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チョコレートブラウンの板塀の家

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記憶の中の人達 愛理の思い通りには動いてくれません。
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チョコレートブラウンの板塀の家 5

突如現れた板塀 遠い昔に思いを馳せながら、雄介は獣道かと思われる坂を草を掻き分けながら登って行った。 突然視界が開けた先には、アスファルトで舗装された広い道の向こう側に、チョコレートブラウンの板塀に囲まれた大きな白い家が建っていた。 雄介は頭の中に幾つものクエスチョンマークを散らばせねばならなかった。四駆を乗り捨てた辺りには(大きな道らしきものは無かった筈だが?)と、辺りを見回しても他に家はない。道に迷ったのだろうか? 雄介が幼いころの赤木家は、生け垣に囲まれた古い家だ

チョコレートブラウンの板塀の家 4

長子他所の子になる 長女の長子は、読書が好きでいつも本を読んでいた。愛理や雄介が遊びに誘っても、歳が離れているせいもあり殆ど相手にしてもらえなかった。 父の明夫は、長子に野山を駆け回るような活動的な子になって欲しいからか、外に誘おうと模索していた。 長子が、小学校に上がる前くらいまで、父親の弟の宗次が一緒に暮らしていた。宗次も書物を読み漁り、殆ど一日中離れに籠っていた。叔父を慕っていた長子は、多分にその影響を受けて育ったと言う。 愛理は、父の葬儀の時に、金バッチを胸にム

チョコレートブラウンの板塀の家 3

愛理の家族構成 父 明夫(愛理が年長組の時他界) 母 アキヨ 長女 長子 次女 愛理 長男 雄介 捨て猫と湿った布団 愛理は、授業が終わると自宅の方に帰る友達(雪)と一緒にいた。 雪は徒歩通学なので、バス通学だった愛理が乗るバスの運転手さんに見つかるはずはないと思った。 ランドセルを並べて懐かしい道を、久々に雪と大声で戯れながら帰った。 雪の家の前で別れを告げた後、愛理は誰もいない自宅へと、興奮気味に駆け出していた。 ミャーオ!ミューン〜 子猫の鳴き声がして近寄ると

チョコレートブラウンの板塀の家 2

叔父(赤木)の家の家族構成 叔父さん 啓介 おばさん 美津子 長男   実 次男   真也 三男   三男 愛理の失踪「実は家にいて!真也と三男は沢の方見て来て!誰かに出会ったらきいてよ!」 雄介は、美津子の悲鳴のような声に飛び起きた。いつの間に寝てしまったのだろう、さっきまで従兄弟達と遊んでいたのに。 雄介がむっくり起き上がりキョトンとしていると、「愛ちゃんが帰ってこないのよ。お友達はみんな帰って来たのに」と慌てたおばさんの声が隣の部屋で聞こえた。叔父さんの啓介に電話

チョコレートブラウンの板塀の家 1

第1章  雄介と愛理、長子の幼少期 山道に苦戦 山間の新緑の木の葉の間からキラキラと落ちてくる木漏れ日。 雄介は汗ばんだ額に手を当てて目を細めた。 薄緑の幼い葉達はまだ小さすぎて十分に日除けの役割を果たすことができない。隣の常緑樹の葉は、嬉しいことに雄介の日傘となり、そよぐ風は巨木の吐息にも感じられる。 深い緑の4輪駆動は、先細る道に阻まれ、途中で乗り捨てるしか無かった。車2台程かろうじて停められる空地のある沢の所から、すでに40分歩いている。道に迷ったのだろうか。子