30代後半の夫が、天使に見えた日。
「明日からお弁当をご用意ください」
保育園から、さらっと書かれた衝撃のメールが来たのは、仕事中。火曜日の午後3時のことでした。
調理に関わる職員さんが、濃厚接触者になってしまったとのこと。
えええええええ!明日から、お、お弁当‥!?
息子たちの保育園では、毎日手作りの給食がでます。メニューもいろいろ変わり、おいしくて栄養たっぷり。私は3食分の1は、その給食に頼りきりでした。
しかし明日からは、お弁当。ただでさえ忙しい朝に、しかも2人分!献立を考えて、栄養とか、いろどりとか・・これからしばらく続く平日の朝のことを考えると、気が遠くなります。
同じクラスのママ同士が繋がるLINEでは、さっそく、明日からのお弁当の話題でもちきりに。
私はいつもより30分早く仕事を切り上げ、スーパーとお肉屋さんと八百屋さんへ向かいました。
ハンバーグの挽肉、唐揚げのもも肉、冷凍のエビフライに、ミニトマトとブロッコリー。おっと、アンパンマンポテトとソーセージの救済策も忘れずに。これでひとまず、今週は乗り切れるはずです。
その日は夕飯を作りながら、翌朝のハンバーグ用の玉ねぎを炒めました。
よし、私にしては段取りはかんぺき!!!できる母!
あとは明日ちょっと早く起きて、ご飯を炊いて、用意したものを詰めればOK。そう思って、眠りにつきました。
「できる母」だったはずが。
しかし。その晩はなんだか寝つけず、朝になると、私の体調がよくないのです。
起きてこない私に、夫は「大丈夫??」とおでこに手を当てて熱をたしかめ、リビングへ戻っていきました。私はそんな夫の背中を追うように、
「おこ、お米だけ、炊いて・・・」
朦朧としながら言います。
キッチンからはお米をジャーッと出す音が聞こえたので、安心してまた眠りの世界へ入っていきました。
・・・
子どもたちの声が、遠くで聞こえます。
窓の横の時計に手を伸ばしてみると、、
・・え!!!
もうすぐ出る時間!!!!
私は慌てて飛び起き、リビングへ行きました。
すると、「ママ〜起きるの遅かったよ〜」という息子たち。お皿の上には食べかけのカリカリに焼かれたソーセージと、つやつやの白いご飯がのっています。私の慌てっぷりとは真逆の、平和な光景がそこには広がっていました。
(とりあえず、お弁当を、作らなきゃ!)
私に残された執行猶予期間は、あと10分。
息子たちが出かけるまでに、なんとしてでも2つのお弁当を完成させる必要があります。
しかしキッチンへ行くと、私は驚くべき光景を目にすることになります。
なんとそこには、完成された色とりどりのお弁当が、大小ふたつ並んでいたのです。
エビフライに、ソーセージに、ミニトマト、ブロッコリー、それに大好きないちご。すごい、彩りも栄養バランスもかんぺき・・!
私は昨晩、自分のことを「できる母」だと一瞬でも思ったことが恥ずかしくなりました。
私が寝坊する間に、子ども達に朝食をつくって。揚げたり茹でたりして、お弁当までこしらえて。
「誰がつくったの?天使?」
その答えは聞かなくても明らかでした。うちにいるのは可愛いふたりの小さな天使だけかと思いましたが、もうひとり、別の天使がいたようです。30代後半、男性ですが(笑)
背景には、義母のワーママ時代の苦労。
「よくできたね?」
私はそう夫に言わずにはいられませんでした。
というのも、夫は中国人。4歳のときに中国から日本へきたのですが、日本風のお弁当をつくってもらったことは皆無。
夫のお母さんは料理がとても上手ですが、お弁当の内容は日中でちょっと違います。
中国人のお弁当は、タッパの中に白いごはんと炒め物がどーんと入るとか、白い水餃子が入るとか、そんな感じ。食べればおいしいのですが、見た目の彩りやおかずの種類などは、日本人ほど意識しないことが多いようです。
「遠足のお弁当には、スーパーで買った唐揚げとか、おにぎりを入れていたよ。日本の友達と食べても、恥ずかしくないように」
義母が言ったこの一言が、私はずっと忘れられずにいます。
義父は中国で働いていたため、義母は日本で息子をひとりで育てながら働いていました。小学生から大学生まで。ずっとです。
しかも午前中と午後で、仕事を掛け持ち。その距離は、電車往復3時間ぶん(!)あったそうです。家に帰るのはいつも夜9時前後だったと言います。お母さんはまさに、フルタイム以上のワーママだったんです。
日本人だって大変だろうに、外国人であれば、想像を絶する大変さです。
そんな中、恥ずかしくないようにとか、時短、コスパ、いろいろ考えた挙句、スーパーの唐揚げとおにぎりをお弁当箱につめることにしたんだそうです。自分と息子にとっての最善策がそれでした。
状況に応じて、必要な手段をえらんでいく。それはとても、理にかなった生活の工夫です。無理して手作りするより、それのほうがまさに、できる母だったと思いました。
夫は子ども時代、日本風の手作りのお弁当こそ食べたことなかったけれど、働くママの苦労は身近でずっと見てきました。
だからこそ、こうして働くママが妻になった時も、当たり前のように動くことができるのだとわかりました。
息子にも天使になってほしい。
私は息子たちにも将来、「家族の天使」のような人に育ってもらいたいと思っています。
稼ぐ力だけじゃなく、「自分と家族のご飯を自分で用意する力」があれば、きっとどんな状況でも生きていけるから。
それに息子のお嫁さんになる人にだって、働いて社会の一員として役立つ生きがいを感じてもらいたい。
女性の社会進出というけれど、それを後押しするのは、間違いなく私が今育てている男の子たち。彼らが料理や家事を積極的にすることで、女性が社会に出やすくなるのは当然の成り行きだと思うからです。
私の寝坊と、夫のつくってくれたお弁当からはじまり、最後はこんな壮大な目標に行きつきました。
保育園のお弁当は結局、この日でおしまいに。次の日からは給食が復活。ママさんLINEには、ほっとしたスタンプがならびました(笑)
今日はバレンタインです。チョコを用意できなかったので、この文章をわが家の天使に贈ろうと思います。
すてきなバレンタインを。
小森谷 友美
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