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短編『何も気にならなくなる薬』その110

仕事が落ち着いてだらけてしまう昼間。

「禁酒法」「カンカン照り」「短編集」「サバイバル」
「舌足らず」

今回はこの五つ。


季節は冬だがしっかりと空は晴れている。
カンカン照りだ。
帽子がなければ冬でも日焼けをしてしまうくらい。
こんなときには仕事終わりのビールが美味い。
しかし、妙な口約束をしてしまった。
あれは夜の夢の話だ。
「もし、お前がお酒を辞めることができれば、多くの富を得られるだろう。
そして、もし、酒に溺れるのであればその身を滅ぼすだろう」
もしコレが神様の類ならバッカスではないことは確かだ。
酒は百薬の長と謳うはずだ。
二日酔いから目覚めた私は、酷く乾いた喉の乾きを水道水で誤魔化し、またその胃をいじめるようにコーヒーを飲む。
「おい、今日も仕事だぞ」
「わかってる」
汚れの落ちない作業着2袖を通し、作業場へと車を走らせる。
相方は信用のできる男だが、舌足らずで愛想がよくない。結果的に私が外交役だ。
そのバランスを取るために相方には運転を任せている。
「少し休憩をしようか」
何か問題が起きてもいいように、なるべく早めに出発する。
車を路肩に停めて、各々が時間を過ごす。
「それ、何を読んでいるんだ」
私の質問に答えるでもなく、本の表紙をこちらに見せる。
「サバイバル?入門書か」
「いや、短編集だ」
「サバイバルについてのか」
「あぁ」
「よく、本が読めるよな。私にはどうにも合わない。それに人間生きてるだけでも十分にサバイバルだろう」
「そういう本だ」
「はは、今回は読めそうな内容だ」
とはいえ本に手を出す気持ちにはなれない。
「今日も飲みに行くのか」
「いや、今日は飲まない」
「お前が?」
「おかしな話だろ、酒を飲まなきゃ儲けるって言われたんだよ」
「禁酒法でも敷かれたか」
「いや、まさか、世の中がお酒を必要としてる。小説も読まない私がこんな事を言うのは変かもしれないが、夢の中で言われたんだよ」
「逆夢かもな」
「嫌なことを言いやがる。とにかく今日は飲まない、そうすれば少しは儲かる。本当だったら続けてみるさ」

「それで、飲まなかったら儲けたか?」
「いや、儲け話はなかった。朝早く起きただけだ」
「得はしたようだぞ」
「なにが」
「早起きは三文の得っていうだろう」
「それなら聞いたことがある。でも三文だけじゃない」
「どういうことだ?」
「飲み代も浮いた」

美味しいご飯を食べます。