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「答え合わせ」の旅㉝

最終日

特にアラームをかけずに目が覚め、最終日の朝がゆっくりと始まった。今日18時台の飛行機で私はこの国を離れ日本へ帰る、と頭は理解してるようだった。
あっという間なのか、十分楽しんだなのか、まだここに居たいのか、やっと帰れる、なのか。それらのどの気持ちもがあった気がする。

2泊いたこの部屋。最初はそこまで広くないと思っていたが、移動距離がアムステルダムのホテルと全然違うことにいま気付く。やっぱ広いや。
今日の予定はほぼない。もう空港に行くことに集中のため、別の都市に行くのはリスクが高いし、ロッテルダムを散策しようと思っている。
とりあえず徒歩圏内で行けるマルクトハルとキュービックハウス。あとはなんてったって荷物のパッキングが待ち構えてるのでさほど時間はない。

朝の準備をのんびりしながらインスタで話す。あぁ日本はまたも夕刻。早くも1日が終わろうとしている。そっちの時間に私も戻るのか。タイムスリップのよう。
もうこの部屋には食べ物がない。朝食兼昼食はマルクトハルで食べよう。

こんなにのんびりしているのはレイトチェックアウトを申し込んでいたから。もちろん旅前に手配済み。
最終日14時には、ここロッテルダムを離れ空港に向かいたい。パッキングで慌ただしい&ホテルを通常の11時に放り出されても早すぎる、と未来図が見えていた。
うーん、レイトチェックアウトとかどないやろ、できるのかなぁ、メールで聞く?と悩んでいた頃。
グッドタイミングとしか言いようがなくこのホテルから直接かExpedia経由だったかメルマガが届いた。
見るとオプションのキャンペーン案内だった。お部屋のグレードアップやデコレーションなどのオプションプランの中に、レイトチェックアウトの文字をみつける。むむ?!と目を見開く。
通常11時までのところ13時まで。で、いつもより割引になると。計算すると+1,800円ぐらい。ふむふむ、ええんやない。もはやアムステルダムなど市税も入れたら1泊3万はしてると思う。こちらロッテルダムは1泊1万ちょっと。安くてしょうがなく感じる。しかも問い合わせの手間も全て省けた。悩む間もなく申し込む。
当日を迎えた今も、この選択は最適だったと感じる。

さて。とりあえずマルクトハルにご飯食べに行こうっと。昨日調べてたら、食べ損ねていた名物のフリッツ(ポテト)が売ってそうだった。食べれるといいな。
マルクトハル、きっと綴りはMarket hallとかなのだろう。オランダ語読みも想像できてきた。いざ。

日本の天気は晴れてるのかな、雨なのかな。折り畳み傘はスーツケースにしまって良いものか。日本のみんなにインスタで聞くことにした。
外はしっかり寒くて、ロッテルダムの景色はやはり無機質だ。日本でもこんな風景あるんじゃない?というビルがあり、異国の情緒感は薄い。

歩いて15分ほど。ででんと現れた。うわぁでかい。

マルクトハル

到着したのがまさに開店時刻とかだったので、一旦キュービックハウスを見ることにした。戦火に焼かれ再建されたこの街は独特の建築物も多いらしい。
その途中10時だからか鐘の音が聞こえてきた。あそこからかな。録画でもその音色を保存した。

聖ローレンス教会という教会だったらしい

遠目でも見えてきた黄色の奇妙な建物。あれか。キュービックハウス。

キュービックハウス
マンションとしても使われているらしい

その横に露店が出ていた。へぇー、と見物。名物があれば食べたいが、服とか野菜とか。ほぅー。インスタでこの風景も撮っておこう。思った以上に露店の距離が長く時間がないのでもうやめよう、と撤退した。

