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女性医師の恋愛話  恋が始まりそうになると自分でうまくいかなくしてしまう女医

■恋の話があると呼び出しをしてくる先輩


病院で働いていると、院内のスタッフ同士の話も聞こえてくるものです。昔の話ではありますが、こんなことがありました。

「ちょっと。今日さ、2人きりで飲みに行かない?」
「えー。わかりましたよ。奥さんに了解得てからですからね」
ある先輩女性医師からのお酒のお誘いがありました。当時の私は結婚をしていたので、ちゃんと飲みに行く時には奥さんに連絡を取ってからにしています。なぜなら、先輩がこんな話をしてくるときは、決まって長酒になるからです。

「ねぇ。実はさ、スッゴイいい人がいたの」
「へー。どんな人なんですか?」
「それはね。検査技師の男の子なの」
「え? 同業ですか?いいじゃないですか。うちの病院なんですか?」
「ううん。違うの。どこで知り合ったんだと思う?」

先輩はもったいぶった言い方をしてきます。仕事中の先輩であれば、私がもったいぶったような言い方をしていると、すぐに「まず結論から言いなさい!」と怒りますし、単刀直入に結論から「休みが欲しいです」というと、「理由は何!?」ときつい言葉で言ってきます。それなのに、お酒が入り、プライベート……とくに恋愛の話になると、全く性格が変わってしまうのです。

「えー。わからないです。合コンですか?」
「うふふ。違うわよ。エコーの研修会よ。手先が綺麗だったから話しかけたら、気があっちゃったのよ。それでね。約束して映画を観て食事したのよ。でもね‥」

いつもそうなのですが、先輩は恋が始まって、うまくいきそうになると、自分からうまくいかないようにしちゃうのでした。

■状況が純粋な恋愛を邪魔している


そんな先輩は実は大病院の院長の大事な一人娘さんです。産婦人科開業医の私の父と先輩のお父様が知り合いなので、それとなく事情は知っているのですが、先輩の父親は結婚相手には婿養子に入って欲しいし、医師として跡を継いでくれることを望んでいます。だから先輩はこれまで何度かお見合いもされているのですが、好きな人と結婚をしたいのです。

お見合い相手の男性でいい人がいても、最初から腰が引けていて、社交辞令でお見合いしたんですよー。とか、恋が始まり恋人になれたとしても、先輩が医師の家系だとわかると相手がしり込みをし、途端に仲がこじれてしまい、「またいつものパターンだ……」ということを繰り返しています。

そう。相手から断られてしまうのです。個人的にも、やっぱり奥さんが色々とすごい人であれば、よわよわメンタルの私ではやっていけません。

「最後の最後に裏切られたくないのよ」
だから先輩はせっかく恋が始まりそうなのに、連絡とらないようにしたり、冷たくしたりして、自分でうまくいかなくしてしまうのです。

■強い先輩も本当は弱い


毎日毎日、素晴らしい仕事をしていて見上げている存在なのに、恋愛に関しては臆病な先輩。環境がそうさせているところもありますが、不憫でなりません。だからと言って、おこがましくて私自身が志願することもできませんが……。

だから私は先輩が話すのを、いつも黙って聞いています。トイレに立つのも憚られるので、私は最初の1杯をちびちび。ビール発祥の地であるヨーロッパは寒いから、ビールはぬるいそうですが、キンキンに冷えたビールはほろ苦い白湯のようです。

たまに酔った先輩に同じ話を聞かされるのは苦痛ですし、前に話したのに聞いてなかったの!と言われてしまうこともあるので、相槌も適当にはできません。それでも辛いことがあれば、吐き出して楽になって欲しいと思うので、私は先輩に付き合っています。

酒に酔った先輩は、徒然草にもある久米仙人が女性の脚に見惚れて神通力を失ったように、私の心を惑わします。帰る時はいっつも鋼メンタルな先輩が酔い潰れていて、私は先輩を背負っているのですが、そんな時の彼女はとても軽くて折れそうなほど細いのでした。

恋が始まっても自分からうまくいかなくしてしまう。切ないですね。

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