書評①(世界インフレと戦争~恒久戦時経済への道~)


世界インフレと戦争~恒久戦時経済への道~のP48までの要約です。外交と経済の要約はなかなかムズイ。どこも内容を削れないというのが正直な感想。しかし、本書は著者の地政経済学を色濃く出た書籍で示唆に富む内容である。ここで重要なのは、特に世の中の情勢の理解には大変な努力と知性が必要だということである。


グローバリズムの終焉

ロシアのウクライナへの侵攻をもって、グローバリゼーションは終わった。これは、世界のエリートの認識となった。世界の投資会社や経済学者などは既にこのことを相次いで述べている。
グローバリゼーションはいつ終わったのか。それは2008年である。そもそも、グローバリゼーションとは、貿易、投資、人、情報、思想の国境を越えた移動が活発になることを意味している。グローバリゼーションの進展度合いは、世界の貿易開放度(世界のGDPに占める輸出入の合計の比率)で測られるが、2008年をピークに漸減している。つまり、リーマンショックにより、グローバリズムの進展が止まった。そして、コロナにより急激下がり、ウクライナ侵攻により、グローバリズムが崩壊したのである。

リベラリズムの破綻

冷戦後、アメリカは「リベラリズム」の理論に基づく戦略を採用した。リベラリズムとは、「民主主義や貿易の自由などの普遍的な価値観を広め、国際的なルールや国際機関を通じた国際協調を推し進めれば、平和で安定した国際秩序が実現するという理論」である。アメリカは、民主化や貿易の自由化を強いる覇権国家の地位に就く「リベラル覇権戦略」を採用した。
しかし、リベラリズムには、民主化すれば平和になることや、自由貿易による経済的相互依存が戦争を抑止するということはあり得ないという、理論的な欠陥があった。そして、アメリカには、他国に民主化や自由貿易を押し付ける覇権国家たるパワーがないという致命的な欠陥があった。
例えば、イラク戦争などにより中東のパワーバランスを崩してしまい、民主化どころではなくなってしまった。
また、中国のWTOの加盟へ協力するなど、リベラリズム体制に組み込もうとしたが、かえって、権威主義体制を強化され、2010年代に台湾への威嚇を行うなど、東アジアの軍事バランスを崩してしまった。
更に、ウクライナ侵攻もオバマ政権時代のヤヌコヴィッチ政権に対する抗議運動が起きた際、親米政権を樹立するため、抗議運動の支援を行ったことが遠因の一つとなっている。

リベラリズム覇権の経済的影響

リベラリズム覇権戦略によって、グローバリズムが進展が進んだ帰結として、経済的には金融市場のグローバル化によってバブルの発生や格差拡大が発生し、排外主義が高まった。
リベラリズム覇権戦略の破綻後は、資源などを用意に入手できなくなるため、インフレが発生する。そのため、現下のインフレはなかなか沈静化することはないだろう。

日本の安全保障政策はどうだったか

現状の状況においても、日本の政策担当者は依然としてグローバリズムは終わったという状況を認識できていない。そのため、リベラリズムやグローバリズムを前提として政策を推し進めている。
外交面においては、イラク戦争に参加を表明することや各種政府要人の発言が、リベラリズム的であることからうかがえる。
財政面においては、2010年代日本の防衛費は横ばいで推移しており、中国は10倍以上とは対照的である。リベラル覇権戦略が終わった2008年以降には、新たな国家戦略が必要だったにもかかわらずである。アメリカの軍事に頼ることができなくなる可能性を考慮して、自国の安全保障を強化しなければならないにもかかわらず、それを軽視し、ありもしない財源論、財政破綻論(自国通貨を発行する国家が破綻することはない)を採用したのである。
通商面ではTPPに批准するなど、自由貿易を進めた。安全保障上必要との意見もあるが、先ほど述べたとおり、経済相互依存を深めたところで戦争がなくなるわけではないし、安全保障を高めたいなら防衛費を増額すればよいのである。さらに、トランプ政権だけでなく、バイデン政権においてもTPPに加入していないということが、この自由貿易の無益さを表しているのではないだろうか。ちなみに、TPPに加盟しない理由は米国内の格差を拡大させるおそれがあるとのことである。そして、関税の引き下げにより食料安全保障の弱体化を招くおそれがある。
また、電力エネルギーにおいても、電力の発送電の分離より発電と送電の一体管理の不可能化や競争の激化による、電力共有の不安定化や送電インフラの長期投資の困難化や原子力発電の停止による火力発電依存など、電力エネルギー安全保障の弱体化を進めた
以上より、リベラル覇権戦略の破綻が起きた2010年代の日本は、安全保障を弱体化する方向の政策が採られてきたことがわかる。つまり、従来の政策から方向を変えることができなかったのである。
将来の歴史は、如何に愚かな選択を日本がしたと書き記すこととなるだろう。

今後の日本命運を握るものとは

今後、地域ブロックごとに地域覇権国家が生まれる可能がある。そうなった場合、アジアにおいては中国がその地位にとなる。日本はその属国的地位に甘んじることとなるだろう。
それが嫌なのであれば、我々に今できることは、2008年以降の世界の潮流を理解し、2010年代の政策の失敗を素直に認め、新たな認識の下、国家戦略を作っていくことなのである。


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