書評⑥世界インフレと戦争~恒久戦時経済への道~

P130~168までの要約です。あと一息です。

主流派経済学の理論

2022年のインフレはコストプッシュインフレの性格が強い。しかし、FRBは本来デマンドプルインフレの対策である利上げを実施した。なぜこのようなことが起きるのか。それは、いわゆる主流派経済学の理論が背景にある。
主流派経済学は「一般均衡理論」(経済全体の市場の需要と供給が、価格メカニズムを通じて、常に位置するという理論)に基づいて体系づけられている経済理論である。これは「セーの法則(供給は、常に需要を生み出す)」、生産物は常に他の生産物と交換できるという想定、つまり物々交換を世界を前提と置いている。
そのような世界の中で、貨幣の役割は財貨の交換比率としての名目価値を決定するという役割のみを与えられるとされている。(貨幣のヴェール観)
銀行は貸出を通じて預金という通貨を供給する役割を担っている。預金通貨の供給量は、民間銀行が中央銀行に設ける準備預金の量によって制約され、中央銀行は準備預金の操作によって、貨幣の供給量を決定する。貨幣を外部から供給されることを「外生的貨幣供給理論」という。
こうした貨幣理論は1970年のスタグフレーションをよく説明していた。貨幣供給量を制御することによって、インフレを制御することができるというものである。しかし、制御しても深刻な景気後退、失業の増加などが発生し、更に、貨幣供給量とインフレは相関しない事態が1980年代に発生した。
そのため、金融政策の主要な目標を物価の安定(インフレの制御)とし、中央銀行が金利を操作することでインフレを制御できるとする理論が発展し、主流派経済学者と金融当局の共通理解となり、「ニューコンセンサス」と呼ばれた。
主流派経済学は、金利の操作によって需要管理をし、インフレを抑制できるとしている点で、コストプッシュインフレを想定していないことや財政政政策を軽視している問題があり、2020年代のインフレにうまく対応できていない。
つまり、この理論は致命的な誤りがある。それは、貸付資金説という事実に反する貨幣論を前提に論を展開しているからである。貨幣は集めてきた預金を借り手に貸し出すのではなく、借り手に貸し出すことで預金を創造しているのである。これは信用創造という理論である。そして、この理論に基づいて体系づけらているポストケインズ派こそ新たな理論といえる。

ポストケインズ主義

ポストケインズ主義は貨幣の供給する主体を銀行とし、企業の資金需要に応じて供給する内生的貨幣供給理論に立脚する。この理論から導けることは以下のとおりである。
〇返済できる借り手の需要がある限り、銀行は、無制限に貸し出しを行うことができる。
〇中央銀行の貸し出し先である政府においては、強制的な徴税能力があるため返済能力は絶対的にあるため、中央銀行は制約なく貨幣の発行を行うことができる。
〇財政赤字の拡大は貨幣供給量の増加、縮小は貨幣供給量の減少
〇通貨は納税義務の解消という需要があり、事前に通貨を発行し、供給することで税を徴収しており、貨幣を創造し供給することが先なのである。
〇中央銀行は無制限に通貨を発行できるため、変動相場制において自国通貨建てで発行された国債でデフォルト(財政破綻)することはない。
以上から、ポストケインズ主義は「需要が供給を生む」ということが理論の帰結となる。
また、ハイパーインフレの危険についても、歴史上①社会的・政治的な内戦などによる混乱②戦争による生産能力の破壊③徴税能力の弱い政府④多額の外貨(金)による対外債務(非自国建て)によるものであり、ほぼコストプッシュインフレによるものである。
ポストケインズ主義は、2020年代の実物資源の制約によるコストプッシュインフレに対しては、資源を動員してある程度緩和することを示した点において大きな意味がある。




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