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「飲食人」としての原点を振り返る。

私のマイミッションのひとつに「飲食業、サービス業の社会的地位向上」というものがあります。昔から大切にしている考え方なのですが、実はこれ、ある方の意思を引き継いだものなのです。

私が19歳の頃、当時調理師学校を卒業して、なかなか仕事がフィットしていなかったと感じていた時に近所である求人看板を目にしました。「ベーカリーレストランサンマルク新規出店!正社員・アルバイト募集」 サンマルクは当時かなり勢いがあったチェーンで、お洒落なカジュアルダイニングブームのはしりといえる存在でもありました、ピアノの生演奏が聞ける開放感のある空間で、フレンチをアレンジしたコース料理と一緒に焼き立てパンを味わえると大人気のレストランだったのです。当時既に全国に20店舗程度展開しており、100席程度の大箱で繁盛店の月商はなんと3,000万!そんな業態でした。それが近所にできるとあって私は迷わずに応募しました。どうしても働きたかったので、フレンチでギャルソンをやっていた(実際は皿洗い)と嘘をついて採用されました(笑)
お店のオープニングスタッフは、社員は4名。アルバイトスタッフは約50名。セクションもホール/キッチン/ベーカリー/ショップと4つありまさに大所帯でした。
グランドオープンに向けて研修が進む中で、各セクションの連携がなかなかうまく取れず、このままではオープンがヤバいんじゃないかとアルバイトにささやかれる中、ついにオープン前日を迎えてしまったのです。そうすると当時の店長であったMさんが研修を中断して、全スタッフをホールに集めました。
そして次のように話し始めたのです。

「みなさん、私たちのお店は明日オープンします。不安なことも沢山あると思いますが、一人ひとりが愛情を持って接すれば必ず相手に伝わります。自信を持ちましょう。私たちにはきっとそれができます。そして、自分の仕事に誇りと自信を持ってください。レストラン業というものはとてもやりがいのある素晴らしい業種です。それぞれのテーブルでの食事には沢山の物語があります。そしてお客様が豊かな時間を過ごすのを私たちは目の前で見守ることができ、私たちの努力次第で喜んでいただいたり、時には感動していただくこともあります。こんなに面白い仕事が他にあると思いますか?日本での飲食業の社会的地位はまだまだ良いとは言えません。欧米のように優秀なサービスマンにチップを渡すような文化はありません。ただ、私自身飲食人としてこの現状が悔しいし、より多くの方に飲食で働く素晴らしさを伝えたい。なので、このお店を地域でNO1のお店にしたいんです。そのためにはみなさんの力が必要です。みんなが自分の仕事を誇れる。そんなお店にしていきましょう。」

M店長のこの話の後、お店の雰囲気と結束力が大きく変わったと感じました。そして私自身も「そうなりたい」と強く思うようになったのです。グランドオープン後、最初の週末に予算を大きく超える数字を叩き、閉店後の打ち上げでみんなで泣きながらグラスを交わしたのを昨日のことのように覚えています。

時は流れ、私が働いていたベーカリーレストランサンマルク柏の葉公園店は2022年末に23年間の歴史に幕を下ろしました。(最後は、オープニングスタッフでもあった私の友人が店長をしていました。) 2010年頃よりサンマルク業態の他店が鎌倉パスタなどの新業態に多く転換される中、長くに渡り営業を継続できていた背景には創業当時のM店長、そしてスタッフの熱が継承され、地域に必要とされ続けていたからではないかと私は感じています。
そう、お店に魂は宿るのです。M店長はお店を去り、今はお店もありませんが私はその想いを、「情熱」を引継ぎました。そして今、「飲食業、サービス業の社会的地位の向上」をマイミッションのひとつにしています。

私自身、長い飲食人生の中で、沢山の経営者や偉大な先輩方の考え方に大きな影響を受け、今日までやってこれました。これからは次の世代へそれらの想いを継承していくことが、私の使命だと感じております。

今、飲食業を取り巻く環境は大きく変化し、以前と比べても選ばれ難い業種となっております。

しかし、私は声を大にして言いたい。「飲食業、サービス業ほど素晴らしい職業は他にはない。もっと自信を持って働こう。」そして、自分の「情熱」は必ず誰かに伝わると信じています。

読んでいただきありがとうございます。

Onward With Love ー愛を持って前へー

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