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【フランスおいしい旅ガイド】ノール=パ・ド・カレの郷土料理

フランドル、アルトワにピカルディーを加えた3地方はフランスの最北部に位置し、ベルギーと国境を接する。それぞれの地方の歴史や方言は異なり、フランスの領土となった時期もまちまちである。しかし料理に目を向けると、冷たい海洋性気候の影響を受けながら、似たような風俗習慣、伝統によって育まれた、素朴で実質的な家庭料理という共通点が見いだせる。内陸部の変化に富む緑の平原地帯、沼沢地には豚、牛、水鳥などの肉類から、小麦、大麦、カラス麦などの穀物、またジャガイモ、ポロネギ、グリンピース、シコレ(アンディーヴ)、テンサイなどの野菜類までその産出量も多く、一大食糧庫とも呼べそうである。またフランドル地方は、現在のベルギー西部からオランダ南西部に至る同名の地域に属していたこともあり、今なおベルギー料理がよく作られる。

ベルギーに影響された料理


○オシュポHochepot

フランドルの特産料理。ポ・ト・フーの地方的バリエーション。牛や豚の尾、牛のばら肉、羊の肩肉、豚の耳・足、それにソーセージ、人参、玉葱、キャベツ、ポロネギ、カブなどを水からことことと煮込んだもの。鍋(ポ)をゆすぶる(オシェ)に由来する語だといわれる。煮汁はトーストしたバゲットの薄切りとおろしチーズを添えてスープとして出す。肉は切り分けて野菜と一緒に大皿に盛り、豚の耳はせん切りして野菜の上に飾る。オランダの国民料理といわれるヒュトスポットも、非常によく似た料理である。

○カルボナード・フラマンド(牛肉のビール煮) Carbonnade Flamande

塊のままの牛肉と、多量の玉葱のみじん切りをラードで炒めた後、香辛料を加えたビールを注いでやわらかく煮込み、仕上げに粗糖を加えたもの。南フランスでは牛の赤ワイン煮込みをさす。ビールを使った料理では他に、ビールのスープSoupe à la Bière、甘酸っぱい味つけの雄鶏のビール煮Coq à la Bière、ウナギのビール煮 Anguille à la Bièreなどがある。

Le Grand Café, Bruxelles

○ポチュヴレシュPotjevleisch

肉類、野菜の煮込み。フランドル地方ダンケルクの名物料理。オランダ語potje「壺」、vlees「肉」の合成語が語源。鶏、ウサギ、豚肉、仔牛、玉葱、タイム、ローリエを豚の背脂を張ったテリーヌ型に詰め、ふたをしてオーヴンで湯煎にする。

魚料理とジャガイモ


○ニシンの蒸し焼き マスタード風味Harengs Sauce Moutarde

ニシンは古くから人間の食料として用いられてきた。カレ(ドーバー)海峡に面したブーローニュでは昔からニシン漁が盛んだった。漁師達はとれたてのニシンに薄塩をして酢にさっと通し、玉葱のみじん切りをつけて食べる。この料理は、鍋にニシンを並べ、エシャロットのみじん切り、マスタード、生クリームを加えてオーヴンで蒸し焼きにしたもの。

○ニシンの蒸し煮Filets de Hareng Braises

生のニシンの上身に玉葱とベーコンのみじん切り、トマト、レモンの薄切りを合わせ、バターの小切りをちらして、オーヴンで蒸し煮にしたもの。皮つきのままゆでたジャガイモを添える。

○燻製ニシンのサラダSalade de Filets de Harengs à la Chalutière

ニシンを3枚におろしてその上身を牛乳に1時間ほど漬け、さらにオリーヴ油に浸してから、白子とマスタードとオリーヴ油で作ったどろっとしたソースをかける。ゆでたジャガイモとよく合う。

○ロルモプスRollmops

マリネしたニシン巻き。

○フランドル風サバの蒸し焼きMaquereaux à la Flamande

細かく刻んだ香味野菜と香辛料をバターと合わせてサバに詰め、硫酸紙に包んで蒸し焼きにする。レモン汁とゆでたジャガイモを添える。

○サバの白ワイン漬けMaquereaux Marinés au Vin Blanc

夏向きの料理。白ワインと酢、水に玉葱と人参の薄切り、ローリエ、エストラゴン、エシャロットなどの香味野菜を加え、調味して煮立てる。これを3枚におろしたサバの上からかけて余熱で中心までほどよく火を通し、冷蔵庫で24時間ほど漬けて味をなじませる。

