6歳の息子と、私の夢が叶った、函館ふたり旅。
「ママとふたりで旅行に行かない?どこ行きたい?」
「いく!はこだていきたい!」
6歳の長男、モリが保育園を卒園し、小学校の入学式がはじまるまでの数日間。
それまで慌ただしかった私に、ちょうど少しだけ余裕ができるタイミングがありました。
生後5ヶ月からモリを保育園に入れて働いていた私は、小さかった息子と長い時間過ごしてこなかったことがずっと、気がかりでした。
もう保育園児のモリは終わってしまうんだ。
今の6歳のモリとたっぷり時間をとって、いっしょに過ごしたいなぁ。
そこで私はモリとふたりで、旅行へ行ってみようかなと思い立ったのです。
モリが函館をリクエストするのは、予想していました。なぜ函館かといえば、おいしいカニでも、きれいな雪景色でもなく、彼の目的はこれなんです。
北海道・東北新幹線。
電車好きなモリは「東京から北海道まで、海の下をもぐって新幹線で行ける」ことをずっと不思議がり、興味をもっていたようでした。そしてことあるごとに、北海道・東北新幹線の終点である「はこだてにいきたい」と言っていました。
函館かぁ。遠いし、旅費もきっと高くなっちゃうなぁ。
私は一瞬そう思いました。
でもこれから学校生活が始まると、なかなか平日に休んで旅行へ行くことが難しくなってしまいそうです。
それに誰かが決めた場所に行くのではなく、「行きたい」と思う場所があって、その場所に行けるなんて、素晴らしいことです。きっとこの先の記憶にも残るに違いない。
私はつぎの瞬間、
「いいよ、わかった。函館に行こう!卒園の記念にね」
そう答えていました。私は彼の夢への支援に、少しばかりの時間とお金をつかうことを決めました。
いざ、函館へ。
ついに、函館旅行の日。
誰が起こさなくとも、モリは早朝5時半に目が覚めます。そうしててきぱきと身支度をして出発。私たちはぶじに時間通り、お目当ての新幹線「はやぶさ」に乗ることができました。
せっかく東北新幹線に乗るので、私たちは盛岡駅で途中下車をして、「はやぶさとこまちの連結」を見ることにしました。
この連結は、盛岡駅と福島駅でしか見れない、電車好きにはたまらないレアシーン。モリはそれを間近でじっと見て、言葉にならない様子でした。
青森と北海道をつなぐ青函トンネルの中は、海底ということもあって、窓の外は泳ぐ魚を見れると思っていたモリ。普通のまっくらなトンネルだということがわかり、がっくり。そして、うとうと‥。
そうしてあっという間に、新函館北斗駅に到着。
新幹線を降りてからも、電車好き息子のお楽しみはまだまだつづきます。そこからは「北斗」という、北海道の特急電車に乗って移動。
旅館につくと、モリの大好きな踏切を何種類もはしごして見ながら散歩して。それぞれ1時間くらい延々と見たりしました。
踏切なんて東京も函館も変わらないように見えるのですが、モリに言わせると「ライトがしかくい」「おとがへん」など、細かな違いがあるようです。私には退屈なこの景色を、集中して何十分も眺めていられるのは、すごいなぁと思わざるをえません。
ふだんの私だったら「もうモリ、行く時間だよ。早く行こうよ!」とせかしていたようなこの状況。私は、
そうそう、こういうことがやりたかったんだよね。
と思ったんです。
時間を気にせず、モリの好きなものにどっぷり付き合ってあげる時間がほしかったんだよね。
6年間「働くママ」として突っ走る中で、時間を少しも気にせず、こうして息子と向き合えたのは、ほんとにごくわずかでした。
私の夢も叶えてくれた。
「ねぇ、ママも行きたいところがあるんだ」
3泊4日の函館旅行も、いよいよ最終日となった夜。私たちが向かったのは、地元の人にも評判のいいお寿司屋さんでした。
せっかく函館に来たのだから、おいしいお寿司を食べてみたい。モリもお寿司やお刺身が大好きです。「子連れだと無理」だとずっと思っていたけれど、もう6歳だし、行っても大丈夫かも?
