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【前編】平日に東京から草津に行って、温泉とグルメを満喫してみた

この文章は、令和四年六月ニ一日から二二日にかけての旅の記録だが、あえて文字だけで記すこととする。
この時代に動画という手段をあえて選ばず、自分の想像力によって文字から旅を創りあげたい、という殊勝な心掛けを持つ読者に捧げるためである。

出発~草津到着

旅の始発点は東京駅。JR上野東京ラインにて、群馬県の高崎に向けて10:09に出発。やはり平日ということで、車内はかなり空いている。会社員らしき人と学生らしき人がポツポツといる程度である。
席に座るのも余裕である。運転席のすぐ後ろの座席に座り、進行方向の景色を楽しむ。運転手は女性。その横に、先輩だろうか、男性の乗務員さんがいる。もうある程度大丈夫という確信があるのか、ふたりとも、どこかのんびりした雰囲気である。
4分ほど走り、上野駅に到着。上野駅周辺は、なんだか大正から昭和のにおいが立ち昇るかのようだ。東京には、日本の近代以降を象徴する魅力的な駅がある。それが嬉しい。

前回の名古屋旅の際には、神奈川方面に向けて出発した電車の車窓から見える景色は割とすぐに、丘の斜面に家が立ち並ぶというものになった。が、今回の内陸方面の旅では、赤羽、浦和と平坦な土地が続く印象。ベッドタウンとしてたくさんの人が住んでいるのであろう、一軒家も集合住宅も多い。

東京駅から1時間ほど、電車に揺られる。北鴻巣あたりに差し掛かる。このあたりだと畑や水田も増えてくる。
だが、一面に広がる水田や連なる山々、といった決定的な田舎の景色もまだ、ない。関東というのは平野なのだ。という記憶の片隅にあったその知識に、魂が吹き込まれる。
熊谷の次の籠原という駅で、前方の5両が切り離されるため、少々停車する。後ろの車両に移動。この「移動」という文字を打とうとして、5回ほど「いもう」と打って直したのだが、そんなことはどうでもいいだろう。

11:45頃、深谷と岡部の間を走行。やはりこのあたりは畑が多い。あれは深谷名物のネギだろうか。それともとうもろこしだろうか。背の高い植物が育っていた。
このような景色が、しばらく続く。この辺りから急に山が見えてくる。出発から1時間40分、いよいよ群馬に近づいていることを感じる。
だが、本庄を過ぎると田畑は見えなくなり、代わりに住宅が現れる。住宅の次は車の工場やその他大きな工場だ。静岡にもこのようや地帯があったが、東京から離れた場所に、こういった工業地帯がある。

群馬県と埼玉県の県境にほど近い新町駅に到着し、電車のドアが開いたのはちょうど12時だった。東京から1時間50分。
そして、12:11、高崎に到着。私の記憶が正しければ、私が自分の意志で群馬の地を踏んだのはこれがはじめてである。

次に乗るべき電車が出るまで26分間あるため、ここで駅弁を食べようと決める。
駅弁屋では、店員のおばちゃんがおそらく弁当の特長を説明してくれていたが、声が小さくてひとつも聞き取れない。こういった些細なことが、案外思い出になったりするのだ。ともあれ、ここでは自分の感覚に従ってとりめし弁当を購入。
前回の名古屋旅では乗り換えの間に食べ終わるか終わらないかのギリギリだったため、ベンチですぐに食べる。鶏照焼やつくね、味噌を含んだ鶏そぼろのごはんが、美味であった。

12:37、JR両毛線に乗り換え、高崎駅を出発。こっちが前かなと思って乗った車両が最後尾の車両だったが、そのまま乗る。

12:47、新前橋駅に到着。ここからJR吾妻(あがつま)線に乗って、長野原草津口駅を目指す。
しばらく電車に揺られていると、景色はもはや、さっきまでの関東の平野ではない。山々が連なり、日本の土地の中心軸が感じられるような景色になってくる。

