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クライエントが傷つけれたと感じるカウンセラーはなぜたくさんいるのか。

SNS上を追っていると、SNS上でもリアルな面接場面でも、クライエントさんがカウンセラーに傷つけられた、ひどいことを言われたという体験談がたくさん載っている。

私も、過去、リアルワールドでの面接で、そういう反応をしてしまったことを反省・後悔したことは何回かある。

なぜそうした現象が生じるのかについて、私なりに考えてみたい。

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まずは、もう、20年以上前になるが、私自身がそういう事態となって、あとで反省した事例を紹介したい(もう時効だと思うから、詳しく紹介しても、もしそのクライエントさんがそれを読んでいても、許していただきたい)。

そのクライエントさんは、それまでカウンセリングを受けていたカウンセラーがひどい対応をしていて、そのカウンセラー(臨床心理士ではないが、他領域での公的資格は持っていた)の所属する団体の倫理委員会に繰り返し文書で苦情を言ったが、倫理委員会の対応に大いに不満があるという主訴で、私のカウンセリングルームを訪れた。

そのカウンセラーがどういう態度をそのクライエントさんにとったのかはここでは省略するが、倫理委員会は、そのカウンセラーを召喚して事情を聴くことまではしてくれたようである。

それまでにクライエントさんは膨大な量のやりとりを倫理委員会と重ねた。
面接の経過、面接が破綻してからの膨大なメールのやりとり、更には倫理委員会とのやりとりも私に見せてくれた。

そのカウンセラーの倫理委員会での言い分も、倫理委員会は文書で回答を示していたが、そこでなされていた弁明は、かなり自己弁護的と思われた。クライエントさんがカウンセラー自身とメールのやりとりをプリントアウトしたもので示してくれた内容とその弁明には、明らかに齟齬があった。

私はそのクライエントさんの話を、延々3時間にわたって聴いて、次回の面接の予約を交わした。

ところが、その次回の面接(カウンセリングルームと自宅は自転車で5分ほど離れていた)に、私は私の腕時計で2分遅刻してしまった。

訪問者が一階の玄関ロビーのインターホンで部屋の番号を押して通話して、はじめてロックが解除させる、マンションでおなじみのシステムになっていたが、私はあわててロビーを見回し、さらにはクライエントさんが来るであろう(つまり帰り道にも使うであろう)駅方向に向けて少し走って探してみたら見つからなかった。

私はすぐに面接室に向かい、固定電話の留守電で確認したが、1件、無言ですぐに切れたメッセージが残されていた。クライエントさんに私の携帯番号は教えていなかった。

ところが、私はそのクライエントさんに折り返しの電話をしなかったのである。もちろん迷った末であったが。そのクライエントさんから再び電話がかかるのを受け身に待ってしまったのである。

私の中には、むしろそのクライエントさんへのいら立ちに近いものが生じていた。

「2分ぐらい待ってくれてもいいだろう」と。

それまでも、面接室に遅刻したことはあったが、クライエントさんが10分ぐらいは待ってくれていることばかりであったから。

その日の夕方になって、クライエントさんからメールが入った。

「あなたのブログを読んでみたら、15分前までコメントのやりとりをしていたではないか」

私はそのことにむしろ、この人はそこまでやるのかと驚いてしまい、こんなことだから前のカウンセラーとも揉めて当然だ、という方向に思考回路が働いてしまった。

そこで、

「私は自転車で5分のところに住んでいる。だからお約束した時間の2分後にはたどり着いていた」

といいわけをはじめ、暗黙に「2分ぐらい待ってくれていていいだろ」というメッセージを込めたことを抗弁してしまった。

あとで電話をかけたが、私はしどろもどろの言い訳を重ねた。クライエントさんは、

「あなたは初回面接の際に私が5分前にインターホンを押したら、『定刻まで待ってください』と言ってくれたので、むしろ几帳面な先生として信頼していいと思っていたのに」

と。

その後のやりとりは次第に押し問答になってしまい、クライエントさんは、

「もういい!」

と一方的に突如電話を切ってしまった。

私は折り返しの電話もかけないままであった。

この段階で、私の中に、このクライエントさんは性格上相当問題がある、前のカウンセラーと揉めたのもそれがベースになっているのだという「アセスメント」のみが頭の中を駆け巡っていた。