それでは、とマルクトハルへ戻る。一階がフードコートのような造りだ。私のお目当ては…あった。ポテトぉ。いや、フリッツぅ。やっと出会えた。

ででーん
フリッツででーん

オランダはじゃがいもがよく取れるらしい。お隣のベルギーもベルギーポテトって有名だもんね。ホクホクのポテトはカレーソースをかけてもらった。
開店直後のガランとしているマルクトハル。テーブルがあったため座って食べることにした。テーブルには穴が開いており、なにかと思うとポテト容器を差し込める穴と気付く。
もちろん一番小さいサイズにしてこれ。なかなかにボリュームがある。美味しいなぁと食べてるときに、帰りの飛行機の座席指定をせねば、と思い出す。忙しない人だ。Nijntje Museumで苦労したクレジット二段階認証問題が待ち構えてるため、母にはまたクレジット代用するかもと連絡していた。

なんかログインに苦労した覚えがある。でもなんとかできて、支払いはやはり二段階認証が必要になった気がする。うーん、と思うと支払方法にGoogle Payの文字。あれ、これって…私クレジットと紐づいてるんじゃないっけ?と試してみると。
ビンゴ。支払完了した。すげーや。ターキッシュエアラインズNice。というわけで帰りも無事に通路側をGETし、快適な飛行機の旅が送れそうだ。自分で取れましたと母へ連絡。

やっとポテトを食べ終えると、これも食べなければと。
ハーリング。ニシンの酢漬け。これも食文化の薄いこの国では名物。生魚に慣れている日本人なら躊躇なくいけるそうだ。これはずっと食べたかったがやはり機会を失ってた。空港でのラストチャンスにかけてたがここで食べれるならラッキーだ。確か3EUROくらいで買った。

ハーリング

え、うまーい!想像以上に美味しく感動した。やっと満足できるものを食べられた気がする。ピクルスが臭みを消している。
さてお腹はいっぱいだ。これにてロッテルダム散策終了!戻ろう。大仕事が待っている。

マルクトハルの天井はアート

最後のロッテルダムの街並み。ひんやりと冷えた空気を肺に送り込ませ、ホテルへ戻る。私の肺の奥にあるらしい肺胞とやらが、この国の空気を体内に残しておいてくれないだろうか。私の細胞にいてくれれば記憶から薄れずにいられるかもしれない。

JamesHOTELに戻るとそそくさとバスルームや金庫に至るところにあるものを回収し、ベッドの上に置く。
さぁ荷造りスタート。なんだか暇だからベッドの上にスマホを投げインスタライブを音声だけ回していた。
あとから聞くと音声は全然入っていなかった。

アムステルダムからの大移動を終え、この部屋に着いてから今日まで密かに気になっていたことがある。
ベッド脇に小さくもない黒いゴミの塊がずっと落ちているのだ。たった2泊なので途中で清掃も入れてない。
私が拾わない限りずっとそこにいる。清掃行き届いてねぇホテルだな、と思う反面。到着したときにあんなゴミあったっけ?と不思議にも思っていた。このゴミなんなのだろう。それは荷造り後に判明する。

嵩張るパジャマのスウェットはもう日本にいたときからシミだらけになっていたので、置いていくことにした。
Trashとメモを上に乗せ。
もう飛行機に乗るだけだから顔を洗っておこう。レイトチェックアウトはシャワーを浴びるほどの時間は残されていなかった。

手持ちのボストンバッグには割れ物のお土産たちやら飛行機で使うものを。スーツケースに入れるもの、手持ちのもので蓮舫並みの仕分け。
圧縮できるものは最大限圧をかけ、段々と埋まり行くスーツケース。隙間という隙間に突っ込んで。部屋の巡回に回って入れ忘れはないか確認。
さぁ閉じるぞ。二つに開いたスーツケースは両側ともお腹がぽっこり膨れている。さぁお腹とお腹はくっつくのか。体重をかけて閉める。ガチャン、ガチャン!はち切れそうだがなんとかロックがかかってくれた。鍵をかけたれ!

