肢別過去問集こそ最強の問題集である ~行政書士試験に合格した年にどう使ったか~

2023年11月12日は行政書士試験の実施日でした。おつかれさまでした。
すでに自己採点の結果もでていますよね。
記述抜き180点を超えた方、おめでとうございます。
記述の採点待ちという120~179点の方。どきどきの気持はよくわかります。とくに150点台あたりは、記述の感触次第でむしろ逆に不安になるとおもいます。
120点未満、または各分野の足切りにひっかかった方。来年またチャレンジするなら、もう次の試験勉強をはじめちゃいましょう。


肢別過去問集の特徴

ここを読むような人は肢別過去問集なるものの存在はご存じでしょう。
あえて書けば、「多肢択一の過去問で出題された選択肢をバラバラにして、正誤を判別させる問題集」ということになります。選択肢別に正誤を判断させる、だから肢別ですね。

選択肢ごとに正誤を判断するというスタイルから、他の選択肢を組み合わせての推理がつかえません。
よって、知識の質と量が備わらないと使いこなせないとも考えられます。私も上級者向けの問題集だと思っていました。
逆でした。むしろ初学者からずっと使える問題集です。

なぜ肢別過去問集を使ったのか

私は以前の記事で以下のように書いております。

テキスト・問題集の選び方
(中略)
問題集を選ぶときも上記の"まず過去問を解く"やりかたを使います。
行政書士試験の択一問題は時折推理で解けます。全肢の正誤について知識がなくとも、知っている知識から消去法で解けるってやつです。
しかし過去問を解く時も上記1.の通り答えの理由を自分なりに付けて選択する癖がないと、覚える数が膨大に膨れあがり暗記勝負になってしまいます。そして、昨今の行政書士試験は単なる暗記では合格しにくくなっているようです。
私の場合、2019年の試験直前には使用していた伊藤塾の問題集について5周(A~Bランクで間違えていた問題に限れば7周以上のものも)しましたが178点で落ちています。
消去法に頼るのは最終手段にするため、圧倒的な"納得して肢を選択する"力を養うには、一肢別ごとに正誤を検討させる肢別過去問集が最適だろうと考えたので、TACの<合格革命 2022年度版行政書士 肢別過去問集>を選択しました。

独学で行政書士試験に再々チャレンジしてみた ①何を心掛け、どう準備したか。

過去問集を回して自習する人は多いと思われます。
何周もした結果、自分自身では選択肢を判断しているように錯覚しているけど本当はその問題の(消去法の)流れを覚えてしまっていて、なーんも考えていないってパターンで時間を融かしている人もいます。2019年に不合格だった私です。
2022年の私はこのパターンを繰り返せばまた落ちると思いました。記述を捨てないにせよ、5肢択一・多肢選択で180点を目指したい。捨て科目をつくらずに全科目で拾っていきたい。
そのためには消去法にたよらずに答えを確定させたい、消去法になるにしても選択肢の絞り込みの精度を高くしたいと考えました。

選択肢だけで判断するには使える知識の質と量が必要です。
そして、知識の質と量は消去法の推理の精度をアップさせます。さらには推理などしなくても即座に回答を選択できるようになります。
私は以前のnoteで、その様を圧倒的な"納得して肢を選択する"力と表現しております。
肢別過去問集で余計な選択肢を見ずに、ひとつずつの選択肢の正誤を判断できるようになれば、この"納得して肢を選択する"力が身に付きます。

なぜ初心者にもいいと思うのか

肢別本のいいところはいうまでもなく「一つの肢の正誤だけを判断する」点です。
これは初学者にとっても利点で、今勉強している単元に直結する肢だけ見ることができます。やったところだけ確認する、テキストの章末問題を沢山まとめたものだと思えば意味がわかるでしょう。