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それから約1年ぐらい経って、すでに私が故郷に引っ越した後に、そのクライエントさんから突如電話が入り、

「倫理委員会に報告した」と。

私はその時このクライエントはなんと「しつこい」のだ、しかも一年も経ってと逆上してしまい、激しい口調で応対してしまった。

クライエントさんは、「もういい!」と電話を切ってしまった。

既に述べたように、私の中には、「こういう」クライエントさんだから、前のカウンセラーとも揉めごとを起こしたのだという思考経路しかいよいよ生じなかったのだ。

それから更に半年以上経って、実際に倫理委員会から文書での通達が届いた。会場として東京のホテルの会議室を借りるからと、出頭候補の日時の選択肢すら4つ示してくれていた。交通費も支給すると。

しかしその頃の私はひどい抑うつ状態にあり、しかもたいへんに生活も苦しくなっていたため、すでに資格を返上しようと考えていた。

あとで考えれば、抑うつ状態にあった時に「決定的な決断をすべきではない」というよく言われることに従っていればよかったとは思うだが、その時は、むしろこれは「いいきっかけ」だから返納してしまおうと、郵送で資格証を送ってしまった。

それでも倫理委員会は更に2回にわたって話し合うきっかけを設定する文書を送って来たのだが、それには私は返事をしなかった。

これが私が臨床心理士の資格を「返上」し、その後フォーカシングの国際資格だけで細々と開業カウンセリングをするに至る経緯でもある。

恥さらしではあるが、これも機会に告白しておく。

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この経過について皆さんはどう思われるだろうか?

クライエントさんが、結局一回限りとなった面談で語った内容からすればは、務めていた会社では基本的には従順な人だったようだ。

それが上司との間でもめ事が生じて、それをきっかけで会社を辞めたといういきさつだったように思う。面接の際にも、非常に礼儀正しい印象があった。

それで私は同情して3時間も話を聴いてしまったわけだが。

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このクライエントさんについて、私と同様に、性格的にかなり問題がありそうという「アセスメント」が駆け巡る同業者の方もおられろう。

そして、そういうクライエントさんにカウンセラーとしての私が「巻き込まれて」しまったのだと。

しかし、仮にそうしたアセスメントを「心の中」で私がしてみることは意味があるとしても、ろくすっぽ自分の方からあやまりもせす、冷静になって、再度の面接の機会を私の方から提案しなかった私は、どうみても未熟なカウンセラーだったと言わざるを得ない。

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20年前まで、ここまで未熟だった私が「若き臨床家のために」を書き、ネット上でも偉そうなことばかり書いているわけであるが、これに似た悪循環でクライエントさんにネット上で苦情をネットで書かれたカウンセラーの方もあろうかと思う。

誤解なきようにここで強調したいのは、ネット上で苦情を書かれるカウンセラーは、クライエント側にも性格的に問題があったのだということをここで言いたいわけではない。

相談に来られるクライエントさんの方が、対人関係の中でトラブルに巻き込まれることを繰り返し、一見些細な引き金で、カウンセラーも感情的にふるまいたくさせるのはあたりまえのことである。

それに的確な対応をできないカウンセラーは、どうみても未熟である。

クライエントさんが、リアルな日常の中でも、他の人からぞんざいな扱いを受けてきたであろうことに思いをはせ、冷静さを保ちつつも、むしろそのことに「同情」して、むしろいろいろじっくりと話を聴くモードに入れてこそ、「プロ」のカウンセラーであり、それだけでも、クライエントさんは「この人は他の人とは違う」と信頼をよせて、いろいろ更に話してくてるきかっけとなる方向へと、カウンセラーは心配るだけの余裕を持てるべきである。

むしろせっかく話が深まるチャンスを逃しているのである。

カウンセラーは、要らぬブライドなどを持たず、下手に「専門知識」からクライエントを「分析」して(心の中でするのはいいし、むしろ必要だ)マウントをとろうなどとはせず、ましてやクライエントさん(あるいはクライエントになる可能性のある人たち)に、専門用語を口にする形で応対するようなことをしてはならない。

少なくとも「これまでもそうやってあなたにとっての重要人物からひどいことを言われてきたのですか?」と言葉を返すくらいの冷静さは欲しいものである。

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・・・以上、敢えて一切「専門用語」を使わず書いてみた。

そうしないと、余計に読み手となる皆様を傷つける可能性に思いを巡らせたつもりである。



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