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歌集歌書評、感想文

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歌集、歌書の感想を書いています。
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記事一覧

〔公開記事〕川野里子『ウォーターリリー』(短歌研究社)

世界の惨を感知する  川本千栄  この世界には様々な惨事が存在する。しかし目を凝らし耳を…

川本千栄
3週間前
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〔公開記事〕濱田美枝子『女人短歌』(書肆侃侃房)

時代をはね返す炎  一九四九年から一九九七年まで四八年間に亘って女性たちの手で運営された…

川本千栄
1か月前
8

三枝昻之『跫音を聴く 近代短歌の水脈』(六花書林)

 近代短歌史に足跡を残した歌人たちを一人一人取り上げて、その歌人の功績を描いていく。無味…

川本千栄
3か月前
8

正岡豊『白い箱』(現代短歌社)

 1990年刊行の第一歌集以降、30年分の短歌作品からなる。一首として意味が理解できない歌が多…

川本千栄
4か月前
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富田睦子『声は霧雨』(砂子屋書房)

 第三歌集。2018年春から2021年秋まで、44歳から48歳までの381首を収める。思春期の娘に寄り…

川本千栄
4か月前
13

山階基『夜を着こなせたなら』(短歌研究社)

 第二歌集。人と人との関係の不全感。その感覚に傷つきながらも、自他を見つめて、丁寧に詠い…

川本千栄
4か月前
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郡司和斗『遠い感』(短歌研究社)

 第一歌集。18歳から24歳(2017年~2023年)の333首を収める。淡々とした日常を掬い取る目線。何かが起こるわけでもない毎日が描かれる。家族の中では子供の立ち位置だが、社会的には既に子供ではない。それでも大人の側に立つことにはまだ納得していない。身の回りの物の選びが主体の生活を浮き上げらせる。A and(or)not A的なフレーズの反復が特徴的だ。 いつでも真剣(マジ)どこでも本気(マジ)と書かれてるTシャツを着てする皿洗い(P14)  アルバイトの場面だろう。ひ

後藤由紀恵『遠く呼ぶ声』(典々堂)

 第三歌集。働き、暮らす四十代の日々。一人で生きていく実感の強い歌集だ。歌集半ばで平成…

川本千栄
4か月前
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渡辺松男『時間の神の蝸牛』(書肆侃侃房)

 第十一歌集。2017年7月までの未発表歌626首を収める。2022年6月に第十歌集を出した時は2016…

川本千栄
4か月前
10

睦月都『Dance with the invisibles』(角川書店)

 第一歌集。2016年から2023年の332首を収める。どこかたゆたうような、物憂い気配がただよう…

川本千栄
5か月前
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小林幸子『日暈』(本阿弥書店)

 第九歌集。2018年秋から2023年春までの496首を収める。2020年からは新型コロナの感染流行が…

川本千栄
5か月前
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小林幸子『六本辻』(ながらみ書房)

 第八歌集。2012年春から2017年夏までの534首を収める。震災後の日々。変わってしまった風景…

川本千栄
5か月前
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三井修『汽水域』(ながらみ書房)

 第九歌集。2005年6月から2013年1月までの作品506首を収める。汽水域は海水と淡水の交じり合…

川本千栄
5か月前
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永田紅『春の顕微鏡』(青磁社)

 第四歌集。2006年秋から2011年末までの5年間31歳から36歳の676首を収める。終わった恋に寄せる歌、研究生活、東京での、また京都へ戻っての暮らし、母である河野裕子の癌の再発、自身の病気、結婚、祖母の死、母の死、祖父の死など様々な出来事が作者の周囲で起こった。そうした出来事を自身の中を濾過した言葉で丁寧に紡ぎ出す。読んだ後、心がふっくらと膨らむような歌集だ。特に前半に多い相聞歌はどれも透明感のある美しさに満ち、読者が自身の半生を振り返るよすがともなるものと思った。