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【掌編小説】宇宙検問所


 地球の軌道上に浮かぶ宇宙ステーションに、長旅を終えた宇宙船がドッキングした。そして大小の様々な形状をしたエイリアンたちが続々と検問所に入ってくる。
 チーフ検問官のジャックは、かけた暗いサングラスの裏で目を光らせながらその様子を黙々と監視していた。
 そして行列の中、ある一体のエイリアンがソワソワしているのに気がついた。クジラのような大きな瞳と銀色の皮膚を持つヴスタ星人だ。目が大きいから、目が泳いでいるのがはっきりと分かる。
 いよいよそのエイリアンの番になった。大きな輪の形をした検知器の中をゆっくりと通る。何の音も鳴らない。
 だがジャックは長年の経験から、この星人が何かを隠しているように思えてならなかった。特にあの目は、あっちこっちを見回しているのに、自分の左腕の方だけは見ないようにしている。
 ジャックが近寄り、通訳機を介して声をかけた。
「左腕を前に出してください」
 ヴスタ星人がビクッとする。「え、なぜ?」
「前に出せない理由でもあるのですか?」
「いや・・・」
「じゃあ、どうぞ」
 ヴスタ星人が恐る恐る腕を出した。
 ジャックはすかさず隣のロボットに命令し、その腕を掴ませた。
「何をするんだ!」ヴスタ星人が叫ぶ。
「あなたの種族の皮膚は検知器の電波を跳ね返す性質があります。しかしその腕の中に何かを隠し持っている可能性があるため、これから腕を切断します」
「なんだと?」ヴスタ星人は驚愕した表情で、左腕以外の体をくねらせながら叫んだ。「それは知的生命体基本権利の侵害だ!」
「いいえ。惑星間の取締法で、ヴスタ星人の頭以外の切断は許されています。ではいきますよ」
 ジャックはそう言い放つと、取り出したレーザーカッターで肘と手首の間を躊躇なく切り落とした。
「ギャー」という叫び声と同時に、切断された腕の断面から緑色の血がドバっと噴き出る。そして、白い粉の入ったビニール袋がこぼれ落ちた。
 ジャックはそれを拾いながらニヤッとした。「これは何ですか?」
「痛い、痛い、痛い!」
 ヴスタ星人はそう連呼し、答えようとしない。
「これ、成分調査して」と、ジャックは他の検問官に袋を渡し、ロボットにはヴスタ星人を別室へ連れて行くように命令した。
 叫びながら連行されていく様子を眺めていると、ヴスタ星人の切断されたところから銀色の新たな腕が生えてくるのが見えた。
 袋を腕に入れる時も同じように切っただろうに、そんな騒ぐなって・・・
 ジャックはそう思いながら、行列に視線を移した。後ろの方にいる、鳥顔のバクスト星人二体がイライラした感じで首を小刻みに動かしている。
 うむ、ヴスタ星人はただの運び屋で、あれが黒幕の監視役ってところかな。取調室で訊問してみるか。やれやれ、今日も仕事が長くなりそうだ・・・
 ジャックはため息をつきながら、もう一年も帰えれていない窓の外の地球を見上げた。

 

<完>


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