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真心込めて作りました

「もうこんな時間なの!?ずいぶんかかっちゃったなあ。待ちくたびれちゃったよね、本当にごめんね!もう少しだけ待っててくれる?」

そう言って謝る申し訳なさそうな彼女の声はいつも通り可愛らしい。忙しそうにバタバタと動き回っている。

「いろいろ探し回って、これだ!ってなって、今日のために用意してきたから、あなたもきっと喜んでくれると思うんだよね」

嬉々として自分のしてきた事を話す彼女の笑顔は普段通りにきらきら輝いていた。僕のためにご飯を作ったり、掃除をしたり、本当に良く尽くしてくれる誇らしい彼女だった。

「永くいるところだから、妥協せずに慎重に決めたんだよ。たくさん人が来てうるさい所とか、かといって何もない殺風景な所は嫌だよね?」

不規則なはずなのに、どこか整然と立ち並ぶ木々。光を浴びてきらめく森。遊びに来るだけならどんなに良かっただろう。

ここまでずっと、部屋で手料理を振る舞うような感覚で話し続けている彼女だが、その手には、無邪気な笑顔には似つかわしくない、大きなスコップ。

作っているのは大きな穴。
僕を埋めるための大きな大きな穴。

「あなたが気に入ってくれる場所を探して、道具を買っておいたんだ。いざ掘るだけだったけど、なかなか地面って固いんだね。でももう少しで良い深さになるよ」

ただ君と一緒にいられれば僕は幸せだった。
でも君はそうじゃなかったんだね。
誰にも渡さない、誰にも見られたくない。
独占欲の塊だった君は一思いに僕の命を奪い去った。永遠に自分のものにしておくために。

「あなたのために、丹精込めて掘ってるよ。愛情たっぷり込めて深く深く。誰にも届かないくらい。これでずっと一緒にいられるね。あなたも嬉しいでしょう?」

もう動くことのない僕の顔をうっとりと見つめながら、心を込めて穴を掘る、僕の大好きだった彼女。

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