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”北の達人”のラジオ局買収から見る、メディア化するD2C企業

どうも、マーケターのエルモ(@elmo_marketing)です。

昨晩、あるニュースが飛び込んできました。

D2C業界では有名なWEBマーケター、木下社長が経営している「北の達人」が、北海道のラジオ局を買収したというニュースです。

はじめは「へぇ〜、いろんなことに手を出すんだなぁ」くらいに思っていたのですが、よくよく考えてみると、地方ラジオ局の買収はD2Cブランドにとって超クリエイティブな打ち手なんじゃないか?と思えるようになってきました。

個人的には、「その手があったか?!」と頭をトンカチで殴られた気分です。

本日のnoteでは、「なぜ、D2Cブランドがメディア(しかもラジオ)を買収することが戦略的に良い打ち手なのか?」について、超個人的な見解を書いていきます。とくに「D2C企業のメディア買収」という視点で、今回のニュースをみていけたらと思います。


結論を一言で言っておくと、最近のD2Cは「コンテンツビジネスの延長線上に商品がある」がメガトレンドなので、その流れへの打ち手としてラジオ局買収は面白すぎる!って話です。

(※間違っている可能性もあるので、あくまで推察ということでご了承ください)

概要:北の達人「FMノースウェーブ」を子会社化

簡単に、まずは「北の達人」から出ているリリースを載せておきます。

 ※一部抜粋※
 今回の子会社化により、エフエム・ノースウエーブ社が有している音声コンテンツの制作ノウハウと当社が有しているマーケティングノウハウ及び広告運用ノウハウの相互活用等を通じて、「デジタル音声広告(デジタルオーディオアド)」の攻略に取り組んでまいります。このほか、企業ブランド醸成を目的としたラジオ番組の制作や放送による広報活動、当社の想定顧客層に向けた通販ラジオ番組の制作等も検討しており、これらを通じてインターネット購買層以外の新規獲得を図ります。当社及びエフエム・ノースウエーブ社の経営資源の共有、事業提携の強化を通じて、相互にシナジー効果が見込まれることから、より一層の企業価値向上に寄与するものと判断し、このたびの株式取得を実施することといたしました。

 基本は、M&Aの王道となる「自社のノウハウを活かして、買収先(ラジオ局)のビジネスを効率化していく」という話だと思います。

 と同時に、このラジオ局買収は、(そこそこ規模の大きい)D2Cブランドが抱えている課題を解決する一手にもなるのではないか?と直感します。

 何が言いたいかというと、昨今「メディア化を求められているD2C」にとって、ラジオ局買収は面白い戦略になるんじゃないかなと思うわけです。

メディア化を求められるD2Cブランド

実は、D2Cビジネスといっても、大きく2種類あります。

WEB広告で顧客を集めるパターンと、実際に自社(または個人)発信でユーザーと繋がり、彼らに直販でモノを売っていくパターンですね。

※D2Cの集客パターン
1.広告を使って集客する
2.自社(または個人)発信で集客する

昔どこかで、真のD2Cは後者だと木下社長ご自身もおっしゃっていました。前者の方は、広告を介して商品を売るわけで、厳密には「Direct to Consumer」ではないんですね。

説明するまでもなく、ここ数年で勢力を拡大してきているのが2のパターンです。インフルエンサーや影響力が強い人たちが、直接ユーザーと繋がり、直販でビジネスをやっています。

購買のきっかけがソーシャルメディア、しかもSNS広告ではなく、個人(オウンドメディア)になってきているので、相対的にWEB広告の購買比率が落ちてきているわけですね。

つまり、「1.WEB広告」をメインに集客してきたD2C企業は、なかなか苦戦しているというのがD2C業界の実情です。(アメリカも日本も同じ問題に直面しています)。

オウンドメディア(インフルエンサー)ビジネスの限界

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とはいえ、自社発信で新規顧客を獲得し続けるのもまた、茨の道です。

フォロワーやファンに向けて発信をしても、拡大性に乏しく、なかなか新規開拓ができないんですね。WEB広告だと何百万、何千万という新規リーチを得ること自体はそこまで難しくありませんが、オウンドメディア発信だとリーチ力が低く、情報を届けられる量は一気に落ちてしまいます。

インフルエンサーがやる個人商店規模ならまだしも、上場しているD2C企業にとって「ある程度数を追えない」オウンドメディアやSNSマーケティングは、費用対効果が見込めない投資領域になってしまうのです。


かくありまして、数百万、数千万フォロワーを抱える人メガインフルエンサーにタイアップを頼むしかなくなるわけです。(これだと新規リーチがある程度見込めるので。)

つまり、そこそこ大きいD2Cブランドにとって、ソーシャル時代の打ち手は「エンゲージが高く、多くのフォロワーと繋がっているインフルエンサーと組む」がファーストチョイスだったように思います。

そこに、別の打ち手を出してきたのが、「北の達人」です。

すみません、前段が長くなりました......笑

ここがスゴいよ!地方ラジオ局のM&A。

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冷静に考えると、D2Cブランドのメディア買収は、論理的に行き着く打ち手の一つだったりします

どういうことかというと、D2Cブランド(というか全ての企業)は、新しい顧客と繋がる機会・チャネルを常に探し続けています。リスク度外視で言うと、既にユーザーが存在しているメディアを手に入れるというのは、新しい顧客と出会う機会になるわけです。

(※あとは、費用対効果の問題なのですが、ここは買収額が公表されていませんし、自分はその分野の専門でもないので、一旦置いておきます。ただし、地方ラジオ局が、他のあらゆるメディアよりコスパが良さそうであることは言及しておきます。