試験で出題される問題は広い分野を一問に詰め込んでくることがあります。例えば、令和2年の問題9は、

問題 9  行政行為(処分)に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当な ものはどれか。
1  処分に重大かつ明白な瑕疵があり、それが当然に無効とされる場合において、当 該瑕疵が明白であるかどうかは、当該処分の外形上、客観的に誤認が一見看取し得 るものであるかどうかにより決すべきである。
*無効な行政行為*
2  行政庁の処分の効力の発生時期については、特別の規定のない限り、その意思表 示が相手方に到達した時ではなく、それが行政庁から相手方に向けて発信された時 と解するのが相当である。
*行政行為の効力の発生時期*
3  課税処分における内容の過誤が課税要件の根幹にかかわる重大なものである場合 であっても、当該瑕疵に明白性が認められなければ、当該課税処分が当然に無効と なることはない。
*無効な行政行為*
4  相手方に利益を付与する処分の撤回は、撤回の対象となる当該処分について法令 上の根拠規定が定められていたとしても、撤回それ自体について別途、法令上の根 拠規定が定められていなければ、適法にすることはできない。
*行政行為の撤回*
5  旧自作農創設特別措置法に基づく農地買収計画の決定に対してなされた訴願を認 容する裁決は、これを実質的に見れば、その本質は法律上の争訟を裁判するもので あるが、それが処分である以上、他の一般的な処分と同様、裁決庁自らの判断で取 り消すことを妨げない。
*行政行為の不可変更力*

 一般財団法人 行政書士試験研究センター 令和2年度試験問題より。ただし、*太字*は引用者による追記。

というように、大きくわけても無効な行政行為、行政行為の効力発生時期、行政行為の撤回、不可変更力を1問で問うてきます。これを過去問集でいきなり初学者が見ても手はつきにくいでしょう。やってないところもあるでしょう。
しかし肢別本なら違います。これらは全てばらばらにされ、単元ごとにまとめて出ます。
(上記問題の単元は私が使った2022年度版の合格革命 肢別過去問集で確認しています。)

誤解をおそれずに言えば、普段の問題演習は肢別過去問集だけでもいいくらいなのです。
(実際、私はこれまで模試にも申し込まず、合格した2022年は予想問題集・通常の過去問集は買っていません)

デメリットらしいデメリットはほぼない。

デメリットとして、肢別過去問集はボリューミーだから回すのが大変、とよく言われます。
とある合格者さんがカウントされたところ、

合格革命 肢別過去問集 2020年度版 問題数は、Ⅰ憲法338問、Ⅱ行政法973問、Ⅲ民法780問、Ⅳ商法203問、Ⅴ基礎法学43問、Ⅵ情報通信・個人情報保護55問の合計2,392問でした。

KaMe氏のブログ還暦過ぎの行政書士チャレンジ合格革命の肢別過去問って何問ある?

とのことでした。
だいたい2,400肢。たしかに数字だけ見るとたくさんです。
しかし、5肢択一ならば上記2,400肢は480問相当です。1年あたりの5肢択一の出題数は54問ですから、択一480問分とは過去問9年分程度です。
ちょっと頑張っている受験生なら、10年分くらいの過去問を潰すようなので、多すぎということはないでしょう。
合格に必須なAランクや、実力アップに役立つBランクに絞るならさらに減ります。

正答率が高くなった肢についてはパスするようにすれば、回転速度は出鱈目とも思えるほど早くなります。
肢別過去問集の使い方のポイントは「肢別の正解率で自分の弱点を細かく浮びあがらせて、高速で虱潰しにする」ところにあるのです。

さらにあえてデメリットを上げるなら、以下の通りでしょう。しかし、

  1. 本番形式の問題とは異なるので実際の解答テクニックの練習にはならないこと
    →知識の質と量が増せばテクニックもより効果的になる。

  2. 初学者向けではない肢があること
    →試験の本番では初学者向けの肢なんて区別はないから、いつかは解けなきゃならない。まずはすっとばしてもいい。

  3. 全くおなじ選択肢はおそらく二度とでないこと
    →全くおなじ問題がでないのは肢別に限ったはなしじゃない。

  4. 古い問題まで掲載されているから無駄に思える
    →古くて無価値な論点なら掲載されない。試験対策上、重要な論点なら最新の法令などにあわせて出題されている。

