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【フランスおいしい旅ガイド】アルザスの郷土料理

アルザス地方は北部と東部でドイツと接している。こうした地理的位置や歴史からドイツの影響は様々な分野で強く表れており、料理もそのうちの1つである。地味に乏しく生活条件も厳しいドイツ人の食肉源であったガチョウや豚、あるいはそれらの脂肪を使う料理が多いこと、ヌードルや団子などをつけ合わせによく利用することなど、ドイツを思わせる料理がアルザスの料理を特徴づけている。

シュークルートとその料理


○シュークルートChoucroute

乳酸発酵させたキャベツおよびそれを使った料理。酸っぱいキャベツを意味するドイツ語のザウアークラット sauerkrautに由来するアルザス語のシュルクルットsûrkrûtが語源とされる。起源は15世紀にまでさかのぼる。ドイツ、ポーランド、ハンガリー、チェコなどでもよく食卓にのぼるが、アルザス地方ではフランス風にアレンジされた郷土料理として定着している。料理名にアルザス風とついたら、シュールクルートが添えられていることが多い。シュークルートを作るには、まずキャベツを千切りにして、塩と交互に樽いっぱいまで漬け込む。キャベツの白さが身上なので、カンタル種の白いキャベツがよく用いられる。ネズの実、キャラウエー・シードなどで風味を増し、重石をして時々漬け汁を取り除いては新しい塩水を足しながら3、4週間発酵させればよい。

こうしてできあがったシュークルートはそのまま生でも食べられるが、塩漬けや燻製の豚肉類などど一緒に白ワインで蒸し煮して、ボリュームたっぷりの一品料理とするのが最も一般的である。料理として作り上げられたものもシュークルートという。料理としてのシュークルートはゆっくりと蒸し煮する必要があるので、かつては“日曜日の料理”とされていた。アルザスの主婦たちは鍋を火にかけてから教会へ行き、礼拝が終わって帰宅する頃にはシュークルートがちょうど食べ頃になっているようにしたというわけである。

アルザス風シュークルートChoucroute Alsacienneの作り方は、まず浅めの平らな鍋にガチョウ脂かラードを溶かし、細かく切った玉葱を炒める。生のシュークルートはよく洗ってから水気を絞ってほぐし入れ、ベーコンの塊、ネズの実、粒胡椒、クローヴなどを加え、アルザスの辛口白ワインをひたひたまで注ぐ。きっちりふたをしてとろ火で2~3時間じっくりと蒸し煮にする。熱くしておいた皿にできあがったキャベツを盛る。ベーコンは薄切りにし、別にゆでておいたストラスブールソーセージ、セルヴラCervelas(香辛料のきいた燻製ソーセージ)、ハムなどと一緒にキャベツの上からかぶせるように置き、丸ごと塩ゆでしたジャガイモを添える。ワインの代わりにシャンパーニュを用いてもよい。

L'Ami Schurtz, Strasbourg
Chez Yvonne, Strasbourg
Kirn, Strasbourg

○キジの蒸し焼きシュークルート添えFaisan à la Choucroute

シュークルートを煮て皿にしき、上に蒸し焼きした丸のままのキジを盛り、周りに豚肉やソーセージを並べたもの。鴨やウズなどを使ってもできる。

○シュークルートのサラダSalade de Choucroute

生のシュークルートをマスタード、ピーナツ油などであえたもの。

○シュークルートのスープSoupe à la Choucroute

シュークルートを下ゆでして、玉葱のみじん切りと一緒にバターで炒め、コンソメを注いだもの。

フォアグラと肉料理


○ストラスブールのフォワグラのパイ包みPàté de Foie Gras de Strasbourg

考案者は、18世紀末に司令官としてこの地にやってきたコンタッド元帥お抱えのジャン・ピエール・クローズという料理人とされる。生のフォアグラを仔牛肉や豚肉や豚の背脂の挽肉でおおい、さらにパイ生地に包んで蒸気穴を開けて焼いたもの。冷めたら肉汁で作ったゼリーを穴から流し込んで固める。後の人が香りづけにトリュフを用いたことで、この料理の名声は決定的なものとなった。