13:11、渋川駅に到着。ここは伊香保温泉に近い場所のようだ。駅にも温泉地の写真が大きく貼ってあった。いつか伊香保にも行ってみたい。
それから電車に揺られること約1時間。長野原草津口駅に到着。山の空気のうまいことうまいこと。
5分でバスに乗り換える。草津を目指して山を登っていく。山の中の川は迫力がある。荒々しく剥き出した岩肌の下を流れる川は、自然の力強さそのものだ。

そして14:59、草津バスターミナルに到着。空気がひんやりしていて寒い!持ってきた上着を着る。天気はくもり。気温は20度程度。はじめての場所は気温も予測しにくい。東京からここまでの運賃は3790円。

昼。草津を散歩~「温泉街」の驚き

まず、かの有名な「湯畑」に行く予定だったが、バスターミナルの3階に「温泉図書館」というものがあったため、まずそこに行ってみた。
そこは一見普通の図書館なのだが、端の方には草津の街や温泉設備に関する資料も置いてある。
明治や大正時代の草津の写真からは、当時から今と同じように宿や浴場がたくさんあったことがわかる。
また、中学生以上の男子たち100人くらいが浴場に集合した様子の写真もあった。上裸で映っている少年たちは一様に筋肉質だ。湯もみによってここまでの肉体が養われたのだろうか。当時の日本人の多くがそうだが、ただ筋肉質なだけでなく、筋が一本通ったような美しく強い身体をしていた。

ひととおり資料を見て、いよいよ湯畑に移動。案外硫黄のにおいしないなー、と思っていたが、湯畑が見えてきたあたりでしっかりとにおってきた。
においを感じつつ坂を下ると、ついに湯畑と対面。25メートルプールよりも少し大きいだろうか。絶えず温泉が湧き出、それが「湯樋(ゆどい)」と呼ばれる湯を冷ますための設備をとおり、「湯滝」によって下方の池に流されている。湯畑から湧くお湯は毎分4,400リットルで、温度は55.7℃だそう。そこから常に湯気が立ち昇る。湯はエメラルドグリーンに見える(後でよく見てみると、湯が流れている岩がエメラルドグリーンに変色しているようだ。酸によって溶かされているということだと思うのだが、こんなにきれいな色に変化するのが驚きである)。また、温泉成分が結晶化した「湯の花」と呼ばれる白い物質も大きな存在感を放ちながら浮いている。これはすごい光景だ。

わたしは温泉街という場所をはじめて訪れたのだが、こんな文化が日本にあったのかと驚く。街のさまざまな場所で湯気が上がり、温泉が吹き出している。温泉が出すぎて、道が濡れているのだ。これには驚いた。

また、湯畑の周りにある石の柵には、草津を訪れた代表的な人物の名前と、その人が訪れた年が載っている。例えば、織田信長の武将であった丹羽長秀は1582年、あるいは鎌倉幕府をつくった源頼朝は1193年、小説家の志賀直哉は1904年、といった具合だ。
ちなみに漫画『テルマエ・ロマエ』の主人公、ルシウス・モデストゥスは架空の出来事ながら2014年に草津に来たようだ。架空の人物で唯一の例外だが、この人の名も石の柱に刻まれていた。

時刻は15:30頃。食事がしたい。釜飯が有名だというので、そのお店「いいやま亭」に行ってみるが、まさかの定休日。残念。
代わりに、近くのうどん屋に行ってみる。揚げもちうどんを食べる。おいしい。ただ、店内にでかい蜂のような虫が飛んでいてとても怖かった。

食べ終わった。宿のチェックインまでまだ時間があるので、少し散歩をする。入りたい露天風呂がある「西の河原公園」の方に向かう。
その途中におもしろいものがあるらしく、期待しながら歩く。
私の好きなYouTubeチャンネルである『山田玲司のヤングサンデー』の動画にて紹介されていたのだが、西の河原公園に向かう途中に、そのお店の前を通るたびに何度でも温泉まんじゅうをくれるおじさんたち、「まんじゅうやくざ」がいるというのだ。

もちろん冗談だが、実際に、3人のおじさんが道の真ん中近くに立って、まんじゅうとお茶を配りまくっていた。
もちろんもらって食べた。とてもおいしかったので、お店に入り、6個入りを買う。
ちなみに温泉まんじゅうというのは、特に味や入っているものが違うでもなく、普通のまんじゅうだった。

