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MINAMATA−ミナマタ−(2021年)

ジョニー・デップ、真田広之、國村準、加瀬亮、浅野忠信といった、好きな俳優が大量に出演している作品だった。ヒロインの美波も昭和の美しい女性といった感じでよい。

時代設定は昭和だけど、観客は現代の人だから本当に昭和そのままを再現してはだめで、現代的に洗練された昭和をいかにうまく作るか、というのが映画を作る際の大切な要素なんだろうな。登場人物も昭和の田舎の人っぽいんだけど、本当に田舎の人じゃなくて、みんな洗練されていて都会的なのだ。リアルじゃないといえばリアルじゃないんだけど、本当に昭和の田舎を再現してしまったら、作品としては評価されるのだろうけれど、売り上げが減ると思う。

ストーリーは、ライフの写真家であるユージン・スミスが、アイリーンという日本人女性に頼まれて、熊本の水俣病の写真を撮るために来日する。そして、患者やその家族、チッソ工場と戦う人々などとの交流しながら世界に水俣病を伝えるために戦う、というもの。

物語の構造としては、いわゆる英雄神話の構図を使っているのだと思う。
英雄(ユージン・スミス)が本当はやりたくないミッション(水俣病の写真を撮る)を達成するために、冒険の旅に出る。そこで賢者の助けなどを得て勝利する。といったもの。その中で、ユージン・スミス個人としては、アルコールに溺れて人生をあきらめていたところから、再び写真の力を信じるようになる、というテーマもある。さらには冒頭で日本でスミスを泊めてくれた水俣病患者の家族に娘の写真を撮らせてくれと頼んで断られるが、最後に撮らせてもらえて、それが「入浴する智子と母」であるという構造にもなっていて、シナリオがとてもうまい。

いろいろなところで言われているが、ジョニー・デップの演技は観たことのないレベルに達していて、ユージン・スミスを演じている俳優が彼であることは理解しているが、どんなに目を凝らしてもジョニー・デップが見えてこなかった。
他の俳優陣もそれぞれよかったが、やっぱりチッソの社長を演じていた國村準がよかった。役割としては悪役なのだが、単純化された悪役ではなく、血の通った人間を演じていた。彼は企業の人間であり、利益を追求した結果として水俣病を引き起こしていた。庶民が苦しんでいても前向きな対応はしない。ユージン・スミスが写真を撮りに来ていると知ると、カネで買収して追い返そうとする。
彼は、家族のことを涙ながらに訴える被害者と対面して、動揺する。そして、社内の人間と話をするが、補償するだけの金が払えないという結論が出ると、無理を押し切ってでも補償するということはしない。
表沙汰にならなければ、物事は隠されたままだ。
そして、いよいよ世界が水俣病を知ったときに、ようやく対応する。それは罪の意識というよりは、もう隠しきれないから仕方がない、というあきらめで、そういうところも國村準のうまさなんだろうな。

コロナワクチンや福島のALPS処理水。
本作で描かれたのと同じことが繰り返されていくのだろう。実際、國村準が演じる社長はALPS処理水でなされたのと同様の説明をしていた。
本作では「ライフ」誌に写真が掲載されたことで世界が真実を知った。
今はネット、SNSで大量の情報が拡散されている。その中には疑わしいものも多い。そう考えると、メディアの力というものが、本作の最後のようになる影響力を持っているのだろうか、とも思う。
それでも足尾銅山鉱毒事件の田中正造のような人物は出てくるだろうし、そういう人がいなければ世界は良くはならないだろうとも思う。

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