○フォアグラのテリーヌTerrine de Foie Gras Truffée

生のフォアグラにコニャックやマデラ酒と香辛料、塩などで下味をつけ、陶製のテリーヌ型に入れ、トリュフも加え、湯煎にして弱火のオーヴンでゆっくりと焼き、冷まして固めたもの。

Les Fois Gras de Liesel, Riveauville

★フォアグラはガチョウや鴨の肥大肝臓。アルザス地方、ラングドック地方、ペリゴール地方の特産。肥大させるには、暗い場所に閉じ込めて運動させずに、トウモロコシを無理矢理口の中に押し込む。この強制肥育の後、取り出した肝臓は、大きなものだと2 kgにも達する。フォアグラは1780年にストラスブールで誕生し、その最初の料理方法は「パテ・ド・フォアグラ・ア・ラ・コンタード」と名付けられた。これはフォアグラを堅く焼き上げたパンに詰めたもので、ジャンピエール・クローズによって考案された。それがルイ16世に賞賛され、一躍フォアグラのブームがやってくる。1803年クローズの弟子がストラスブールに初めて店頭売りのブティックをオープン。その息子エドワルド・アルツネールが1855年に「フォアグラのテリーヌ」を開発した。また、フォアグラのパテと呼ばれる、缶詰や瓶詰めのものがあるが、これは生のフォアグラをガチョウ脂などを使って火を通し、豚肉などのすり身を加えた加工品。生のフォアグラをバターで炒めて食べるのが贅沢とされる。

Feyel-Artzner

○アルザス風ガチョウの蒸し焼きOie à l'Alsacienne

ガチョウそのものを使う料理。ガチョウにソーセージ用のすり身を詰めてシュークルートを添えたもの。

○ガチョウのワイン風味ソース添えSalmis d'Oie

ガチョウをガチョウ脂で料理して玉葱、栗、赤キャベツなどをつけ合わせたもの。

ドイツ風の団子やヌードル


○団子入りポタージュPotage aux Noques

ブロンド色に炒めたルーをブイヨンで溶きのばし、卵黄と生クリームで仕上げたコクのあるポタージュに、ナツメグの香りをきかせて塩ゆでした団子(小麦粉、卵などを丸めたもの)を浮き身にする。

○クネプフルknepfle

クヌーデルは中央ヨーロッパで作る団子の総称。アルザス地方ではクネプルという。小麦粉、生クリーム、溶かしバターをベースとし、調味して丸め、油で揚げる。ジャガイモのピュレを加えることもある。

○ノークNoque

小麦粉、卵、バターなどで作る団子またはクネル。アルザス地方ではゆでた団子にパルメザンチーズ、パン粉、溶かしバターをふってオーヴンで焼く。また、炒めてミキサーにかけた豚のレバーを加えたものもある。イタリア発祥のニョッキ(団子の意)は、オーストリア・ハンガリー帝国を経てアルザス地方経由でフランスに入り、同地方にスパツルやクヌーデル、ノークとして残った。

○スパツルSpãtzle

アルザス地方ではシュペツルと呼ぶ、すずめに似た形の小麦粉で作る小さな団子、すいとん。ドイツ語spatz「すずめ」が語源。グラタンにしたり揚げたりするほか、肉料理のつけ合わせにする。

○プフリュートPflütt

ジャガイモ、卵、小麦粉、牛乳で作るアルザス地方の団子、ニョッキ。丸めてゆでたり、円盤形にしてフライパンで焼いたりする。

○肝団子Leberknopfle

仔牛の肝臓と豚の背脂の挽肉に卵、小麦粉、パン粉などを加え、塩、胡椒、ナツメグで味を調えてよくこね合わせる。スプーンで形作りながらゆで、熱いうちに溶かしバターをかけて食べる。