そこで気付く。私の目線はスーツケースのタイヤへ。
タイヤのゴムひび割れてんじゃん!4つあるうちの2つは縦に真っ二つに割れている。残りの2つはもはや引き裂かれている。ピンっ。謎は解けた。
汚ねぇなぁと思ってた床に転がった黒い塊に初めて手をかける。うわ。やっぱりタイヤの破片だ!
どおりで私着いてから出てきたわけだ!Rotterdam  Centraal Stationからホテルまでの道が異常に長く重く感じていのはこのためか。疲れただけだと思っていた。
ピンクのスーツケースは黙って寿命を迎えていた。

どうすっかな。13時間近だが20分程は残ってたと思う。ボリボリ。足を組んで日本から持ってきていたハッピーターンを食べる。お菓子も小腹用に持ってきたが余ったな。Japanese snackとメモを乗せこれも置いていこう。

もう空港向かう?んーフロントに荷物預けてぶらつくってのもねぇ。ここ駅まで遠いし。頼み方もわかんないし。というかスーツケース。。ボリボリ。まぁ頑張ってスキポールで預けたとして、日本でまで引き摺って帰るのやだなぁ。ボリボリ。そして無事家まで持って帰れてもゴミだよ?しかも粗大ゴミ。最悪オブ最悪。
空港ならスーツケースあるか。でも絶対高いよなぁ。
ま、見るだけ見るか。
チェックアウト5分前だ!少し早いがもうそのままスキポール空港へ向かおう!

本当に怖いことにあんなに使い場所のなかった紙幣が気付けばなくなっている。いくら記憶を逆戻りしてもそんなに使った覚えというか使える場所なかったのに。
チップ~Japanese snackを添えて~の出来上がり。逆かな?Japanese snack~チップを添えて~
もっといたかったな、JamesHOTEL(料金的に)

フロントではまたもクレジットカードをかざさせられる。ほんとに事前に払ってない?二重請求じゃなくて?あ、これ市税か。くそぅ、ロッテルダム、お前もか。
それより最初にデポジットとしてとられた100EUROだかほんとに返してくれてんだろうなぁ?
帰国後血眼になって明細を見たが、さすがに取られてなさそうだった。

重い。重すぎる。このスーツケースが機能してないことに気付いてしまった今、屍も同然だ。石畳の上ではガタガタ恐ろしい音を響かせるので要所要所で持ち上げてしまった。最悪日本でもこれを家まで運ぶかもと考えると、これ以上のタイヤの磨耗は避けたいゆえ。駅に着く頃には息切れしてたと思う。

壮大なRotterdam Centraal Station

Rotterdam Centraal Stationよ、さらば。
どの画角に収めれば彼のすごさを伝えられるのだろう。

もはや迷うこともない切符の買い方。いざスキポール空港へ。電車は動いていそうで安心する。

もはやスーツケースの扱いに集中しすぎて電車内の思い出はゼロ。
ウッドデッキ調のスキポール空港駅へ戻ってきた。
新しいスーツケースを見て回ろう。予算は100EURO以下だな、さすがに。高っ。んでなにこの色。
そもそもこのスーツケースが欧州1週間旅行にはだいぶ小さいのでもう一回り大きいの欲しいんだよなぁ。リサイズしたい。
うーむ。あっちはどうだ。高級志向でなさそうなショップがあったのでのぞく。ディスカウントしてる。88EUROくらいだったか。私のポンコツ計算機はいまだに1EURO=100円よりは高いぞ、で計算してるのでまぁ妥当な値段か。と候補に入れ次を探す。
回りきったところで、あそこより安いところはないなと目星をつける。でも結局サイズ大きくなってない気がする。台に乗ってるし、空間把握能力のない私にはいまのスーツケースとの対比が難しい。

