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【フランスおいしい旅ガイド】ブルターニュの郷土料理

ブルターニュの霧や雨にかすむ荒涼とした原野は、一見、美味美食とか豊饒さとはあまり関係がなさそうにみえる。ところが、大海原に目を転ずるとき、ブルターニュは美味の宝庫となる。この地方の全長1200kmに及ぶ複雑なリアス式の海岸線は、いたるところで天然の良港に恵まれている。そこから大西洋はもとより遠く北海からの新鮮で豊かな海の幸が続々と水揚げされ、その魚介類がこの地方の料理文化を大きく特徴づけている。

魚介料理


○海の幸の盛り合わせFruits de Mer

ブルターニュ地方は、パリの冬の名物料理、カキ、クルヴェット(小エビ)、生のハマグリ、ウニなどの海の幸の盛り合わせの故郷であり、生ガキの本場である。生ガキのつけ合わせには、タルティーヌ・ド・パン・ド・セーグル Tartine de Pain de Seigleと呼ばれる黒パンの薄切りにバターを塗って、何枚も重ねたものが添えられる。

○カキの詰め物グラタンHuîtres Farcies Gratinées

カキの殻をあけて、身を貝柱からはずしておく。パセリやエシャロット、ニンニクのみじん切りと混ぜたバターを、身の上からたっぷり塗って、強火のオーヴンに入れる。やっと身に火が入ったところで引き出す。

※カキの食用の歴史は極めて古く、古代ギリシャ人にも好まれていた。フランスでは18世紀頃までは、海岸に天然のカキ床がいくらでもあった。しかしやがて乱獲がたたり、18世紀後半にはブルターニュをはじめ各地で、禁漁期間を設けて保護政策がとられるようになった。フランスのカキ養殖の父はヴィクロール・コスト Victor Costeといわれている。彼は19世紀中頃、イタリアから人工カキ床の技術を導入し、ブルターニュの漁港カンカルで採集した稚ガキを用いて、養殖に成功した。以後、カキの養殖は次第に発展し、今日では大西洋岸一帯に広がっている。

○帆立貝の串焼きBrochettes de Coquilles Saint-Jacques

貝類ではカキに次いで帆立貝やムール貝も人気である。中世以降、カトリック信者達は、使徒ヤコブの埋葬されているスペインのサンチャゴ・デ・コンポステーラへ続々と巡礼した。彼らが食器代わりに携帯したのが帆立貝の殻であり、以来フランスでは帆立貝をコキーユ・サン・ジャック(聖ヤコブの貝)と呼ぶ。帆立貝の産地としてはブルターニュ半島の突端部のブレスト付近がよく知られている。この帆立貝を金串に刺して焼く。

○帆立貝の蒸し焼きCoquilles Saint-Jacques à la Julienne de Légumes

帆立貝に、バターで色づかないよう蒸すように炒めた細切り野菜をあしらい、白ワインをふりかける。貝の口はパン生地で密封し、下と上から海草でおおって、オーヴンで蒸し焼きにした料理。帆立貝はこのほか、クリーム煮、サフラン煮などにする。

○ブルターニュ風ムール貝の白ワイン煮Moules Bretonnes à la Marinière

エシャロットとパセリのみじん切りを鍋で軽く炒め、殻つきのムール貝を入れ、ミュスカデワインを注ぎ、強火でさっと煮立てる。貝の口が開いたところで取り出して煮汁ごと供する。ムール貝の船乗り風 Moules Marinièreは、ブルターニュからノルマンディにかけての名物であるが、ムール料理の基本。フライドポテトを添えることが多い。

La Taverne de Maitre Kanter, Caen

○パルールドの詰め物グラタンGratin de Palourdes

パルールド Palourdesというハマグリのような二枚貝の殻を開けて、みじん切りにしたパセリとニンニクとバターを合わせたものを塗り、パン粉をふりかけて強火のオーヴンで焼いたもの。

○オマールのグリエHonard Grillé

ブルターニュ地方の名物にオマールがある。生きたままのオマールを縦に真っ2つに割って、塩、胡椒した後、グリルで焼いたもの。レモンを搾って食べる。焼き串に刺して焼けば、オマールの串焼き Homard à la Brocheである。

○アメリカ風オマールの煮込み Homard à l’Américaine(またはアルモール風Homard à l'Armoricaine)

