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Column | Kummy.

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イラストレーター Kummy.  による不定期連載コラム。健康的で明るい負の喜劇がはじまる。
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湯の中から春泥論

今日も寒い、明日はもっと寒いのかと 眉をしかめつつ、週間天気は先の先まで一桁の気温が並んでいる。 着込みすぎて肩は凝り、頬は乾燥し眠りは浅く唇はよく剥ける。 温かい飲み物はすぐに冷めてしまうし、取り込んだ洗濯物はなんとなく冷たい。昨日と同じ厚手のコートを着なければいけないのかと、飽き飽きしてくるのがだいたい2月頃だろう。 寒暖差に嫌気がさしながらブーブーと鼻を擤み、春一番がぴゅぅと吹いて標本木を囲んで花を数え、早く開花宣言をしたい大人達が騒いでいる中バタバタと新年度が始ま

ベッドサイド ユスリカ

一日の中で “入眠前” にだけ出現する暗雲がある。 まぶたが重く副交感神経が優位になっているはずなのに、 今日あった出来事を振り返り「あぁ、あれで本当に良かったのだろうか」と雑念の戸を叩いてしまう。 今日の失敗、明日の仕事のこと、漠然とした遠い未来のこと。 深い考え事が尽きず、ぼんやりと瞼上に昇るのは、なぜか決まって入眠前だ。 その思考に触れないよう身体を反らせ “無” という字を瞼の中でなぞり、静かに離れていくのを待ってみる。 そのままストンと寝落ちすることが実はほと

幾日 時折 (3)

少し前の話。 私生活が慌ただしく絵も描けない日が続き、久しぶりに描いた絵は心底気に入らなかった。間に合わせのものを並べたつまらないイメージの食卓、パッとしないし何だか味気ない。 机に向かったものの、次第に首が垂れ、椅子からずり落ち床に伏せ、悩み暮れるを繰り返す。 夜中にふっと降りてくるような絵の神様もご無沙汰で、しばらく放ったらかしにしてしまったばかりに、イメージの干ばつ状態だった。 そんな状態に陥り、鬱々しい中で攻撃的で破滅的に描いてみたりと少しでも刺激を送り、鈍った

幾日 時折 (2)

心に危うさを持っている時ほど、外へ向けた意識が過敏になる。 身の毛がジクジクしてくると全身の緊張が身体の中心に集積し、身の置き場を探しながらメモを開いている。   電車という空間が昔から苦手で、体質的に具合が悪くなりやすい場所だと身体が覚えてしまったせいで、30分以上乗る日、他人の体が密接するくらい混雑した車両に乗ってしまった日は、心拍が上がり激しい緊張感を持ってしまう。 といっても小学生から社会人まで、週5日以上は電車に乗る生活が当たり前だった。 慣れた電車移動のはず

幾日 時折 (1)

運良く座れた祝日 昼の中央線 東京行き。 目深に被った帽子のツバでよく見えなかったけれど 新宿駅から乗り込んだ男女が私の前に立っている。 先輩後輩なのか、敬語混じりで楽しそうに喋っている。 まもなくお茶の水、とアナウンスが聞こえると よく日焼けした脚の女性から話始める。 「高2の時、お茶の水の予備校に行ってて。クラスが ABCDE って分かれてて、一番頭のいいクラスが E で私は下から二番目の B、でも秋のテストで A に落ちちゃって、懐かしいなぁ」 「そのクラスに別