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『絶島』Ⅲ

日を吸ってふっくら死んでる子すずめのあれはだれかの落としたハンカチ 文月さと 「死んでる」の修飾に「ふっくら」は逆説的だ。死体が膨張しているのかも知れない。それがハンカチのように見える、というか、そう思いたい。わらべうたのような歌い方が秘める怖さ。

卵立ての卵に匙を打つときの強さで決めるあなたとのこと 森山緋紗 卵立てに半熟卵を立てて、匙で殻を割る。その加減が難しい。弱いと割れないし、強すぎると中味が流れてしまう。あなたの中味を確かめるために打ってみる。もしかしたら台無しになるかも知れないけれど。

鶏肉のきいろい脂肪を削ぎとれば指にまとわりつく執着よ 榎本ユミ 一番要らないものが一番まとわりついて来る。洗っても流れ落ちてくれない、自分の中の執着のようなもの。喩が体感として納得できる。直喩にせずに「執着」と言い切ってしまっているのがいいと思った。

ただしさを飲みくだせそう丁寧にてるてる坊主の首を縊れば 榎本ユミ 生物のようだが生物では無いもの。そんなてるてる坊主相手なら自分の中の加虐性を安心して発散できる。ぎゅっと縊った時、自分を追い詰めてくる正しさのようなものにも何とか耐えられるのだ。

2023.12.25. Twitterより編集再掲

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