速リリーフランキーが映っていた。ドラマ《ペンション恋は桃色シーズン2》の番宣だ。細野晴臣さんも出ていた、なかなかに良い空気感のドラマで、まだシーズン2は観ていないから夜にでも観てみよう。

1週間前の天気予報では晴れの予報が、来てみると雨に変わっていた。途中で傘を買おう。折りたたみ傘だったら邪魔にならないだろう。

中央線に揺られ、国分寺で乗り換えのタイミングで駅に隣接したデパートで傘を買うことにした。そこで目に入ったのが無印良品だ。

無印良品の傘と言えば、僕の東京生活の思い出の品だ。と言うのも、妻が当時無印良品の折りたたみ傘を使っていて、オシャレな街裏原宿に買い物に行ったときに突然雨が降り出してきて、おもむろに傘を広げようと思っても開かず、何回もやってるうちにイライラしてきた妻が『なにが無印良品じゃ!こんなもん無印悪品じゃボケェ〜!』と言いいながらバンバン道に傘を叩きつけるという今では鉄板のエピソードだ。周りの人がドン引きしているのを気にしながら僕はできるだけなだめた。

これはもう無印良品の傘しかない(なんで?)と思った僕はもちろん無印良品で傘を買った。1990円もした。あれから20年経った今も傘はやっぱり若干開きにくかった。最悪道に叩きつけるしかない。

降ったり止んだりの小降りの雨の中、最寄りの鷹の台の駅から歩いた。良い雰囲気の道で通学には良いだろうなと思いながら。時間は11時。老人や小さい子を連れた母、それから犬の散歩をする女性などが歩いている。ここにはのんびりした平和な時間が流れている。

いい感じの通学路


20分ほど歩き、ようやく到着。
仕事は思ってたよりもあっけなく終了。
もうお昼だったので、とりあえずどこかでご飯を食べよう。次の訪問先は三鷹だったので、国分寺で乗り継ぎ、三鷹へ向かった。

三鷹の駅前には牛丼の松屋の本社があり、松屋の聖地だった。しかし僕は旅ではどこでも行けるところには行かない主義だから、ここでしか行けない、ここでしか味わえない店に行きたかった。そんなにお腹が減ってないこともあり、純喫茶を検索。すると三鷹最古の純喫茶、リスボンというお店があるではないか!リスボンと言えばすぐさま曽我部恵一氏の楽曲、リスボンを思い出した。

リスボン ああなんていいひびき
リスボン ああなんていいひびき
行ったことはないけど
行ったことはないけど
リスボン ああなんていいひびき

というシンプルな歌詞のグルーヴィーな曲だ。この曲に合わせて明日香の仲間たちでラップをしたりした。できればこの曲を聴きながら読んで頂きたい。

行こう!これはもう行くしかない。あのリスボンに。

小雨の中歩くこと10分。
そこにリスボンはあった。
店先ではスタッフがお弁当を売っていて、僕は地下への階段を降りて行った。

そこにリスボンはあった。
since1958

地下の狭い空間にひっそりと佇む昭和感な店構え。なんだか大阪的でもある。
看板にはsince1958とある。今年で創業66年だ。

中に入ると極小空間にカウンター、狭い厨房では常にサイフォンでコーヒーが淹れられており、棚には野菜や果物が無造作に積み上げられている。ひとりですと伝えると、奥の相席の丸いテーブルに通される。右横には年配のご婦人、左にはOL二人だ。

ナポリタンなどを期待したのだが、メニューを見ると潔くサンドイッチ系のメニューのみ。この潔さがいい。確かにあの狭すぎる厨房では調理は無理だろう。値段も昭和価格だった。
お腹もそんなに空いてないこともあり、340円のランチバスケットとコーヒーを頼んだ。

昭和価格のメニュー
純喫茶ランチ


コーヒーはあっつあつでさっぱりした味だった。ランチバスケットはチーズサンドと卵サンド、サラダ、ヨーグルトが付いていた。
サンドイッチはカラシが効いていてなかなかにいい。しかしこの特別美味いとも言えないこの感じがいい。日常の味、それこそが純喫茶なのだ。
ついにリスボンに来た実感を味わいながら(リスボンってどこの国だっけ?)ゆったりと過ごした。

それから近くの訪問先へ伺い商談した後、高円寺へと向かった。

高円寺はその昔、ぱちか村と言うアジアンなお店があり、良くライブをさせてもらったりしていた懐かしい街だ。今はなきぱちか村。あのご夫婦は今はどこにいるのだろう?そう言えば東京時代に会っていた人たちは今も元気に暮らしているのだろうか?小沢健二の《ぼくらが旅に出る理由》の歌詞のように、みんなの幸せを願っている。