かつてその名称をめぐって有名な論争が繰り広げられた。アメリケーヌ説は19世紀のパリのレストラン店主ピエール・フレッス Pierre Fraisseが、アメリカで働いていたときの思い出と、パリに来てくれるアメリカの友人達を喜ばすためにつけた名称とだとする説である(ブルターニュの料理人がアメリカ人の旅行者のためにあり合わせの材料で作ったという言い伝えもある)。アルモリケーヌ説は、ブルターニュの海岸地方の古名アルマールが起源だとする説である。後者の説では、17~18世紀に植民地貿易港として栄えたナントで輸入された香辛料を使ってのオマール料理が起源とされる。が、この頃トマトは地中海沿岸地域以外では一般的でなかったので、アメリケーヌ説が多数説となった。

作り方はどちらも同じ。玉葱とエシャロットのみじん切りをゆっくり弱火で炒め、これによく熟したトマトの角切り、トマトピュレ、魚のだし汁を加える。さらにシードルかミュスカデワインを注いで沸騰させる。煮立ってきたら、関節ごとに筒切りにしてサラダ油でさっと炒めたオマールを入れて、さらに煮続けること15分。そこでオマールだけを取り出して殻をとり、煮汁の方はさらに1/3ほどに煮つめてソースとする。オマールのミソとバターを加えることもある。これがアメリケーヌソースと呼ばれる魚介類を使った第1級のソースである。温めておいたオマールに、熱いソースをかけて食べる。

○カンベール風クモガニの詰め物Araignée de Mer Farcie Quimpéroise

クモガニはアドリア海、フランスの大西洋岸や地中海に多く生息する。甲長20 cm、赤みがかった黄色の背甲にはたくさんのとげがある。このクモガニをクール・ブイヨンで甲羅ごとゆでてから、身を取り出す。軽く炒めたエシャロットのみじん切りとカニの身に、ミュスカデワインとトマトペーストを少し加えて、数分間煮る。これを再び甲羅に詰めてから供する。

○クモガニの甲羅焼きAraignee de Mer Farcie

クモガニはたっぷりのクール・ブイヨンで15~20分煮る。その間に、ムール貝に白ワインを注ぎ、具のふたが開くまで火を通す。煮汁は漉した後、小麦粉とバターとでつないでソースを作り、さらに、卵黄と生クリームを加えて、一段となめらかに仕上げる。このソースの中に、ゆでたカニとムールの身を混ぜて、甲羅に詰め、オーヴンで焼く。

○コトリヤード・ブルトン Cotriade Bretonne

ブルターニュ地方ならではの名物料理。魚のスープ。できばえは魚の鮮度に左右される。漁師が漁のときに船で作っていたのが始まり。名前はこのときに使う「カオテール Kaoter」という鍋からきているという説と、コトレcotretつまり薪に由来し、ここから薪を燃やして料理したものを意味するようになったとする説などがある。作り方は、みじん切りの玉葱をラードまたはサラダ油で炒め、これに水を加えてジャガイモを入れる。塩、胡椒、タイム、ローリエ、パセリの茎などで味を調え、香りをつける。しばらく煮込んでから、いろいろな魚(アナゴ、サバ、鱈、鯛、アンコウ、ホウボウ、イワシなど)の筒切りを加え、強火で一気に沸騰させてすばやく仕上げる。あくはたびたびすくう。食べ方は、魚とジャガイモは一緒に盛りつけ、これにヴィネグレットソースなどを添える。スープの方は別皿のかりかりに焼いたパンの上に注ぐ。

Cafe de L'Epee, Quimper

○サバのコトリアードCotriade de Maquereaux

やや深めの鉄鍋に、たっぷりの水とワインを注いで、筒切りにしたサバをはじめとれたての魚と、ジャガイモ、ポロネギ、玉葱などの野菜を強火で煮込んで短時間のうちに仕上げる。

