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不思議な家2

同じクラスの美里のお父さんは有名な小児科医で、診察以外の日はテレビや講演などの仕事であまり家にはいなかったが、会うといつも笑顔で挨拶をしてくれた。
 美里が学校に来なくなったのは、中学一年生の冬休み明けだ。教室の中でちょっとしたトラブルがあって、その日以来一度も学校にはきてない。私は美里の家の近所だったので、いつも宿題のプリントや連絡ノートを届けに行った。そして美里の部屋に入り、お喋りやゲームをして遊んで帰った。でもたいていは美里と二人で壁に耳を当て、継母たちの話を聞いていたのだ。美里の継母には近所に住んでいる母親がいて、いつも15時過ぎにドタドタとチャイムも鳴らさず入って来た。そして忘れもしないその日、私と美里はいつものように壁に耳を当てていた。
「あの子の母親、川に飛び込んで遺体で発見されたらしいよ」
「母さんなんでそんなこと知ってるの」
「タバコ屋だよ。しょっちゅう買い物に来てたんだってさ」
「母さん、そのことは先生には言わないで。同情して美里を甘やかすから、その話は絶対したらダメだよ。あの子にはもうこの家にいてほしくないんだよ」
美里は反応も示さず他人事みたいに聞いていた。壁の向こうからは下品な笑い声が聞こえてくる。
「でも母さん、先生はいつも美人薄命と言って私のこと心配してるのにさ、あの女が先に死ぬなんて、ブス薄命だよね。写真は全部捨てたけどさ、美里と同じ顔でみったくないったらありゃしない」
「そりゃああんたは、学校のミスコンで優勝したくらいだからねー。母さんの自慢の娘さ」
 私は小さい声で美里に訊いた。
「あの子の母親って、美里の本当のお母さんでしょ」
 美里は「うん」とだけ言って、私の顔を見た。その顔はいつもの美里とは違って見えた。そして徐に収納棚を開けた。収納棚の中は、もう一つの部屋ができるくらい広く、横になれるくらいのソファーが置いてあり、ぬいぐるみやクッションがたくさんあった。次に美里は収納棚の扉を閉めて、押入れの戸を開けた。押入れの壁は針の刺さった継母の写真が至る場所に貼ってあり、巨大な藁人形には、継母の名前が書いてあった。
私はびっくりして体が震えた。美里は「びっくりさせてごめんね」と言って、窓から川を眺めていた。そして私は「じゃあまた」といつもと同じように帰ろうとすると、美里が振り向いて、微笑んだ。
「もう一つの秘密の部屋、今度見せるね」
私は頷いて家を出た。でもその後、その秘密の部屋は見ることはなかった。
卒業アルバムを届けに行ったら、美里の家には継母と継母のお母さんと美里のお父さんと、新しくできた赤ちゃんが暮らしていて、美里はいなかった。






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