遠くまで旅する人たちに
あふれる幸せを祈るよ
ぼくらの住むこの世界では
旅に出る理由があり
誰もみな手をふってはしばし別れる

ぼくらが旅に出る理由/小沢健二


アポはとっていなかったが、新規の商談先へ訪問し、小一時間お話しした。創業75年の昔ながらの地元密着のお店で、老夫婦が営んでいた。永く続けて頂きたい。
時間は15時になっていた。

それから歩いてた途中に見つけたお店に飛び込みで営業したりして、少し早かったが早起きして疲れていたこともあり、仕事を早めに切り上げて、高円寺に来たら絶対行きたいと思っていたレコード屋《Los Apaon?》へ向かった。
歩くこと15分、それはあった。

念願のお店ロスアプソン

中には店主のヤマベケイジさんが居た。変態なレコードやCD、それから手づくりのMIXCDたち、Tシャツなどがひしめき合っていた。僕が関わっているEXPE氏によるWA NO WAのCDも置いてあった。
ヤマベケイジさんと言えば冒頭にも書いた伝説のバイヤー荒木陽路美さんと同じWAVEの元バイヤーさんだ。当時WAVEはそういったセンスのあるバイヤーさんたちが新しい音楽を紹介する東京のアンテナ基地的な情報発信の場だった。今のようにインターネットが普及していない時代の影響力は計り知れない。

いろいろと物色した結果、ここでしか買えないヤマベケイジさんが選曲したMIXCDと以前から気になっていたDJ HOLIDAYのクリスマスMIXCDを買った。

それから古着屋を見たりして疲れもあったので早々にホテルへチェックインするため新宿御苑前へ向かった。

時間は4時すぎ。喉が渇いてたこともあり、とりあえずホテル近くのサンマルクカフェでコーヒーを飲んだ。まだこの時間だと言うのに商談をしたり打ち合わせをするサラリーマンやパソコンで仕事をする人などたくさんの客で賑わっていた。となりでは病院コンサルタントの人たちがCSなど訳のわからない単語を並べて会話している。とにかく東京のエネルギッシュな部分を凝縮したような空間だった。ある意味パワーのある人しか住めない街、元気な街東京、それがここに集約されていた。

とりあえずホテルに到着してから疲れを癒すべく早速大浴場へ行った。僕はなるべく大浴場があるビジネスホテルを取るようにしている。部屋のユニットバスでは疲れが取れないし、なんだか寂しい気分になるからだ。
温泉ではないが準温泉という温泉はじゅうぶんに疲れを癒してくれた。
それからしばらく部屋でくつろいでから夜に近場の居酒屋へとひとり繰り出した。前から気になっていた鶏料理のお店だ。

大衆酒場 鶏の素揚げほしの

中はサラリーマンたちで賑わっていた。なかなかの騒がしさだったが、お店の調理場の音も含めてこれもBGMにしてしまおう。
バイスの焼酎割りと、ここの名物らしき白レバーのたたき、それからモツ煮込みを頼んだ。

先に通された白レバーは鮮度が良く臭みのない素晴らしいお味だった。レバーが新鮮なお店は間違いないというのが僕の持論だ。ゴマ油と塩、それからニンニク醤油ダレがまた良い。そしてお次はモツ煮込み。濃くもないちょうどいい味付けで上品な味。一味をパパッと振りかければ完成系。それから追加でこの店の名物とされる、つくねを生ピーマンで。う〜ん。つくねの美味しさに加えピーマンの食感がたまらない。いいじゃないかいいじゃないか!気分はもう井之頭五郎だ。

白レバーのたたき鮮度バツグン!
旨みたっぷりモツ煮
つくねと生ピーマン。これが絶品!

他にも店の看板、鶏の素揚げというメニューもあったのだが次回の楽しみにとっておいた。
帰り道にコンビニでビールとスパムおにぎりを買いホテルでもう一杯飲んだ。スパムおにぎりは味が濃くてイマイチだった。沖縄で食べたスパムおにぎりは高菜みたい(チキナー)なのが入っててもっと美味かったな。

そしてほろ酔いでベッドに潜り込み、リリーフランキーさんが出ているドラマ《ペンション恋は桃色シーズン2》を観ながら気がついたら眠っていた。

つづく。

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