○クールキノワーズCourquinoise

フランドル地方北海沿岸、特にカレ周辺の魚のスープ。穴子、ルージェ、カニ、ムール貝とポロネギを煮てから、オーヴンで上面に焼き色をつける。

○ワテルゾイWaterzoï

フランドル地方、ベルギー、オランダの魚料理。ウナギと他の魚を香草と野菜とともにクールブイヨンで煮たブイヤベースに似た料理。生クリーム、レモン汁を加えて仕上げる場合もある。写真はリールのレストラン「A L'Huitriere」で習った鶏のワテルゾイ風。

A L'Huitriere, Lille

○コーディエールCaudiere

魚のスープの一種。ジャガイモをつけ合わせる。

○ダンケルクのジャガイモフライPommes de Terre de Dunkerque

ダンケルクは北部の海岸沿いの町。ジャガイモを丸のまま皮をむいて塩ゆでにし、半ばまで火が通ったら水気を切って植物油で揚げる。

ジビエ料理


○ヤマシギのローストBécasse au Fumet

北の国から渡ってくるヤマシギは、肉がやわらかいので、野鳥の中でも最高の御馳走となって、寒い季節のレストランのメニューになる。その昔、フランドル地方のモントルイユ・シュル・メールのヤマシギのパテの名声は、カレー海峡を越えてイギリスまでとどろいていたといわれるが、今日ではほとんど作られていない。より簡単なのが、この料理。ヤマシギは砂嚢以外の内臓はつけたままで、生焼け程度に焼く。切り分ける際に、内臓を取り出してすりつぶし、ガラのしぼり汁、アルコール分を燃やしたコニャック少量と合わせてどろどろのソースを作り、皿に盛ったヤマシギの上にかける。取り分けておいた内臓に溶かしたラードを混ぜ込み、コニャックなどで香りづけしてペースト状にしたものを、トーストした食パンに塗って添える。

○ヤマシギの蒸し焼きSalmis de Bécaasse

ヤマシギを生焼け程度にローストして切り分ける。トリュフ、マッシュルーム、セップなどのキノコ類と一緒に鍋に入れ、赤ワインを注いで蒸し焼きにする。

○フランドル風キジの蒸し焼きFaisan à la Flamande

東洋原産のキジがヨーロッパに伝えられたのは16世紀以降のこと。脂肪分の少ない肉が好まれ、様々に料理される。但し、料理の前に数日から1週間ほど冷所につるしておいて、肉をやわらかくさせると同時に野鳥獣特有の香味を出す必要がある。秋も深まる頃、木の実をたっぷり食べて脂ののっているキジを撃ち落とし、数日つるして熟成させる。小さく切った人参、玉葱を内臓を抜いた生地の下にしいたり、上にもかぶせたりしてオーヴンで蒸し焼きする。アンディーヴの蒸し煮の上に盛り、キジを焼いた鍋に湯を注いで底に残っているうま味をこそげ落とし、ソースとする。

○キジとリンゴの炒め煮Fraisa Saute aux Pommes

熟成させたキジを切り分けてバターで炒め、同様に炒めたリンゴと一緒に鍋に入れ、生クリーム入りのソースを注いで煮たもの。

○アナウサギの煮込み プラム添えLapin de Garenne aux Pruneaux

アナウサギは同じ野生の野ウサギLièvreよりずっと小型のもの。食べやすい大きさに切ったアナウサギを、マリナード(香味野菜と香味料入りのワイン、酢、油を合わせたもの)に一昼夜漬け込んでおく。水気を切ってバターで炒める。きれいな焼き色がついたら小麦粉を少し加えてつなぎとし、マリナードを注ぎ、調味して静かに煮込む。仕上げに、水で戻しておいた干しプラムを足し、さっと火を通す。抜いた血とグロゼイユ(スグリ)のゼリーを煮汁に加えるとよい。

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