見出し画像

営業の達人

少し古いお話で恐縮ですが・・・

以前、
私の勤める会社に出入りする印刷会社に
T社のワタナベさんという人がいた。

当時私の会社は
制作、マーケティング、
媒体、営業
総務
とフロアが三つに分かれていたのだが、

このワタナベさんと言う人は不思議な人で

なぜか、
直接の発注部門である制作部以外の、
他のフロアにも頻繁に出入りしていた。

毎日いるわけではないが、
ふと気がつくと

総務部でお茶を飲んでいたり
媒体部で見本誌の週刊誌を読んでいたり
営業と世間話をしていたり

という具合。
(まだ、セキュリティが緩かった時代のこと、今からは信じられないかもですが、外部の方もある程度の場所まで、社内に出入りできたのです)


このワタナベさんという人、

外見は
クリエイティブな鋭い雰囲気はゼロ。
顔は布袋さんのようで
いつも笑顔で、愛想のよい
典型的な人の好いおじさんタイプだった。

とは言え、
誰もが彼の相手を積極的にするワケではない。

話しかけられる人間によっては、
邪険に扱うこともあるが

そんなことがあっても
ワタナベさんはニコニコして
いつの間にか他の人と話をしている。

当時の私も、

うっとおしいひとだな~。
こんな所でいつもさぼっていて大丈夫なのかな~。

と、内心いつもそう思っていた。

そう言えば、こんなこともあった。

あるとき、彼とエレベーターで一緒に乗り合わせたとき
「おたくのMさん、今度結婚するんだってね」
「えっ!?」と私。

Mさんは私の先輩でいつも一緒に仕事をさせて頂いていたが、
そのことを私は全く知らなかった。
しかも社内結婚だとか・・・。
ビックリして
すぐ後で本人に確認すると
それは正真正銘の事実で
まだ、社内でも大っぴらには告げてないとのことだった。

ワタナベさん、恐るべし・・・とは思ったが、
他人の会社のことをこんなに知ってどうするんだろう?
と、寧ろ呆れたものだ。

そんなこんなで、

視界のどこかに不思議と
ワタナベさんが映っている毎日を送っていたのだが


あるとき、
制作のプロデューサーとお茶を飲んでいるとき
彼が言ったことで、
初めてワタナベさんの凄さが分かった。

「ワタナベさんって不思議な人だよね。

何か印刷物を作らなくちゃ、
どこかに頼まなくちゃ、って思うタイミングに、

必ず、その場にいるんだよね」

ビックリした。

印刷の仕事は、
営業がクライアントからとってきて
制作が窓口になって発注するパターンが殆どだ。

つまり
最上流の営業の様子をつかんでおけば、
川下のクリエイティブにどのタイミングで
仕事が下りてくるか、わかるというわけだ。

もしかして
ワタナベさんって、

①どのクライアントの担当営業が誰かということを常に押えて、

②その人間の仕事の状況を随時チェックして

③仕事が出そうな時にクリエイティブに顔を出す、

そんなことを、やってたんじゃないか???

世間話はそのための営業活動?

そう気が付いたのだ。

考えてみたら、この

「必要な時にその場にいる」

ということは、最高の「営業力」である。

このことは、
印刷会社だけに限ったものではなく、
我々広告会社にも実は言えることだ。

特定の広告会社しか出来ない業務と言うのは案外少ない。
普段は意外とつまらない用事、急ぎの用事が多くて
クライアントからすると
すぐに誰かに頼んで自分の手から離してしまいたいって仕事が多いのだ。

そうした仕事(ときにはただの用事)をキャッチし続けていると、
自然と人間関係や貸し借りもでき、
時に大きな仕事も発生していく、という流れは確かにある。

自分に他にない能力やネタがあれば、
こんなことに気を配ることはないのかもしれないが、
明らかに
競合代理店より後手をひいている場合、
提供できる情報力や提案力が弱い場合、
差がない場合、
特に有効だ。

ワタナベさんは実は「営業の達人」だったのだ。


それからしばらくして、

ある大手クライアントに新規で入ることができたときのこと。

私は「ワタナベさん」になることにした。

その会社は誰が聞いても知っている超大手企業。

大手代理店が複数社、ガチガチに入っているため、
普通の営業活動をやっていても、
単発の新規仕事はあり得ても
ルーティンワークをもらえる関係になれるとは
とても思えなかったからだ。

で、ターゲットを担当者に絞って、
彼からの用事はどんなことでも断らない、
いつどのタイミングで連絡があっても
30分以内に行けるようにすることにした。

新参者の代理店な上、
その会社は大企業でセキュリティはバッチリで、
「いつもそこにいること」は出来ないが
「いつでもすぐに駆けつけること」は出来ると思ったのだ。

これをやると他のクライアントがおざなりになるし、
ときによってはヒマになるが、
そのときは、それを敢えてやった。

なぜなら
その会社はとてつもない大物で
入り込めば必ずでかい仕事になると思ったから。
(このチャンスにどうしても食い込みたかった)
それにくわえて、
たまたま担当者が凄い人で、
彼にくらいつけば
必ず大きな収穫があると見込んだから。
(どこの会社でもこれをやるわけではない)

そしてその結果、
担当者にはとても可愛がって頂くことになり、
他の大手広告会社が手をつけない分野で
それなりのルーティンワークを頂くことができるようになった。
(3年かかりましたけど)

私にはワタナベさんのようなコミュニケーション能力はないが、
出来る範囲で真似をすることはできた。
それを続けた成果が、出たというワケだ。

私は“達人”ワタナベさんのおかげで、

営業にもいろんなやり方がある、ということを教えてもらった。

だから、営業は面白い。



※因みに、
ワタナベさんはやがて別の会社に引き抜かれ、役員かになられたとのこと。


ご同輩、お互い頑張りましょう。



※よろしければ、こちらもご覧ください
広告代理店はイヌと同じだ

この記事が参加している募集

#仕事について話そう

110,008件

#なりたい自分

with ヒューマンホールディングス

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?