ともいえるから、肢別過去問集にデメリットらしいデメリットはほぼないのです

実際の使い方

そうは言っても、肢別をダラダラと最初から最後まで愚直に解くと時間はいくらあっても足りません
そこで、私は次のルールで肢別を回しました。

  1. 行政法→民法→商法・会社法→憲法・基礎法学の順にAランクを回す。

    1. とにかく行政法と民法のウェイトは高いので、できるだけ早いうちにAランクを習得してしまう。

    2. 単元毎、Aランクのみなら勉強した日にまず1周、次の日にもう1周とか十分できる。

  2. 悩まない。1肢30秒を目安にさっさと○/×の判断つける訓練をする。なぜなら、本番で1肢にかけられる時間も30秒くらいだから。

    1. ※試験時間180分、記述3問に20分と見直し10分として5肢択一・多肢選択にかけられる時間は150分/57問=2分40秒/問です。1問あたり5つの選択肢を判断するのに、32秒しか判断する時間はありません。

    2. 実際にはもっと余裕あるだろうけど、最悪想定で処理する手と「私は30秒あれば十分正解がわかるように鍛えた」という心構えを持っておくと心理的な余裕がちがいます。

    3. なお、私は本番では1問につき30秒で次に移り、全体を何周もするという変な解き方をしました。肢別に頼りきった末の戦術とも言えます。

  3. 肢の正誤につき直近連続3回正解で習得と判断し、以後ルーチンからパスする。Aランクの習得率が体感7~8割になったら、Bランクを回しはじめる。

  4. 何回やっても直近連続3回正解にならないものは明らかに知識が身に付いていないから、条文や判例に丁寧に照らして理解する。

    1. 連続2回正解→誤答→正解のパターンなど、「おしい!」ではないのです。ただただ運で当たっただけと見切ったほうがいいです。

    2. ○/×の2択でたまたま2回連続ヒット……は25%のヒット率です。4回に1回はおこります。3回連続ヒットは12.5%です。10回に1回はおこります。

  5. 1ヶ月毎にパスできるようになった肢を復習し、間違えたら再度ルーチンにもどす。3ヶ月パスできた肢は完全習得として扱う。

    1. ここで3ヶ月もパスするには、都合6回(初月3回+1ヶ月~3ヶ月復習3回)連続ヒットしなければなりません。1.56%のヒット率ですから、100回に2回おこるかどうかです。
      むしろそこまで正答できるなら、覚えている可能性が高いでしょう。

  6. 一般知識(というより、情報通信・個人情報保護)は肢別から除外する。

    1. これは私がITエンジニアという仕事柄、とくに勉強しなくても情報通信について正解できるためです。

    2. 不安なら除外せずに解くといいでしょう。

  7. 試験直前1ヶ月は行政法と民法のAランクとBランク、商法・会社法・憲法・基礎法学のAランクだけ(完全習得したものも含めて)集中して再確認する。

    1. とくに行政法と民法のBランクは商法・会社法のAランクと同等…くらいの思いで行政法と民法にウェイトをおく。主戦場はそこ。

    2. そこまでやってまだ時間があまりそうなら、商法・会社法のBランク、憲法・基礎法学のA・Bランクを潰そう。

このやり方で練習した結果、2022年は行政法は14/19問、民法はすこし低くて5/9問、商法・会社法は2/5問、憲法は5問全て、基礎法学は1/2問と取れました。
2022年の私は捨て科目を作らず、とにかく全科目で点を拾う作戦でしたので、まあ大外れではなかったのでしょう。合格したらそれでいいのですから。

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