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来週の相場見通し(10/16~10/20)

1.はじめに

今週は簡易版です。また、週末に用事があることや、24時間後から中東情勢が緊迫化することから、今週はスピード重視で急いで発信します。
中東での地政学リスクが先週末に発生してから、足元まで、とりあえず市場では次のことが確認された。
① 中東地政学リスクは、市場のリスクオフを引き起こしていない。
② 米金利上昇は、ポジション調整により、大幅に金利が低下した。
③ FRBメンバーから、長期金利上昇を理由にハト派的な発言が相次いだ。
④ 米国債の入札は全て冴えず、需給不安は改善していない。
⑤ 米国や欧州などは、イスラエルの今後のハマスへの報復を承認。

この5点について、それぞれ確認しながら、今後のポイントを整理していこう。

2.中東リスク発生後の市場動向

① リスクオフは起きず

中東リスクが発生した。ガザ地区を実効支配するハマスがイスラエルに侵入し、イスラエルや外国の民間人を殺害し、更には人質としてガザ地区に連行した。市場の初動としては、株安、金利低下、原油高で反応し、「リスクオフもどき」の展開となった。しかし、市場はすぐに落ち着きを取り戻している。何故か?それは、市場がイスラエルとハマスの戦争については「地域戦争」と解釈したからだ。もちろん、今回のハマスの攻撃は、これまでとは全くインパクトの異なる大規模なものであり、イスラエルが受けた衝撃は大きい。しかし、市場ではイスラエルとハマスの戦争に留まる間は、国際金融市場への影響はなし、すなわち「青信号」と捉えている。何故なら、イスラエルとハマスでは戦力に圧倒的な差があるからだ。加えて、この地域が産油地域でないからだ。ちなみに戦線が拡大し、レバノンのヒズボラが参戦すると、「黄色信号」となり、更にイランとイスラエルの戦争になれば、完全な「赤信号」だ。

しかし、いくら今の段階が「青信号」だとしても、株高で反応することには違和感があるかもしれない。これは、中東の地政学リスクが発生する直前に、米金利上昇から株式市場では大きな調整が発生しており、水準的に買いやすかったことや、この後で説明するがFRBからハト派的な発言が相次いで金利が低下したこと、更にはタイミング的に米国の決算発表シーズンに入ったことが効いていると考える。

② 米金利の低下について

今週は米金利に注目すべき動きが確認された。まずは下のチャートを確認しておこう。オレンジ色が米国10年金利の推移であり、青い線が5年先5年のフォワード金利の推移だ。

上のグラフの5年先5年フォワードに注目してほしい。今年の春から7月頃までは、3.5%を中心に上下20bp程度で静かに推移していた。その間に10年金利が上昇する局面もあったが、5年先5年レートは安定していた。しかし、8月頃から5年先5年金利は、それまでのレンジを超えて、どんどん上昇している。更に9月以降は勢いを加速させている。つまり、夏場以降からの米長期金利の急上昇の大半は、5年先5年フォワードレートの上昇で説明がついてしまう。5年先の5年金利が上昇するということは、中立金利が上昇していたり、リスクプレミアムが上昇しているということだ。この辺については、前回のレポートで詳しく記載したので、ここでは省略する。そして、米長期金利が5%に迫り、30年金利が一時5%を超える中で、急にFRBのメンバーが長期金利の水準そのものや、タームプレミアムについて相次いで言及を始めた。ところで、FRBのメンバーは、どうして長期金利の上昇を理由にハト派的なコメントを開始したのだろうか?FRBメンバーは、「長期金利の上昇により、市場の環境は引き締まっており、利上げの必要性がなくなる」等の発言をしている。しかし、本当に市場環境はそれほど引き締まっていたのだろうか?幾つかのチャートで確認してみよう。下のチャートは、シカゴ連銀の金融コンディション指数であるが、金融環境がタイトになっている状況は見られない。

(Chicago Financial Condition Index)

セントルイス連銀のストレス指数も、小幅に上昇しているものの、大きなストレスがある状態ではない。

(St Louis FRB Stress Index)

