見出し画像

日本人の映画の捉え方を端的に表しているエピソードをご紹介します。
現在はNetflixやアマゾンプライムビデオ等でのネット配信での視聴が自宅映画鑑賞における概ねの主流ですが、レンタルビデオ全盛時代が約35年間位、映画の2次利用としてのプラットフォームの大きな主体的役割を果たしていました。
その牽引企業はTSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブでした。ライブラリーの充実度は町のレンタルショップとは段違いのクオリティに、上京したての頃訪れた新宿店やガーデンプレイス登場後の恵比寿店では閲覧するだけで不思議な満足感に浸れたものです。
店舗内レイアウトの試みで、話題の作品を全面に推して、その関連や類似的、傾向が近い作品を中心にした構成を軸に、基本は作品タイトルはあいうえお順がスタンダードだったのかなと思い起こします。
あるタイミングで全国的か主要店舗のみかは忘れたのですが、監督別にまとめてレイアウトする期間を設けたところ、レンタル回転率が落ちてしまったため俳優別にレイアウトし直したら回転率が元に戻ったという話を聞きました。
新宿店は元々監督別と作品スタイル別のレイアウトだったので、独自性が際立っていた印象がありますが、一般的には結局、日本人の映画鑑賞の軸はストーリーや質感以前に役者で観る観ないの基準が成立しているという、分かりやすい物差しが存在している証のように感じたものです。

一般ユーザーにはどのような映画かではなく、誰が出ているかの方が重要なのです。
この傾向を推し進めていくと、どうしても予定調和の作品に仕上がります。役者のイメージを堅守する許容範囲内の企画が優先されてしまうからです。勿論、役者の力量に作品が左右されるのは必定ですが、ある種のマーケティング理論で作られる映画の核とは何かを推察するならば、‘みんなで売れる作品にしよう、大ヒット目標で!’この合言葉を共有する以外のものづくりの情熱が見当たらないのは、私は正直寂しい気がします。
商業映画を作る以上ヒットを目指すのは当然なので、世の中の傾向を把握して手を打つ事を否定はしませんが、メジャーにはメジャーの矜恃が少なくとも昭和の折に数々の歴史的名作群の坩堝であった一時代を築いた事実は否定できない筈です。
映画史において、1940年代の統計でフランスとアメリカに次いで日本は映画製作本数の多さを誇っていました。つまり戦時中を挟んで多くのプロパガンダ映画も作られたとは言え、映画先進国だったのです。こうした点は現在あまり知られていませんが、世界の映画作家が日本映画からインスパイアを受けていたことは疑う余地がありません。

ここで私は提言したいのですが、今、作品至上主義に立ち返るべきではないかと考えます。最善の企画に最善のキャスティングという真当なスタンスを重視します。
ミニシアターが現在、その役割を唯一担っているとは言え、作られている映画の製作環境は資金的に潤沢なものではなく、高い志が支えであり、ケースによってはインディペンデントでの経験を経てメジャー転進が功を奏すもメジャーの姿勢やスタンスに失望する状況は数知れずです。
スタッフ、キャストの育成が喫緊の課題であるならば、単なるリメイクでもなく世情に迎合するでもない、オリジナルの力を育み突き詰める企画の登場をメジャーはもっと意識すべきと思います。

https://www.ycam.jp/cinema/2022/at-my-feet/

金子雅和監督『リング・ワンダリング』
2月の東京イメージフォーラムを皮切りにこれまで全国40館にて上映、反響も大きく、リピーター多数輩出の公開継続中です。
本作品についてはこのnoteのアーカイブにいろいろ書き綴っておりますので、そちらもご参照ください。

そして、山口県に『リング・ワンダリング』が戻ってきます!

9/17(土)から9/22(木)まで、ycam山口情報芸術センターにて5日間の限定公開となります。そして期間中の18日(日)上映終了後18時55分より作品紹介、魅力解説の舞台挨拶をさせていただきます。
先に見逃した方、またご覧なりたい方には絶好の機会ですので、どうぞお越しくださいませ。
心よりお待ち申し上げます。

そして私が作品選定に携わっております下関名画座も次回は9月24日(土)になります。
上映作品は『女と男のいる鋪道』4kデジタルリマスターとなります。
待望のゴダール作品を下関で上映させていただきます

先にミシェル・ルグランの特集上映で公開されていますが、単独では非常に貴重な機会となります。
こちらもお楽しみに!
素敵な企画も考案中です。

お問い合わせは弊社・㈱cineposまでお知らせください(083-242-1868)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?