○野ウサギの赤ワイン風味煮 ヌードル添えCivet de Lièvre aux Nouilles

骨つきの野ウサギを玉葱と炒め、小麦粉をふりかけて赤ワインとブイヨンの中で煮る。野ウサギの血を仕上げに加える。小麦粉、卵、塩で作った生地を薄くのばしてきしめんのように細く切り分けたヌードルをゆでて添える。

○アルザス風ヌードルNouilles à l'Alsacienne

ゆでたヌードルに、パン粉と軽くこがしたバターをかける。

○ヌードルのクリームソースあえ フォアグラ、トリュフ入りNouilles Fraîches au Foie et aux Truffes

ゆでたヌードルと、炒めた生のフォアグラの小口切りに、薄切りしたトリュフのクリーム煮をかけて合わせたもの。

肉料理


○シフラSchifela

燻製の豚肩肉をさっと塩出ししてから、沸き立っている湯の中でやわらかくなるまでゆでたもの。酸っぱいカブをつけ合わせる。

○ユールHure

豚やイノシシの頭の冷製料理。語源はゲルマン語らしい。鮭や川カマスの頭で作ることもある。丸ごとゆでた頭肉に舌、耳、脳を詰め、ゼラチン質を利用して固める。アルザス地方では赤い横隔膜に詰めたものをユール・ルージュHure Rouge、頭肉にすね肉のハムや皮を加えたものをユール・ブランシュHure Blancheという。

○グルンベールキークルGrumbeerekiechle

ジャガイモのガレット。「ジャガイモ小菓子」の意味のアルザス語方言。グリーンサラダや甘さを控えたリンゴのコンポートとともにオードブルとして供する。

郷土料理


○ベッコフ Backeoffe(またはベックノッフBackenoffe)

「パン屋の竈で煮る」という意味のベッコフは「ポテ」と呼ばれる煮込みの一種。19世紀頃の料理。牛、豚、羊の3種の肉を、リースリングなどアルザスの白ワインと香味野菜に1日漬けておく。玉葱、ジャガイモの薄切りと、肉のぶつ切りを交互に器に重ね入れ、漬け汁も注いで、塩、胡椒で調味し、きっちりふたをして弱火のオーヴンで3~4時間じっくり火を通す。シュークルートが日曜日の料理ならベッコフは「月曜日の料理」であった。かつて月曜日はアルザスの主婦たちの洗濯日であり、食事を作る暇がなかったので、朝一番に鉢にベッコフの材料を入れてパン屋へ行き、パンを焼いた後の竈へ入れて煮てもらったという。すると昼頃にはうまく焼き上がっている。伝統的なベッコフはスフレンハイム村で作られた長さ50cmもあろうかという大きなテリーヌ鉢で料理し、そのまま食卓に出す。

Caveau de l'Ami Fritz, Riveauville

○カエルのポタージュPotage aux Grenouilles

エシャロットと玉葱のみじん切りを炒めて香りを出し、カエルのもも肉を加えて少し炒めた後、白ワインと魚のだし汁を注いでやわらかくなるまで煮る。煮汁は卵黄と生クリームでつないで、骨をはずしたもも肉を戻す。カエルはロレーヌ地方の名物でもある。

○アルザス風コイの詰め物Carpe à l'Alsacienne

アルザス地方では、ドイツとの境界をなすライン川、またその支流のイル川などで捕れるコイをよく料理に利用する。コイに生クリーム入りの魚のファルス(魚の身をすりつぶしながら卵白などを合わせたもの)を詰め、白ワインでゆでる。煮汁はバターと小麦粉を合わせたブール・マニエでつなぎ、さらにバターを溶かし混ぜてソースとする。シュークルートやゆでたジャガイモを添える。白ワインの代わりにビールを注いで蒸し煮すると、コイの詰め物ビール風味 Carpe Farcie à la Bière となる。


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