でも他にないし日本での悲劇を予想すると替えるのがいいだろう。パンパンなのも気になっている。途中で開いてしまうのでは?という不安も拭えない。
それでは。スマホ画面でGoogle翻訳を立ち上げた。
「ここで新しいスーツケース買ったら、古いのは処分してもらえますか?」と打ち込み、お店のおばちゃんにHi、I'm Japaneseと声をかけ提示した。

眼鏡を持ち上げ目を細め、それを読んでくれた。数秒経って理解できたのかOK OKと首を縦に振ってくれた。
OK?まじ?やった。
そしたらね。これ欲しいのよ、こっちこっち。と手招き。いま思えばレッドにすれば良かったなと思うが、ブルーを選んだ。台から降ろしてようやく本来のサイズがわかった。あれ。今のより小さい?同じ?絶妙だ。小さいと入らない可能性ある。中を開ける。こういうタイプね、両側チャック付きだった。余計入るかなぁ。
ジェスチャーで今のより大きいかな?入るかなぁ、と聞くと、いけるわよと言ってくれた。
ほんとぉ?まぁ頑張るか。
お会計を済ませ、荷物預かり所に荷捌き台みたいのがあったのでそっちでゆっくりと整理しようと考えていたところに、お店のおばちゃんが店の床を指さした。
そこでやっちゃっていいから。という指示だ。
まじ?ここで?店先よ?え、私もっとスタイリッシュに荷物移動したかったのに。もはや苦笑い。
あ、せんきゅー…と困惑しながら床に広げた。ロックを外すとはち切れるかのようにバーンと開いた。どうにかこうにか詰め込んだのだから果てしなく汚いパッキング模様。なんで店先でこんな辱しめを。

しゃがんでせっせと荷物移動する。ピンクからブルーへ。あ、マスク発見。手持ちへ避難だ!そう、こっちしまっちゃってたのさっき気付いたのよぉ。飛行機マスクないと死ぬよね、良かったぁ。買った甲斐あるわ。
お、入りそう。入るね。スペースなくてボストンバッグにしか入れられなかった何かも移せたから、ちょびっとは大きいのかな。内側のチャックを閉め、外側も前はなんていうの?ガチャンって閉めるタイプだったけど全部チャックのかたちになった。新鮮だ。
なかなか膨らんでたけど、ジーーーーーとチャックが一周回ってくれた。辱しめ完了だ。
おばちゃんがロックは初期設定の000だか123だかさすがに聞き取れる3つの数字を言ってくれた。暗証番号を変更したい場合の説明書など入ってもない。さすがだな。こういう小さいところにも日本の凄みを感じる。暗証番号を変えるか聞かれ、イエスと言うと、やり方を教えてくれた。いまは亡き愛犬の誕生日に無事変えることができた。

床に佇む開きっぱなしのピンクのスーツケースは臓器を全て抜かれたかのようだ。魂が抜けたような生気の無さを感じる。でも天寿を全うできたと思う。
こんな素敵な国に連れてきてくれてどうもありがとう。手を繋いでマンションの階段を下りた出発のときが思い返される。スキポール空港のベルトコンベアから出てくる君だけが心細いこの異国では大事な仲間で、そして希望だった。
旅、楽しかった?と聞きたいがもう答えてはくれない。
ありがとうございました、じゃあこの子をお願いします、とおばちゃんに託す。………じゃあね。

スーーーーっ。新しい相棒は軽快に走る。
いや軽っ。なにこれ。早く替えれば良かった。いやだってロッテルダムの駅までに腕死ぬかと思ったもん。石畳ガタゴト言ってたもん。あいつまだやれるかな、と思ってたけどやっぱ寿命だったんだ。しんみりした気持ちもどこへやら。でもよく最後までこの空港まで動いてくれた。本当に本当にありがとう。

新しい友よ!!

そして出国のチェックインへ足を運ぶ。クライマックスは近づいてきた。最後の最後に足止めを食らうことになるとは、このルンルンの女はまだ知る由もない。
スキポール空港はやはり私にとって鬼門だったのだ。