しかし、さっきは寒いと思ったが、ご飯を食べたのと少し歩いたのと、何より熱い湯が湧き出ているからだろう、かなりあたたかく感じるようになった。

西の河原公園に着く。川が流れる音がする。しかし近づいてみて驚いた。川の色が、さっきの湯畑と同じエメラルドグリーンで、しかも湯気を上げている。
なんと、温泉が川になって流れているのだ。
奥に向かって歩いていくと、あちこちにお湯が溜まっている小さな池があった。そのまま足湯もできるようになっていた。
これが人工的にデザインされたものなのか、自然にできたものなのかは知らない。しかしとてつもない量の温泉が湧いていることは事実だ。火山国であり、たくさんの断層の上に位置する日本が秘めたエネルギー。これは東京ではなかなか体験できない。まさに異世界体験であった。
ちなみに、トップの画像は西の河原公園で撮ったものだ。

公園内をさらに進み、西の河原露天風呂の入口まで行ってみた。しかしなんと!施設のメンテナンスでわたしが訪れたの週の平日はすべて休館日となっていた。ショック!

とはいえ、ここまで異世界体験を満喫できたので、ひとまず宿へ向かう。
チェックインを済ませ部屋へ。宿の支払いはpaypayで行うことができた。草津はpaypayが使えるお店・施設が多いため、わたしは嬉しい。さて、宿の部屋はすっきりしている。窓が空いているため、ほのかに硫黄のにおいもする。
ちょっと昼寝をして、温泉ビギナーのわたしでも入れそうな温泉を検索し、外へ。
先程の動画で紹介されていた「地蔵乃湯」や「煮川乃湯」は貴重品を預けるロッカーがなかったりお湯の温度が激熱だったりしたため、ビギナーに優しそうな「御座之湯」に行くことにした。

夕方。「御座之湯」で湯につかる~旅の出会い

御座之湯は、江戸から明治にかけて湯畑周辺にあった共同湯を再建したものだ。源頼朝が狩りに来た際に座った石が草津にあったということからこの名がついたという説もあり、なんだか得した気分になる。
鉄骨が組まれていたのと、すでに暗くなりかけていたため外観はよく見えなかったが、中に入ると、当時を模したと思しき木造建築の暖かく柔らかい優しさに包まれる。これはリッチな体験だ。

軽く体を洗い、湯に入る。
熱い。まずは膝下だけ入れる。
慣れてきたので、腰までつかる。
さらに慣れてきたので、肩まで入ってみる。
お、意外といけるものだ・・・いや、それどころか、とてつもなく気持ちがいい。快感である。
わたしは小さい頃から、熱い風呂が苦手だった。今でも家ではシャワーで済ます。夏には37℃のシャワーを浴びるくらいだ。
そんなわたしでも、この温泉は、そう、大好きだ。まさに極楽。これは他の温泉にも期待が高まる。

そう思っていたときのこと

"Can you speak English?"

と尋ねられた。

今日一番の驚き。驚きのあまり
「う、うーん、あ、あ、little」
というと、その外国人観光客の方が質問してきた。
どうやら、この2階のスペースを利用するには、エクストラの料金が必要なのか?と聞いているようだ。

よかった、その答えなら知っている。御座之湯の二階には、スーパー銭湯によくあるような畳敷きの休憩スペースがある。そこはご自由に使えますというのをさっき読んだ。
わたしは、単語を並べてそのことを伝えた。
すると相手の方も、私が少しは話せると思ったのか、草津は日本で一番の温泉なの?といったことを聞いてきた。
わたしは、
「別府とか下呂も有名だけど、やっぱり草津がNo.1じゃないかな、maybe」
と単語を並べてたどたどしく答えた。なんて言っているのかはだいたいわかるが、言いたいことを伝えるのが難しい。
ちなみにその方は、別府は知っているけど下呂は知らないらしい。三重と名古屋は知っていたが、岐阜は知らない、ということがわかった。

