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『ぼくらの地球の治し方』

本の紹介や、書評をする人たちは多いのだが、ここでは本を書いた作者について紹介しよう。  

僕がこの「ぼくらの地球の治し方」の著者の藤原さんと出会ったのは3年前になる。僕もネパールで生活し始めてまだ半年ほどで、ネパールについてや、自分が本当に何ができるのかとかあやふやな時だった。  


ネパールの繁華街を歩いていると、知り合いの日本人がいた。その日本人は大学生でネパールの孤児院の支援の活動などをしている。ネパールで何かしている人たちは横の繋がりなどがあり、お互いのことを知っていることが多い。

その大学生が「今から飲み会があるんですけど、よかったら一緒に来ませんか?」と偶然出会えた僕に、胸を小躍りさせながら誘って来た。 


誘ってもらって嬉しいのだけど、大学生の飲み会に自分みたいな、肌ツヤ落ちきっているおじさんが行くのも、申し訳ないなと躊躇っていたのだが「行きましょうよ!行きましょうよ!!」と客引きのような誘惑に流されてしまい行くことになった。

そこには7人くらいの大学生が座席に座っていた。こう若い人たちが一同の姿を見た瞬間に「まずい来なければよかった…」と思ったのだが、席が一列に並んだ誕生日席に、何か異様な人がいた。


それが藤原さんだった。


明らかにもう大学生とは見えない容姿で、奥の席で陣取っていた。 僕が空いていた席がその藤原さんから一番近い席しかなくて、そこに座るしかなかった。

大学生に囲まれるよりは、年齢が近そうな人がいてよかったなと思った。 だが僕が席に座るや否や「お前、でけえな!何センチあるんだ?」と声かけてきた。

初対面で身長を聞かれることは多いのだが、聞き方が問題だ。どぎつい関西弁で人のテリトリーに侵入してこようとする。

「191か2くらいあります」そう答えると「ほんまかいな!ちょっと立ってみ!」と自分に指示をしだす。渋々、席から立つと「でけえな、ジャイアントだな。お前ジャイアントだな!」

失礼極まりない。

これだから大阪の人は…と全ての大阪の人を敵にしたくなる。  


「何やっとたんや。スポーツは」 

「ラグビーです」

「まじか!俺もや!!!ちょっと待った…ジャイアント、お前ロック(ラグビーのポジション)やろ?」  

「はい。そうです」 この人もラグビーやってたのかと思ったが、それ以上にもう僕の名前は「ジャイアント」になったことに胸中、揺らぎるものがるのだが、藤原さんの勢いに飲まれるままになってしまった。


飲み会は大学生のような飲み会だった。

藤原さんがしきり、「一発目はウイスキーのショットや」と全員分のウイスキーが準備された。藤原さんの乾杯の音頭で皆で一気をする羽目になった。 

そして大学生たちがこぞって酒を飲み出し、僕はその姿を見てもう自分はあんな飲み会はできないなと、彼らの若さを憧憬とわずかな嫉妬が入り混じる気持ちで見るしかなかった。

しかし、僕より年齢では上であろう藤原さんは大学生に混じって、一緒に酒を幸せそうに流し込んでいる。

顔色も全く変えずに、飲むほどに酔うほどに大学生たちと打ち解けているようだった。まだ何をしているのか素性の分からない藤原さんだが、出会っての飲み会の姿の数時間だけで自分とは全く違った境遇で生きてきたのだろうとしか思えなかった。  


「ジャイアント飲んでいるか?!」

 藤原さんが僕に酒を勧めてきた。僕はこの雰囲気に押し負けているだけであって、酒自体は嫌いではないし、強い方だとも自負している。

誰のか分からない机に残っていたウイスキーが入ったグラスを手に取り、一気に飲み干した。  

「ジャイアントまだ飲めるんか!そしたらちょっと、二人で飲みに行くぞ!」

 この今の空気に乗れていない僕をなんで呼ぼうとしたのか分からない。だが、僕も断る理由もなかったので、藤原さんと僕は店を替えて二人で飲むことになった。  


「ジャイアント。お前の人生は何かあるだろう?ネパールにいるからでなくて、普通の人とは違った人生歩んできているだろ?ちょっと簡潔にこれまでの事とか話してみ」  

僕は学生時代にラグビーをしていた身長190cmの人間という事以外、何も情報は伝えていないのだが、藤原さんの好奇心を挑発したのか僕の生い立ちについて聞き出そうと、またしてもウイスキーを飲めと勧めてくる。