○コングルのスープSoupe au Congre

コングル(アナゴの一種)はこの地方の魚。人参やジャガイモと香りづけにミントの葉を入れて、一緒に煮る。

○舌平目のムニエルSole Meunière

英仏海峡でとれる舌平目を使った代表的料理。頭と尾、皮をとって、薄く小麦粉をつけてから、たっぷりのバターで焼く。ゆでたジャガイモを添えることが多い。

○マグロのオムレツOmelete au Thon

大西洋岸の漁港、コンカルノーやロリアンに水揚げされたマグロは、そのまま缶詰工場に直行することが多い。このマグロの缶詰を材料にしたオムレツ。コイの白子を加える。

○干し鱈のベーニュMorue Guingampoise

北海でとれる鱈の塩漬けを、塩出しして、香草類をちらした酢と油の中に漬けた後、フライにしたもの。

○コンカルノー風マグロの煮込みThon Concarnois

マグロの切り身を白ワインとブイヨンで煮込み、別に料理した米、人参、グリンピースを添えたもの。

肉料理


○ブルターニュ風プレ・サレのもも肉ローストGigot de Pré-salé à la Bretonne
○プレ・サレの肩肉ローストEpaule dePré-salé Rôtie

プレ・サレと呼ばれる潮の香りのする牧草で育った極上の羊のロースト。白インゲン豆のブルターニュ風(玉葱と一緒に水から煮てトマトピュレを加えてさらに煮込む)をつけ合わせることが多い。それは中世以来、この豆が沿岸地方の重要な農作物であったからである。

○ブルターニュ風ピュレPurée Bretonne

白インゲン豆と生クリームで作るピュレ。

○田舎風羊の蒸し焼きGigot Paysanne

1晩水に浸して戻した白インゲン豆を、ベーコンやジャガイモと一緒に深めの鍋で煮込む。豆がやわらかくなったところで、塩、胡椒してひもで縛った羊のもも肉を塊のまま入れる。この鍋ごとオーヴンに入れ、中火で1時間半位蒸し焼きにする。

○ポルシェPorché

豚の足、耳、皮を煮込んだ料理。

○ユープ・グワードYoup Gwad

えん麦と豚の血の粥。ブルトン語のyoup「粥」とgwad「血」の合成語。牛乳を沸騰させ、えん麦を加えて煮て、豚の血でつなぐ。カンペール発祥らしい。

○ブルターニュ風ポ・ト・フー Kig-ha-farz

サン・ルナン発祥の名物。ポ・ト・フーにブルターニュ風そばがき(そば粉、ラード、牛乳、レーズンを合わせたもの)が入る。

○バルダットBardatte

ブルターニュ地方の肉の盛り合わせ料理。ロースト肉を保護する豚の背脂またはベーコンbardeを巻くことからこう呼ぶ。ウサギの挽肉をキャベツの葉に包んでから、薄切りの豚の背脂またはベーコンで包んで、白ワインとだし汁、香辛料で煮込む。ローストしたウズラ、ゆでた栗を添える。

野鳥料理


○即席風タシギの蒸し焼きBécassines à la Minute

厚手の鍋で、刻んだエシャロットをバターで炒め、羽をむしった丸のままのタシギ(野鳥)を入れて、強火でさっと炒める。表面がキツネ色になったら、ナツメグ、塩、胡椒をふり、レモン汁とアンジュー産のロゼワインを注いで一煮立ちさせる。

○鴨のロースト グリンピース添えCanard aux Petits Pois

鴨をオーヴンで香ばしい色に焼き上げる。味つけは塩、胡椒でする。グリンピースとともに出す。

野菜料理


○ブルターニュ風アーティチョークのシードル煮Artichauts à la Bretonne

玉葱のみじん切りをバターで黄金色に炒めたところへ、4つ切りにした若いアーティチョークを入れ、シードルを注いで煮る。ブーケ・ガルニやミント、セージの葉を加えれば一層風味がよくなる。

○アーティチョークのスフレArtichaut en Soufflé

アーティチョークの中心部をくりぬいておく。別にベシャメルソースにアーティチョークのピュレと卵黄、それに泡立てた卵白を加えて作ったスフレの生地を、先のアーティチョークに少し詰め、オーヴンに入れて、さっと表面に焼き色をつける。

○クルヴェットとアーティチョークのサラダSalade de Fonds d'Artichauts aux Crevettes

塩ゆでしたアーティチョークの花床部のやわらかい部分の上に、オロールソース(オーロラ色のソース。マヨネーズにトマトピュレを加えたもの)をかけ、ゆでたクルヴェットを彩りよく配したもの。

○カリフラワーのバター風味Chou-fleur au Berre salé

塩ゆでしたカリフラワーの水気を切り、溶かした有塩バターをかけたもの。カリフラワーはクルヴェット(小エビ)とサラダにしてもよい。

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