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『塔』2024年3月号(3)

動物と触れ合うカフェとう風俗がある 今、どこ?今、もう原宿駅 丸山恵子 5/8/5/8/8。四句面白い。動物と触れ合うカフェを風俗と捉える。生活文化の意味だろう。突然挟まれるぶつ切りの会話。待ち合わせの人物とスマホで話しながら主体はそこへ向かっているのだろう。

⑱三井修「吉田広行歌集『360』評」
神はいざ遊びに来ますどこへでも遠く近くを吹きすぎる塵 吉田広行
〈神には、キリスト教やイスラム教の神のような全知全能の「絶対神」と、日本の神のように人間的な性格を持つ「人格神」があるが、ここでの神はどちらかと言えば「人格神」のようだ。〉
 この評を読んで考えてしまった。思えば私自身には「絶対神」という肌感覚は無い。頭では分かっても。そしてそれをこの評を読むまであまり意識して来なかったように思う。

⑲川本千栄「方舟 切手御礼」
 『塔』では会員の皆様から寄付される切手を原稿依頼等に使用させていただいています。皆様ありがとうございます。どのように使用しているか「方舟」に書かせていただきました。

炎は切っても切っても断ち切れず生きていることが許せなかった 潮未咲 切っても切れない炎。断ち切る、という言葉から、実際の炎というより炎に似た感情のようなものだろう。炎がいつまでも消えないことが許せない。自身が生きていることが許せないようにも読める。

嘘をつく人間として触れてくれ 木製だから磨けば光る 土居尚子 上句に惹かれた。嘘をつかないことが美徳のように言われることへの反語のようだ。何に触れるのだろうか。木製の飾りのようなものだろうが、心の喩とも取れる。主体の心に触れてくれ、かも知れない。

地上での路の分岐が地中では川の合流地点であること 藤田エイミ 暗渠について描かれた歌。地上の道と暗渠との繋がりが当たり前のようでいて不思議だ。月詠で連作になっている。見えないものが眼前する、ちょっと味わったことのない読後感。
 川跡を辿ると線路にたどり着くホームの下に空洞がある/不自然に花の植わった線路脇かつての川を弔うように 藤田エイミ 続く二首では川跡が線路に続く様子が描かれる。示唆される川の死。都市空間の隙間に見える過去の土地と時間。作者の視線につられて見えて来るものがある。

2024.4.15.~16. Twitterより編集再掲

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