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オルフェ

コクトーの映画を観たのははじめてだ。

台詞が美しく、映画としても独特な雰囲気があっておもしろい。詩人が映画を撮るとこうなるのか。

この映画は、当時どのような評価を得たのだろう。インデペンデントな、いわゆるミニシアター系だったのか、もしくは、もっとメジャーな扱いだったのか。そう書いて、ヒッチコックやトリュフォー、フェリーニやルキノ・ヴィスコンティといった監督は、今でこそ伝説だが、現役当時はどういう扱いだったのか知らないことに気がついた。

話を戻すと、タイトルからもわかるように、本作は、ギリシア神話に登場するオルフェウスの物語をベースにしている。黄泉の国まで死んだ妻を迎えにいき、地上に戻るまではけっして振り返ってはならない、という約束のもとに連れ帰ることを許される。しかし、結局は振り返ってしまう、というあれである。

本作も、そのあたりの要素ははいっているが、物語の中核はそこではない。オルフェウスの物語は妻との愛ではあるが、この映画では妻の役割はギリシア神話ほど大きくはない。
おもしろいと思ったのは、ギリシア神話である原作を、うまい具合にアレンジしていて、つかず離れずというか、コクトーのオリジナルの要素をたくさん入れながらも、ちゃんとギリシア神話風な空気も残しているところだ。匙加減が絶妙なのだ。

コクトーは、本作の主人公であるオルフェを、ギリシア神話のオルフェウスと同一人物として考えていたのだろうか。つまり、オルフェウスと妻は、死んでは冥途まで迎えにいくということを、永遠に繰り返しているとしたらどうだろう。彼ら自身はそのつど記憶をなくして新しい人間として生まれ変わり、やがてまた妻が死に、オルフェウスが迎えにいく。コクトーはそういうことを考えていたのだろうか、などと想像した。

そう考えると、本作は、オルフェウスを悲劇から救おうとしたにもかかわらず、輪廻の回転を助けてしまう人物の物語という読み方もできて、それはそれでおもしろいと思うのだ。

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