急に始まった就職面接のように、学生時代はこういう性格でなど話していった。

藤原さんは「ほう、ほう」と頷いてる。藤原さんが求めているものに手応えがあるのか分からないのだが、自分の人生を語り続けた。


途中で「僕は大学を辞めたんです」という話をすると「ほう!」とこれは確実に手応えのある反応を示した。

そしてその後の「大学在学中にちょっと体調こじらせて入院して、その入院時に暇だったので、本書いていて…」という話をした時に「ほう、それや!それや!」と探し物を見つけたかのように、食い気味で話してくる。

「ジャイアント、その本はどこで手に入る?」 

「今、ネパールに数冊ですが持ってきているので、明日渡します」

「それ読めば、大体のジャイアントの事わかるんだな?そしたら、あとは本を読むとして、ジャイアントはどんな本が好きだ?」 

「この人の本は必ず読むなってのは中村文則さんとか、あとは村上龍さんとかも読みますかね。近代文学なら太宰とか三島とか、そこら辺読みますね」 

「なんでその本が好きなんだ?」 

「改めてそう聞かれると難しいのですが、僕は人間の心が描かれている本が好きなんですよね。人間って生きてて楽しいことばかりではなく、みんな見せていないだけで闇って必ずあるじゃないですか?面と向かっては人は見せない姿も本では見えるというか、、そんな感じです」

藤原さんは僕の言葉を酒のツマミにするように酒をさらに飲みだす。 

「実はな、俺もめっちゃ本読むねん。最近色んな人と会話するんだがな、中々こういう話ができなくてさ、久々に本について話せる人と出会えた感じねんな。ジャイアント。お前、歴史の中だったら誰が一番好きだ?」 

「うーん、日露戦争の時の秋山真之ですかね。周囲に流されないで、信念貫いている感じが好きです」

僕がそう話すと藤原さんはさっきよりも嬉しそうな顔をして、今後は自分の好きな本の話をし出した。お酒が回っていうより、久々に本や歴史について話せることが嬉しいようだ。 

「ジャイアント、この本は絶対に読んだほうがいいねん」と言って、どんどんオススメの本を紹介してくる。最終的には本の話から絶対見るべき映画の話になり「シンドラーのリスト」や「ゴッドファーザー」について熱く語っていた。

そんなお互いの好きな本と映画の話をしているともう深夜の2時を回っている。それでも話はまだ尽きない。藤原さんの機嫌もどんどん良くなっている。  


「ジャイアント。俺はこの地球を良くしていかないと感じてるねん。それで今はバングラデシュをメインで活動しているねんな。今回はたまたまネパール来たんだけど、ネパールに来て一番良かったことはジャイアント、お前と会えた事かもしれん」


酒交じりではあるが改まった声で言った。


「そして、ジャイアントにお願いがある。お前は俺の活動に対して批判してほしい。おかしいなと思った事あれば言ってほしいねん。指摘してくれる人がいないと、自分のしている事が正しいかどうか分からなくなる。現地で根付いて生活しているジャイアントの方が、俺より見ている世界が正しい事があると思うねん。だからなんでも言ってほしい」


ネパールに住んでいていて、色んな活動をしている人たちに出会う。自分自身や自分の行なっている活動を誇示する人は多いのだが、自分の弱さを指摘してくれと言った人とは初めて出会った。 


「ジャイアント。お前は大丈夫だ。お前のやりたい事を進んで行って間違いはない。もしお前がこけるような事があれば俺が助けるから平気だ」  


そんな言葉を最後に残して、藤原さんはウイスキーを最後の一滴まで美味しそうに飲みほしていた。  

藤原さんが一体何者なのか?何を信じて、どのように歩んでいたのかが書かれているます。決して人生はカッコいいことばかりではないんです。私は、成功体験ばかり書かれた本を読むよりも、泥臭く人の心が書かれている本の方が好き。 


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