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チョコレートブラウンの板塀の家 3

愛理の家族構成

父 明夫(愛理が年長組の時他界)
母 アキヨ
長女 長子
次女 愛理
長男 雄介

捨て猫と湿った布団

愛理は、授業が終わると自宅の方に帰る友達(雪)と一緒にいた。
雪は徒歩通学なので、バス通学だった愛理が乗るバスの運転手さんに見つかるはずはないと思った。

ランドセルを並べて懐かしい道を、久々に雪と大声で戯れながら帰った。
雪の家の前で別れを告げた後、愛理は誰もいない自宅へと、興奮気味に駆け出していた。

ミャーオ!ミューン〜
子猫の鳴き声がして近寄ると、草叢で子猫が1匹震えていた。愛理は優しく抱き上げ、自宅へ連れ帰った。鍵の隠し場所は知っていた。あたりを見回して、ドキドキしながら鍵穴に差し込んだ。そして、玄関脇のガスボンベの元栓を少し開いた。

声をかけてみる。「ただいまあ~!」
「・・・・・・・」シーンと静まり返った空気がやけに冷たく感じた。
母も姉も居るはず無いと分かっていたがやはり涙が出た。気を取り直して愛理は、玄関を入ると広い三和土に子猫をそっと置いた。

台所に入り、ガスのスイッチを回してみる。点いた!
一旦火を止めて米櫃の蓋を開けて、お茶碗に少しだけ掬い取った。見様見真似で米を洗い、味噌汁用の鍋に、取り敢えず沢山の水と米を入れて、もう一度火を点けた。

何度も吹きこぼれそうになりながら、なんとかお粥らしきものが出来上がった。そのころには、外は暗くなっていた。美味しそうに食べる子猫を見つめて、愛理は自分も空腹である事に気がついた。残りのお粥をお塩だけで食べた。

赤木家の家族は皆優しく接してくれるのだが、生活環境への不満と郷愁は抑えようもなかった。お腹が少し膨らむと眠気が襲ってきた。ウツラウツラしていると、玄関のガラス戸が開く音がした。
(もしや、怖い人?)震えながら、中の間---今で言う居間---と愛理の部屋を隔てる襖の影に隠れた。

「誰かおるんかい?」隣のおじさんの声だ!
「泥棒かもしれんよ!」おばさんの声もする。
愛理は幾分安堵しながらそして仕方なく、「こんばんは」と出迎えた。
居間の電気を灯していたので、不審に思った燐家の人がやってきたのだ。

「あれー!愛ちゃんでないの。どうしたん?お母さん退院するの?」
叔父の家から脱走してきたとは言えず、モジモジしながら俯いた。
おじさんは愛理だと分かると何も言わずに帰って行った。

おばさんは、愛理の様子で何となく事情を察してくれたのか、「赤木さんとこの電話番号わかる?」と聞いてきた。
愛理は、渋々、母から入院するときに渡されたメモ用紙を、ランドセルから取り出し差し出した。

おばさんはチラッと時計を見た。9時前になっていた。「ちょっと電話借りるからね」とメモをみながらダイヤルを回した。遠く離れていても、赤木家の混乱ぶりが、燐家の人たちには手に取るように見えたに違いない。
「今夜は愛ちゃんちで、寝かしてあげてな。明日学校に迎えに行ってあげてはくれんかねえ」


愛理は、寝る準備を整えてやると言うおばさんの好意を固辞し、鍵をかけ1人になった。
きっと、可愛げのない子供だったに違いない。久しぶりの自分の布団は少し湿気ているような気がしたが、拾ってきた子猫と横になり朝まで熟睡した。

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