ここからは、超個人的な見解なのですが、

「音声メディア」である「ラジオ」、「しかも地方局」を北の達人が手に入れたのは、スーパークリエイティブな戦略だと感じます。

というのも、下記3つの観点で、北の達人D2C事業のプラスになるんじゃないか?と考えられるからです。

・いまや地方ラジオも、ネットで全国と繋がっている
・音声メディアは押し売り感が少なく、商売上サステイナブル
・北の達人の広告代理店化(新しいビジネスモデル開拓)

1.地方局でも全国にリーチできるポテンシャル

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(radikoトップページより)

どこのラジオ局もうまく活かしきれていないのが実情だと思うのですが、いまやネットサービス(radiko)を使って、日本全国にコンテンツを届けられることができる時代です。

つまり、

✗:北海道のラジオ局=リスナーは道民
○:北海道のラジオ局でも、リスナーは全国民のポテンシャル

ということなんです。地方ラジオ局のほうがM&Aとして安い買い物になるはずなので、「地方ラジオ局買収」のほうが圧倒的にコスパが良いのも間違いありません。

なので、いま「北の達人」がやっているWEBの商売圏で、これまでと違ったコンテンツマーケティングというアプローチで、新しいお客さんにリーチす流。これが、今回のM&Aの一つの狙いかもしれません。

2.音声メディアは、押し売り感がなく、ブランド毀損しない

次にふたつめが、音声メディアは性質上「押し売り感」が少なく、D2Cブランドにとってサステイナブルではないか?という仮説です。

「北の達人」が得意としているダイレクトマーケティングは、瞬間的に「買いたい気持ち」をユーザーに醸成させ、コンバージョンを発生させるマーケティング手法です。いわゆる販促ですね。

この手法、コアターゲットへの行動喚起力は非常に強いのですが、マイナス面もありまして、その他大勢には不快な気持ちを抱かせる可能性もあります。


かくありまして、同じメディア上で永続的に新規を獲得するのが難しいため、D2Cブランドのメディア買収はリスクが高く、局所的なメディア露出やインフルエンサータイアップが多かったりします。

ただこのデメリットが発生するのは、映像、画像メディアに限る気がしています。

音声は、映像や画像コミュニケーションではないので、人を不快にさせるリスクも低く、エンゲージが高いメディアなんですね。

リーチはほかのメディアに劣るものの、エンゲージが高くサステイナブルなメディアとして、「北の達人」の新集客チャネルになるんじゃないか? 自社で販促も踏まえてメディアを持つのなら、動画やWEBメディアより、実は音声がいいんじゃないかという話でした。

3.マーケティングノウハウの横展開(新しいビジネスの開拓)

 最後は、北の達人のマーケティングノウハウで、ラジオの本業(広告事業)のビジネス効率を加速させる方向です。これは既定路線といいますか、今回のM&Aで最も確度高く、成果が出やすい打ち手じゃないかなと思っています。

旧来メディアのコンテンツメーカーは、作り手がオフライン畑の人たちが多く、コンテンツの「デジタル化・ネット化」になかなか対応できていないのが実態です。そこに、デジタルを得意とする「北の達人」がプロデュースすることで、デジタル×ラジオ局の新しい在り方が生まれるんじゃないかなと思っています。これは純粋に楽しみな話です。

さいごに

今日は、僕の妄想をベースに、北の達人の「エフエム・ノースウエーブ社」の買収について考えてみました。

簡単におさらいをすると、

・D2Cブランドが自社メディアを持つ潮流に乗っかっている
・地方ラジオ局だが、ネット化でリーチは全国になる
・音声メディアはエンゲージが高く、メディアとしてサステイナブル説
・「北の達人」のWEBマーケ力が、旧来メディアにインストールされる


「D2Cブランドがメディアを持つ」流れはこれから加速すると思っていまして、音声以外でも、デジタルメディアやテレビ局などと組む企業はたくさん出てくると思います。

どこもかしこも買収できるわけではないでしょうが、本日取り上げたとおり、ブランドによっては筋の良い打ち手になるのではないでしょうか?

「コンテンツマーケティングの延長線上に商品がある」が最近のD2Cの潮流ですし、「広告の外側で売れる」についても真剣にデザインしないといけない時代になっているのだと思います。


ではでは。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

D2Cやメディア事業、マーケティングの参考になれば幸いです。


超余談:
ここ最近流行っているClubhouse、「このサービスに入り浸っているな、やけに見かけるな〜」と思っていたのが木下社長でした。スピーカーでもないのに、いつ見てもログインしておられたんですね。

「Clubhouseって、自社の事業と関係ないんじゃないか?」「社長も結構ヒマなんだな」くらいに思っていたのですが、今回のM&Aでその理由がスッキリしました。どうやら音声メディアのマーケット調査だったようです。

ご本人から、直々にリプライもいただいておりますw

よく「現地・現場・現物」と言いますよね。

実際にいまヒットしているコンテンツを社長自ら聞きにきて、これからその成果を北海道に持って帰ると思うと、「エフエム・ノースウエーブ社」がどのようなコンテンツを提供してくれるのか楽しみになりました。

あとは、音声メディアのマネタイズ、マーケティングをどう「北の達人」が進めていくのかも、イチマーケターとして非常に気になるところです。

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「Marketing Media Lab」という無料のニュースレターを、毎週土曜18時にお送りしています。まだ最近始めたばかり、できたてホヤホヤのメールマガジンなのですが、よかったらこちらも読んでみてください。(Webでも読めます)




以下のようなnoteも書いているので、よかったら読んでみてください。



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