見出し画像

ごほうびのような

商店街の福引も、雑誌の懸賞もお年玉付き年賀はがきもまともに当たったことのない私に、夢のような吉報が訪れた。

「10年目の結婚記念日に絵を買いたい」と綴ったその絵が、わが家にやってくることになったのである。

(その時の日記はこちら)

購入は抽選制。正直、当たらないだろうと半分あきらめていたからこそ、最初の記事を書いたのだ。「記念日にアート」という選択肢が、誰かの心に引っかかりさえすればいいと思って。もちろん、店主さんはそんなこと知るはずもない。奇跡のようなご縁に、連絡をいただいたとき胸が震えた。


信じられないような幸運に恵まれると、「ここで運を使い果たしてしまったんじゃないか」と不安になる。バチが当たったらどうしようと、絵を受け取るのが怖くなったほどだ。

おそるおそる、届いた絵を広げた。

壁に飾ると、来たるべくしてわが家にやってきてくれたかのようにしっくりと馴染んだ。私と同じ、シニヨンの横顔の彼女。その輪郭を眺めるうちに、「この幸運に恥じないようにがんばろう」という気持ちがこんこんと湧いてきた。


身にあまる褒め言葉をいただいたり、実力以上に思える仕事を依頼してくださったりすると、自分には不相応に思えて肩をすぼめてしまうことがある。予想外の幸運に対してもきっと、それまでの自分の行いを振り返って、不釣り合いだと思ってしまうんだろう。

でも、それは選んでくださった人に(運であれば神様に)、失礼だ。
「あなたの目は節穴です」と言っているようなものだもの。
「あなたを選んでよかった」と言ってもらえるように、過去ではなく未来で恩返ししていけばいいのだ。


息子に買った絵本で、大好きな一冊がある。
荒井良二さんの『きょうはそらにまるいつき』という絵本。
まんまるいお月さまの夜、街の人々も、遠い海のクジラも、野良猫も赤ちゃんも月を見つめる。それぞれの暮らしを煌々と照らすその月を

みんなのよるに それぞれのよるに ごほうびのようなおつきさま

と謳う。


「ごほうびのような」

そんな瞬間が、誰にだって必ずある。
それが私に舞い降りた。
明日からもまたがんばります。



[一日一景]
___1日1コマ、目にとまった景色やもの、ことを記しておきます。

西脇一弘さんの人物画。実在する人ではないそうだけれど、どこかで出会ったことがあるような、他人とは思えないような引力がある。
ようこそ、わが家へ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?