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『羽根と根』11

三十歳。悩みは白髪、一人でも生きられそうに見える顔立ち 上本彩加 「シャチハタを押す」より。職場を舞台にした一連。読み応えがあった。三句以降が悩みというのにリアリティがある。問題は、だから強い人に分類され、雑に扱われてしまうことなのだろう。

抱きしめることもあるいはその逆も許さずきみの先輩でいる 上本彩 許さず、とストイックなようだが、初句二句が見せ消ちで逆に強い衝動が感じられる。心の箍のようなものを緩めまいという決心か。職場の先輩とか後輩とかいう、この厄介な関係。

暑すぎる夏終わんないかと思った 夜 うまく言えないけど言いたい 今井心 7・7・6・7・6で読んだ。「~たい」が字足らずで終わると、ポップソングのような雰囲気。破調だが心地良いリズム。下句で言いたいことは、おそらく上句と関連が無いのだろう。

パントマイムと思っていたら喋りだすなんだかわからない大道芸 佐々木朔 散文的だが、あるあるな内容でうなずく。深読みは良くないかも知れないが、日常にある不条理的なものを詠っているようにも感じた。

むきだしの心をそっと差し出して笑わせたいな とても無力だ 中村美智 自分のむきだしの心が相手の笑いを誘うという感じ方、そしてそれができそうもない無力感。この辺りの感情表現がとても細かい。この歌も「~たい」を使っている。「~たい」という語が気になる。

2023.12.23. Twitterより編集再掲

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