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飛騨高山ウルトラマラソン2023(後編)

前編はこちらから。

【50~60kmまで(1:10:40): 同行者ゲットだぜ!】

50kmからはじまる通称「裏ボス峠」をドスドス歩いて(たま~に走って)いると、かなり前方に黄色いTシャツが見えて、あれ?あれはもしかして知っているポケモンランナーさんかな?と、じわじわ距離をつめようとちょっとがんばる。高低図ではさほどたいした坂には見えないのだが、裏ボス、と言われるだけあって、歩き区間が多くてなかなか追いつけない。頂上のちょい手前くらいでようやく捕獲して確認すると、おお、某村人のNさんではないですか。元々は私より相当速いペースの方で、追いつくことはないと思っていたのでびっくりしましたが、膝の調子が悪くて苦戦しているとのこと。とてもつらそうだ……。とはいえ、後ろから肩ぽんしたら息を吹き返したようで、上りはしっかり走っておられて、ちょうどいいペースなのでしばしご一緒させていただく。経験者だけあって、この先の行程どうなってるかも的確に教えてくれるし、私にとって気を遣わずに話せる方なので、好き放題ブツブツ言いながら進めて、個人的にはとてもラッキーだった。

そうこうしているうちに、めちゃくちゃ楽しみにしていた私設エイドに到着。目印の黄色いTシャツは……うおう!?いないはずの人がいて笑うw ここまでエイドにお茶がなかったので、いただいた麦茶が染み入ります!あと、奥様、おきれいですな!トイレ休憩中だったエイド主Mさんにもお会いできてテンションがMAXに。いつも思うけれど、顔を見るだけで元気をもらえる方だなぁ。ありがとうございます!カルピスをたくさんボトルに入れてもらったりわちゃわちゃしているところに、道中抜いた覚えのないCさんも合流(トイレですれ違いだったそうです)。うれしはずかし3人旅に。なんだこのボーナスステージは。

脚を傷めているはずのNさんが率先して引っぱってくれて、キロ6ちょいのナイスペースで進む。一人だとダレそうなところをありがたい。ついでに57.2kmエイド(丹生川支所)に向かう道中で、Cさんが「飛・騨・牛!飛・騨・牛!」とご機嫌に歌ってくれるので、どんだけ飛騨牛楽しみかよwwと思いながら私もすっかり楽しくなってペースアップ。牛パワーすごいし、Cさんがかわいい。

ご馳走エイドにて、飛騨牛にありついたお二方を激写。エイド一帯に焼肉のい~いかおりが漂っていて非常に魅惑的なのだが、絶賛お腹PP中の私は涙を呑んで我慢……あ、でもトマト素麺はいただきました。おいしーい。

飛騨牛ゲットだぜ!


エイドに入るまでに応援してくれる方々の歓声もすごくて、もうここがゴールでもいいのでは!?という素敵エイドでした。まぁまだ全然ゴールじゃないんだけどね!



【60~70kmまで(1:24:45): 千光寺激坂……は歩くよ!】

前日に下見までさせていただいた(そしてビビった)千光寺までの激上り。車から見ていたよりも、実際に歩くとはるかに急な傾斜で、ここに来るまで「次のセグメントは休憩区間なんで!」とか鼻息荒く言っていた自分が赤っ恥である。全然休めない。歩いてるのに息が上がるし、脚がダル重になる。この2kmの歩き区間は、ゲットしたポケモンたち同行者がいて本当によかった。なんというか、物理的には同じ疲労度でも、しんどいしんどい思いながら黙々と上るのと、取るに足らないしょうもない話で気を紛らわせながら上るのでは、精神的がんばり力の温存具合が全然違う。その苦行が30分近くも続くのだ。とてもありがたい。

個人的なハイライトは、Nさんが激坂の途中で、「たまに緩い傾斜になると走れるんですよ!」と果敢に言って走り出したはいいものの、10歩足らずであっさり再歩行をはじめたので、その場にいた全然知らない人まで「短っ!!!」と総突っ込みを入れてた一幕でした。みじかっ!!(脚傷めてる最中なのに無茶するなよう……TT)(場が大変和みました)


さて。激坂をのぼりきって、108段の階段ものぼりきって、本堂にお参りして、ようやくエイドで一息。きれいな常設トイレがあるのを下見で教えてもらったので、この先の激下りに備えて、私は3回目のトイレ休憩。油断は禁物だが、だいぶ大荒れのお腹はおさまってきた……気がする。

エイドを出て、事前に聞いていたとどめのダブルピークを歩ききって(決して走りはしない)、ようやくの下り区間。ピッチぶん回し作戦でどんどん下るが、傾斜が今まで以上に急なので、腹筋が攣りそうになってくる。なるほど……下るには腹筋もたくさん使ってるんだな。このへんは未経験の苦痛だなぁ。まあ、ここまで60km走った上でのこの下りという負荷がないと経験できないのかもしれないけれど、そういう意味では、ここから先のすべての苦痛は、私にとって未経験だ。