投資的適格債のスプレッドも、非常に安定している。

(投資適格債スプレッド)

ストレスを受けているのは、まずは住宅市場だ。下のチャートのように住宅ローン金利は7.5%を超えてきた。これは厳しい。

(米国住宅ローン金利)

債券市場もボラティリティが9月のFOMC以降に急激に上昇し、それなりのストレスを受けている。

(MOVE指数)

こうして俯瞰すると、FRBは債券市場が一段と売り込まれて、メルトダウン的に崩れ、金利が急上昇する展開を防止したかったように見える。金融市場の安定はFRBの責務だ。そうだとすると、「米金利の上昇→FRBの利上げの代替」という話ではなく、「米金利の一段の上昇→債券市場の不安定化へのFRBの牽制」という構図になる。もし、後者が真の理由であるなら、債券投資家にとっては、非常に心強い。市場に「5%を超える長期金利上昇をFRBは望んでいない」という空気が拡大すると、これまで様子見姿勢だった投資家がリスクを取りやすくなるからだ。もちろん、FRBが特定の水準を示すようなことはあり得ない。市場の方で解釈して、そういう空気が漂うかどうかである。私は、今週はそういうムードが少し漂ったと考えている。だから、これまでの債券先物売りのポジションや、スティープナーのポジションが、一部手仕舞いになり、金利が大きく低下したのだ。もちろん、中東での地政学リスクにより、債券売りのプレイヤーには逆風になったことも大きいが、FRBの微妙な変化に、市場が反応したと思われる。少なくとも、ここまでの米金利の低下の要因は、「質への逃避」ではなく、「ポジション調整」と考えるべきだろう。

それでも債券市場の不安定さは、まだ改善していない。今週は3年債、10年債、30年債の入札が実施されたが、その全てで冴えない結果となった。特に30年債については最終投資家需要が急激に低下し、かなり弱い結果となった。

(米国10年債 最終投資家需要)
(米国30年債 最終投資家需要)

こうした状況であることから、米金利の低下も大きくは見込めない。やはり注目は、5年先5年金利の動向であろう。FRBが長期金利の上昇に言及したことによる効果で、FOMC後の金利上昇分が剥落するなら、米10年金利は4.3%程度には低下するかもしれない。しかし、4%を割り込むためには、5年先5年フォワード金利が下のチャートの紫の安定レンジに戻る必要があるだろう。3.5%を中心としたレンジだ。しかし、中立金利の上昇やらリスクプレミアムへの懸念がある中では、それは難しいと考える。もちろん、中東リスクが拡大し、本格的なリスクオフになるのであれば、10年金利はあっさり4%を割れるだろうが・・・

3.中東リスクは、まだ安心できない。

中東リスクについては、先にも述べたが、今のところ市場は地域戦争と解釈しており、国際金融市場には影響を及ぼしていない。しかし、まだ安心できない。リスクの本格化は、これからだからだ。この週末は、非常に注目となるだろう。
① イスラエルは挙国一致内閣を設置し、ハマスの殲滅を宣言した。
イスラエルが戦時内閣を設置したのは、1973年の第4次中東戦争以来だ。これは、これから当面は戦争の勝利が最優先課題となり、全てのリソースを、この報復戦争につぎ込むことを意味する。そして、ガザに地上戦力を投入し、徹底的にハマスを壊滅させるということだ。特に今回は、野党も加わった戦時内閣であり、誰が一番厳しくハマスを殲滅させるかという権力闘争も兼ねている。恐らくは、イスラエルはやり過ぎるだろう。そして、相当な被害がパレスチナに出ることは必至だ。米国や欧州はイスラエル支持を明確にしたということは、そういう大規模な報復攻撃と、パレスチナ人の被害を認めたということでもある。
余談だが、このイスラエルとパレスチナ問題について、その善悪について、日本でも色々な識者が議論していたりする。しかし、私に言えることは、今回のハマスの行為は酷いということと、これまでの歴史的な経緯は日本人の我々に口を挟めることは、ほとんどないということだけだ。例えば、外国人が日本の侍の切腹の是非を議論したり、天皇制の在り方について、ごちゃごちゃ言ったところで、何の意味もない。中東のような難しいナイーブな問題に、日本人が言えることなんて、あるのだろうか?英国とかフランスとか、とんでもない偽善をしたねとは言えるかもしれないが・・・