私は思い切って、子供とふたりで行くには少し高級なお寿司屋さんを予約してみました。予約が取れたのは、この最終日だけでした。なんだかこの函館旅行、そしてモリと私の保育園生活の打ち上げみたいです。
私がこの旅行でいちばん、楽しみにしていたこのひととき。
お店に到着すると、すごく立派な個室に案内してくれます。ここなら万が一、モリが大きな声を出したりしても、心配はいらなそう。お店の配慮をありがたく感じました。
モリはジンジャーエール、私はビールでまずは乾杯。
くぅーー。かつてはミルクを飲ませていた息子と、こんな風に乾杯できる日がくるなんて。
保育園に入れることに罪悪感を感じた日もあれば、
外出自粛中、育児が辛かった日もあったし。
保育園に行きたくないとモリが毎朝泣いた日々も。
‥‥これまでの駆け抜けた6年間を考えると、すでに卒園式を終えたモリが、目の前で静かに満足そうに食べる姿が信じられなくなります。
お寿司はせっかくなのでいちばんいいコースを奮発して、ふたりでわけっこしました。
いくらは仲良く、1貫ずつ。
真っ先にカニのお寿司をとられます。そのため私はモリが頬張っている間に、トロをいただきました(笑)
脂がしっかりのっていて、お口の中でとろけるとろける。今まで食べたどのトロもきっと叶わない、おいしいの頂点にあるようなトロでした。その味は儚く、一瞬でとけて消えてしまうようです。
こんな幸福感の中でいただく、最上級においしいお寿司たち。
私はまさに打ち上げのような、ひとつの区切りに到達したような満たされた気持ちになり、気づけば日本酒までオーダーしていました(笑)
息子とふたりでいるときに飲むなんて、もちろんはじめてのこと。モリも「ママがにほんしゅのむの?おじいちゃんじゃなくて?」と、意外に思ったようでした。
私の気持ちが伝わったのか、モリもいつになくしあせな様子で茶碗蒸しをほおばっていました。
そういえば「息子とふたりで飲みに行く」というのが、夢のひとつだったことを思い出しました。
東京だったらこんなお寿司屋さんに、モリとふたりで来ようなんて、きっと考えもしなかったでしょう。モリの夢を叶えるために来たはずなのに、今こうして私のちいさな夢まで叶っている。
コースにひとつだけつく、デザートのアイス。
私が当然のようにモリに譲ろうとすると、お店の方が「お母さんもどうぞ」と気を利かせてくださって、2種類もいただくことができました。
モリには、ゆずの味。私には、わさびの味。
口の中がさっぱりと締まるような、爽やかな清涼感。さりげない優しさに、ここでも嬉しさがこみあげます。
「いっしょに旅行、楽しかった?」
お店を出て、ホテルまで歩く夜の道すがら。函館の肌寒さをむしろ心地よく感じながら、私はほろ酔い気分でモリにたずねました。
「うん!またぜったい行きたい」
モリはやっぱり、即答します。握った手が少しだけきゅっと、かたくなりました。
「じゃあママ、お仕事がんばらないとな。またモリくんと旅行できるようにお金ためなきゃ」
こくん。モリはだまったまま、納得したようにうなずきました。
「モリも小学校、たのしんでね。また旅行できるようにママがんばるからさ」
モリはあと数日で、小学生になります。保育園のお友達が、ひとりもいない環境へ行きます。
モリが保育園に行きたくないと泣いたりする日々のことは、このnoteにも何回か書いてきました。新しい環境が苦手なモリなので、私は内心、小学校のスタートをかなり不安に感じていました。
でもさっきおいしいお寿司を食べながら、ふしぎと私は「だいじょうぶ、モリはきっとだいじょうぶ」そう思えたんです。
いろいろあったけど、モリはちゃんと自分の力で乗り越えてきた。私も仕事を続けながら、ここまでよく6年間育てることができた。だからきっとこれからも、私たちならだいじょうぶ。
不安だった6年前からすると、今は少しだけ、自信がついているような気がします。私も、モリも。
それに今回の旅行で、私はモリとまたひとつ絆が深まったようです。モリの好きなものに触れて私も嬉しかったし、モリに何かあればきっと話してくれそうな気がします。
思いがけなく決まった、函館母子ふたり旅行。
それは母子ふたりのささやかな夢を叶え、ひとつの達成を感じられた、いいひとときとなりました。
次男が卒園のときも、旅行できたらいいなあ。次男はどこをリクエストするのかな。今から楽しみでしかたない私です。
小森谷 友美
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保育園に行きはじめたばかりの頃、
不安だった私に勇気がわいた日の話。
保育園に行きたくないと、
毎朝泣いてたころの話。
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