ひとしきり山を下った先にある、69.2kmエイド(宮地公民館)でご近所ランナーI氏に出会う。彼も、通常であれば私が出会うはずがない人の一人。故障をかかえて出走して、ものすごく苦戦している。というか、ご本人の談では20km以降ずっとつぶれててここまで来たとのこと。すごい精神力だな。いつも通り、しょうもないことを言い散らかしたけど、正直、なんて声をかければ正解なのかわからなかった。



【70~80kmまで(1:13:49):つらいしんどいつらい】

異変は70kmを少し過ぎたあたりでやってきた。

頭が痛い。走りたくない。ここまであんなにアップダウンがあって、ここは唯一の平坦区間なのに、走りたくない。頬に手を当てると、かなり火照っている。熱中症気味なのか、疲労なのか。走行中の頭痛というのは経験がなく、どうすればいいのかわからない。70km地点を通り過ぎた時は、あと30km、完走できる、と思ったけど、そこからたった数キロで走るのがこんなイヤヤになるなんて。このまま走り続けていいんだろうか。走り続けられるんだろうか。あと30kmもあるんだぞ。長い。長すぎる。ああ頭が痛い。走りたくない。

後から思うと、けっこう汗はかいているわりに、全身は雨でずぶ濡れなので、水分補給が(やってはいたけれど)足りてなかったんだと思う。普段しょっぱくて苦手な塩飴が、どんどん入っていく。エイドでもポカリをがぶがぶ飲む。とにかく、この頭痛をどうにかしなければ、どこか途中で足を止めてしまう。やめてしまう。

この10km区間はずっとつらいしんどいやめたいと思いながら、なんとか体を動かしていた。平坦区間で、トイレロスもしていないのに、かろうじて走っているつもりなのに、キロ7分が切れない。よたよた。

でも、ここまでのペースを考えると、まだ関門アウトを考えるほどギリギリではないので、動き続けるしかない。

頭はずきずき痛いけど、身体が動かないわけじゃない。

ああもう走りたくない。

小一時間前には、未経験の苦痛、でも乗り越えるぞ、みたいな理想論を思い描いていたけれど、苦痛はまぎれもなく苦痛だし、未経験のやつなんてそりゃもう想像以上の苦痛だ。というか、だいたいの想像の中の苦痛なんてものは、しょせん想像上の産物でしかなくて、そんなものに耐えてやる、とかお気楽な夢物語を思い描くことに何の意味もないだろうが、小一時間前の自分。あほか。

とずいぶんとやさぐれる。

どこまで私はこうやって走らなきゃいけないんだろうなぁ……てか、なんで走ってるんだっけな……ああもう頭痛いしめんどくさい。
自己肯定感とかどうでもいいから、今現在のしんどさから逃れるために今すぐやめたい。

心底走りたくないが、やめる理由がどこにもなくてつらい。

もっとずっとやめるに足る理由を持ち合わせた人たちがやめずに耐えているのに、私はやめる理由がなくてつらいとか言うてる。軟弱すぎる。

他人のつらさと定量的に比較することなんてできないけど、グジグジしょういもないことを考えながらも動き続けている時点で、客観的に見ても、たいしたしんどさじゃないはずだ。私はこんなにしんどいのになぁ。自己憐憫とかかっこわるすぎる。


後から思うとウルトラの洗礼はちゃんと受けた。
とはいえ、最終タイムと区間ラップを見ても、自分でも何のトラブルもなく走っているように見える履歴だ。
けど、この区間のつらさしんどさ自分のしょうもなさを、もう一度味わう覚悟が、今できてるかというと、よくわからない。

私は、苦痛に耐えられない。そんな強さなんてなかった。
苦痛が物理的に遠のいてくれるまで、ずっと逃げたい自分しかいなかった。

しんどさつらさに耐えて、一まわり成長するなんてことはなかった。
私は、私が耐えられる程度のつらさにしか耐えられない。

そりゃまあそうなんだけど、なんというか、無駄に期待しといた挙句のがっかりなんだけど、まぁ、それがわかっただけでもよしとしようか。



【80~90kmまで(1:19:14):とはいえ復活したのよ】

とはいえ、復活しまして。

まあ、小一時間ぐだぐだ悲壮感に苛まれている間に、頭痛がちょっとおさまってきたからなんですけどね。ポカリがぶ飲みが効いたのかな。

するってーと現金なもんで、頭が痛くなくなると、そこそこ走れるんですよこれが。こういうとこも含めて、軟弱たる所以だよね自分。痛みに耐えてよくがんばるどころか、全く耐えずにさも自分だけがこの世の終わりかのようにグダグダしたねぇ。恥ずかしい子だねぇ。

この区間、ラスボス峠で歩き倒すので区間タイムは遅いものの、峠に入るまでは周囲のランナーをちょこちょこパスし続けられる程度には復活。

なるほど……これが、ウルトラランナーの皆様が口をそろえて言う「走ってるうちにやってくる復活」か。体験する前は、そんなことあるかいな、と半信半疑どころか9割くらい疑ってたけど、するね、復活。