話していると、かなり日本の温泉に詳しい様子。
彼はオーストラリアの出身で、ニュージーランドにもボルケーノがあって温泉が出るんだよ、草津は今回がはじめてなんだ、ということを話した。
単語から相手の言いたいことを推測し、こちらも数少ない手持ちの単語を使ってコミュニケーションを取る。割と言いたいことは伝わったようである。
「伝わった」ということがわかったときは、やはり嬉しいものだ。日本人と話していると通じて当たり前だが、こうやって日本語の通じない相手と話してみると、自分も赤ちゃんのときはこうやってなんとなくの試行錯誤で言葉を覚えたのかな、と思う。
旅に出ると、予想もしないことが起こる。計画を立てて行くのも楽しいし、予想外のことも楽しい。

そうやって話していると、のぼせてきていることに気づいた。これ以上入っていると頭がくらくらして危ないと思ったため、もう満足したから出るねと伝えて湯を出る。草津では、湯を流さないことが効能の最大化のために重要らしい。

体を拭いて、さっき話していた二階の休憩スペースに行く。ここにも古い写真がたくさんある。文化史はおもしろい。ひとり旅だからこそ、じっくりとその土地と文化、そしてそれを感じる自分に向き合える。至福のときかもしれない。

夜。「龍燕」に行きたい+「地蔵之湯」

休憩し、時刻は18:55になる。そろそろ夜ご飯かなと思いつつ、まだ少し明るさの残るうちに、他の浴場の位置も確認しておきたいと思い、歩く。
先程の動画で「地蔵乃湯」という温泉が、「J-popのような温泉」と紹介されている。どういうことだろう。とにかく位置を確認する。着いていろいろ見てみると、地蔵乃湯は無料のようだ。建物の前の道も温泉の湯で濡れている。夜ご飯を食べたあと、行ってみよう。

夜ご飯は、中華料理屋の「龍燕」へ。ここは、シュウマイとビールがとんでもなくおいしいと、先程の動画で紹介されていた。
19:30頃にお店へ。しかし「もう終わっちゃんだんです」とのこと。確かお店の入口に掛かっていた札には21時ラストオーダーと書いてあったような気がしたので、「もう!?」と驚きと落胆を隠せないが、気持ちを切り替え、近くにあった中華料理屋で、酢豚とビールを食べた。
さらに、焼き鳥屋で牛タン串とねぎまを注文。これは食べ歩きできるものだ。特に牛タンがおいしい。夜は満足。

さて、ロッカーがないという地蔵乃湯へ向かおう。まず、宿に財布や鍵などを置く。
また、せっかくなので宿泊した場合部屋に置いてある浴衣に着替え、タオルだけを持ち、出発。余談だが、わたしは浴衣がよく似合うと思う。

地蔵乃湯に到着。なるほど、ロッカーどころか、脱衣所さえない。靴を脱ぎ玄関をあがり引き戸を開けると、もう湯船がある。そして湯船の横に棚があるため、脱いだら即入浴(その前にかけ湯をして体を慣らし、きれいにする必要はあるが)、という仕組みだ。これまた異文化体験をした。

さて「J-popのような湯」とはどんな湯だろうか。幸い、現在浴場にいるのはわたしだけだ。じっくりと味わおう。期待が高まる。
かけ湯をして、まずは手でお湯に触れてみる。熱い。これは熱い。しかしさっきの経験上、だんだん慣れて、次第に快感に変わるのではないか。

次に膝まで入れてみる。熱い。とても我慢できない。否、もう一度。熱い。熱すぎる。
・・・これは、入れそうもない。
しかしこのまま帰るもの損した気がするから、手でお湯をすくって体にかけまくる。
これで少しは草津の湯の効果を得られたのではないだろうか。

釈然としない想いを抱えたまま、宿に戻る。まさかの雨。タオルで頭を隠しながら小走りで戻る。

いやぁ、いろいろあった日だった。明日は何をしよう。そうだ、今のところグルメに関しては「満喫」とまではいっていないので、このままではタイトルと内容が合わなくなってしまう。龍燕は明日の昼、開店と同時に行くとしよう・・・。

後編はこちら


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