② イスラエルは24時間以内にガザ北部から退避を警告
24時間経過後には、地上戦から開始される。そして、退避警告をしたので、そこにいる人間に対しては、民間人とかハマスとかの区別はしない。残っている人間=ハマスの戦闘員=殲滅となる。しかし、この地域には100万人のパレスチナ人がいる。100万人が24時間で退避することは不可能だ。ハマスは民間人に入り込んでいる。戦闘員のみならず、様々な職を営む人も、ハマスだったりする。もともと、イスラエルは誰がハマスで、誰が民間人かを区別することは無理だ。ゆえに、24時間後は全滅させる勢いで攻撃するのだろう。ガザ地区のパレスチナ人200万人のうち、15歳未満が人口の41%を占めるらしい。若者も相当死ぬことになる。ガザ地区は電力も供給がストップしているので、ガザ地区の被害状況がSNSにどの程度アップされるかは分からないが、世界のアラブ人、イスラム教徒の各地での反ユダヤデモを引き起こすかもしれない。東京でもイスラエル大使館前で抗議デモが起こっているようだが、欧州、特にフランスなどでは、大規模なデモが起こるだろう。

③ ヒズボラは動くのか?
ヒズボラとイスラエルは2006年に34日間の大規模な戦闘を行っている。これも単にイスラエルとヒズボラの戦闘なら、地域戦争の域を出ないだろう。しかし、市場的にはこの段階で「黄色信号」だ。ちなみにヒズボラの参戦とは、ロケット弾等を打ち込むことではない。そういう戦闘は、日常的に発生している。ここで言う戦争とは、ヒズボラの地上部隊がイスラエル北部に侵攻して地上戦が行われる状況だ。タイミングとしては、イスラエル地上軍がガザに侵攻したら、ヒズボラも侵攻する可能性が最も高い。まずは、それが起こるのか?そして起こったときに、ヒズボラはどの程度の本気度で兵力を投入してくるのか?そして、イスラエルはこれを撃退できるのか?ここが最初のポイントになりそうだ。下のチャートはイスラエルのCDSである。水準としては、驚くレベルではないが、跳ね上がっている。ヒズボラが参戦してくると、更に跳ね上がることになりそうだ。

④ 不測の事態

2014年にロシアがクリミア侵攻をした後、ウクライナ東部で戦闘が継続していたが、そんな最中にマレーシア航空撃墜事件が発生してしまった。戦争は、あのような不測の事態を引き起こすリスクがある。特に、今回の中東の場合は、イスラエルとハマスだけでなく、先のヒズボラ、そしてイランからヒズボラへの支援を容認しているシリアのアサド政権、近隣のエジプト、そしてこの地域の最大の脅威であるイランなどプレイヤーも多く、何か突発的な事件から、戦争が拡大してしまうリスクは無視できないものがある。

つまり、何を言いたいかといえば、これから24時間後にイスラエルが地上戦を開始し、それを合図に中東の地政学リスクが最初の正念場を迎えるということだ。そして、来週月曜日の東京市場が、最も早くそのリスクを消化しなければならない。
こうした状況なので、CPI後には米長期金利は上昇したものの、ここ数日は上がらないだろう。この週末にそういうリスクがある中で、慎重な債券プレイヤーが、新たに米債をショートにするとは思えないからだ。株式市場は、そうしたリスクが実際に顕在化するまでは、決算などに目を向けるため、あまり関係ないかもしれない。
週末に余裕があれば、第二弾として米銀決算や来週のポイントを出すかもしれないが、ちょっと今週は無理かもしれません。いずれにしても、海外出張される人は、デモに巻き込まれないようにご注意ください!

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