とはいうものの、もう体も足もくたくたなので、ともすれば歩きたいんだけど、歩く理由はやっぱり見当たらない。

なんとなく、トラブルがなかった場合の目標タイムとして12時間少々、というのはうすらぼんやり頭の中にあったのだけれど、ここまでのアップダウンに翻弄された経緯からすると、あと何キロで何分、とか計算したとしても、ちょっとした高低差があったらすぐ破綻する上、細かいコース形状はわからないのでそこをモチベーションにするわけにもいかない。

せっかくここまで積み重ねてきた時間を考えると、楽をするのはなんか違うな、とも思うし、なかなか残距離が減らないけどとにかく進まないと終わらない。

絶望感がないのが幸いだけど、ガチで長いよね100kmって……長いなぁ……。



【90km~ゴールまで(1:08:13):長かったなぁ】

90kmの計測マット上に、またしてもいるはずのないTシャツの方(先の人とは別人)が待ち構えていらしゃってだいぶパワーをもらえた。ありがとうございます。あと10km!長い!

ラスボス峠(これもダブルピーク)を歩き倒して、ゴールまでの下り区間へ。まだ登りが出てくるんじゃ……?とひやひやしながらも、走れるところは悔いなく走ろう、とがんばる。

もうここまできて、身体が動くんだったらがんばるしかない。

全体を通して、今回、ここの区間タイムだけは後で見て、がんばったな、とちょっとびっくりした。

最後まで走れてよかったな……ほんと、めちゃ長かったけど、最後まで走れてよかった。ものすごくたくさん応援してくれた人たちにも、ちゃんと最後まで手を振って応答できる余力があってうれしかった。早く終わってお風呂に飛び込みたいけど、終わるのがほんのちょっとだけ残念なくらい、感慨深い時間だった。いやまぁ本音は一刻も早く終わりたいけど。


ゴールまでの最後の500mくらいはゆるやかな上り坂で、黄色ゼッケンの女性ランナーが歩いていた。黄色ゼッケンは私と同時刻スタート(申告タイムが12時間以上)。それがこの位置にいるってことは、彼女も同じだけの時間をかけてめちゃくちゃがんばってここまで来た人で、それを私が今ここで抜くのはなんか違う、と思ったけれど、私が足を止めて歩くのも違うので(←おい)、「私、抜きたくないんで走ってー!」(超勝手理論)(後日ご近所ランナー勢に怒られた)と言ってみたところ、なんと走り出してくれたし、なんなら私より速い。さすがである。

めっちゃ走れるじゃないですか!いやもう無理ですー!みたいなやりとりをしながら、ゴールは彼女に先行してもらおうと下がったところ、「一緒にゴールしましょう!」と言って下さったので、え!?いいの!?そんな役得!?!?まじで!?!?と最大限にやつきながら、見知らぬ女子と二人で手つなぎゴール!なんというご褒美か!(アナウンスでも、「女子2名仲良くゴールです!」って言ってもらえましたよぐふふ)

後日、リザルト欄のグロスぴったり同時刻を見てはにまにましてます。
(まぁ、大会自体の順位はネットで出るので(後で知った)、私が無理くり走らせた意味はあんまりなかったというか、私が手つなぎゴールできてうれしかっただけじゃないかごめんなさい)
(なお、黄色ゼッケン男子ランナーを発見した場合は、このゴール直前でヘタれるとはおぬしも軟弱よのう……とかなんとか思いながらしれっと抜きます。男女差別?いえ、価値観の多様性というやつです)


新しい自己ベスト!(距離)



【まとめ】

また雑多な備忘録は別に書きますが、走り終わって、100kmウルトラマラソンってなんだったんだろうな、と思い返すと、なんというか、期待したほどすごい自分じゃなかったけど期待程度にはがんばる自分も見れたかな、という感じです。

期待したほど……というのは、やはり、これだけの長い距離だと苦しくてつらい時間は必ずあって、そこについてはやっぱりびっくりするような確変なんて起こらない、自分がよく知っている程度の自分だったこと。

期待程度には……というのは、特につらい部分以外については、それなりのしんどさをずっと感じながら、必要以上には手(足?)をゆるめない程度のしつこさはあったこと。

そして、そんな妥協とがんばりの繰り返しで、最終的に積み上げた合計タイムは、想定していた自分の実力よりも(今回はたまたま)少し短かったこと。

もちろん、気象条件や体の調子にめぐまれてのことで、どんなにがんばっても結果がついてこないことは多々あるのだけれど、たまに得られる「想定を少し上回る成果」を見るためには、やっぱり長い時間のしんどさにそれなりに耐え続けるしかない。降ってわいた奇跡は起こらない。私は私でしかない。

ウルトラマラソンだけでなく、だいたいのことは、そういう風になっているのかな、と思います。

そのことを確認するための100km。
それを実感してまた日常に戻っていく。

長くて長くて、しんどくて、最終的にちょっとすっきりした一日。

ずっと絶え間なく応援してくれて、一緒に走ってくれたたくさんの人たち。
ありがとうございました。