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ベルトルト・ブレヒト「三文オペラ」(1928年)

ネットで「ブレヒト」を検索すると「ブレヒト 異化効果」という検索候補が出てくる。「異化効果」は知っているが、「ブレヒトと言えば異化効果」というほどのものだとは知らなかった。

そして、「三文オペラ」にも異化効果が仕込まれているという。
自分は全然わからなかった。このあたりは、知性と教養を身に着けることと、思考力を深めていく過程で、世界に対する解像度をあげていく必要がある。そういうことをやっていると、いろいろと見えてくるものもあるのだろう。

ここでは、自分がわかったことだけを書く。

本作は、ブレヒトのオリジナルではなく、ジョン・ゲイ「乞食オペラ」を元ネタにしているとのこと。1928年8月31日に初演されている。

貧民街の顔役「メッキース」と、「乞食の友商会」社長のピーチャム、その娘ポリー。ロンドンの警視総監「タイガー・ブラウン」。といったあたりがメインのキャスト。
貧困層が主役であり、メッキースは犯罪に手を染めて生計を立てている。ピーチャムは貧困にあえぐ失業者をホームレスに仕立てて会社を経営している。

物語は、メッキースと、ポリーが結婚することに反対して、ピーチャムがメッキースを逮捕させようとする、というドタバタ喜劇になっている。

1928年という時代を考えてみる。
ドイツは1919年の敗戦から10年経っているとはいえ、賠償金の問題もあるし、大インフレでもあった。国民生活はかなり苦しかったのではないか。
そう考えると、ブレヒトが「乞食オペラ」を翻案しようとしたのは、本作のように貧困層が活躍する物語が国民に受けると考えたからだろう。
そして、実際に本作の舞台は大ヒットしたらしい。
生活が苦しい国民が、芝居を観る余裕があったのか、とは思うが、今と違って娯楽の種類が限られていたから、たまに芝居を観にいくくらいはできたのだろう。

本作が現在でも舞台や映画で演じられるのは、一定数のファンがいるからだろう。今の世界でも、人々は貧困にあえいでいるが、芝居を観て気晴らしをする、ということは少ない。今の世の中では芝居にいくのは、本作の中心を担う貧困層ではなく、懐に余裕のある富裕層だ。そういう点で、ブレヒトが意図したコンテンツではなくなっている。

時代は変わる。
時代が変わっても残るものはある。
ただし、そのコンテンツが発表された当時と時代が変わるから、読者が受けとめる印象やメッセージも当時とは違う。それでも読む価値があると判断されるものが生き残っているのだろう。
読んで、考えて、思考を深める。古典を読むメリットのひとつはそこにある。

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