【短編】鎌

 昨日、隣の家の前田さんが亡くなった。 
 一昨日には、向かいの家の佐藤さんが亡くなった。
 一週間前は左の家の柏さん家族三人が亡くなった。
 じゃあ次はそろそろ家だろう。
 私は迫りくる死神が、常に首元を狩ろうとしているように感じていた。
 夕暮れ時、仕事帰りで、てくてく駅から家へと歩く。
 車たちは絶え間なく轟音を出して、私のすぐ横を風切っていく。本当に危ない。
 以前まではたくさん人がいたのに、最近はやけに道を歩く人が少ない。
 あれ、ここどこだ。
 聞こえていた轟音は車ではなく、川の流れる音だった。
 ってあれ? あんなところに子供がいる。
 その河原には、こちらを気にすることなく石を積み続ける少女がいた。
 その少女の横を過ぎて、とりあえず進む。
 私の家…、どこだ?
 わからなくてぶらぶら歩いていると、川の向こうから私を呼ぶ声がした。
 「…野さん。川野さんっ。こっちこっち」
 どこかで聞いたことのある声だ。
 「ほら、こっち来なよ」
 私が声のした方を向くと、そこには川に沿うように、五人が並んでいた。
 が、ぼやけて顔までよく見えない。
 明らかに腰の曲がった老人と、小さな子が一人、あと三人の大人達。そのシルエットでいるのがわかった。
 私は得も言われぬ安心感を覚えて、その川を渡ろうと一歩踏み入れた。
 途端に足をすくわれて思い切り流される。水に頭が浸かり呼吸ができなくなっていく。どんどん意識も薄れていく。
 あ、まずい―。
 「大丈夫ですか?」
 私が目覚めたのは病室だった。
 腹には二箇所、刺し傷があるようで少し傷んだ。
 首にかけられた鎌は、いつの間にか外れていた。


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