【朗読台本】麦茶(原案者あり)

原案 おかゆさん。
文章係 人外薙魔


- - - -キ リ ト リ 線- - - - 


僕は
彼女のことがあまり好きじゃない。
といっても
嫌いではないところがミソなのである。

良くもなければ悪くもなく
100点満点中でいうなら大体 65 点くらいの及第点。

たとえばクラスの中では
後ろから数えた方が早いくらいの可愛さ。

外出先へは連れて行くけれど
ただ横に座らせる。
紹介するだとか
ましてや自慢などすることはない。

ここまで僕に言わせる彼女……
僕よりも短いベリーショートの髪型をしていて、
セットをしていなくても
ツンツンツン!と元気良さげに
空のほうに向かって立っている。
肌だって
健康的な小麦色だった。
そう
「だった」のだ
小麦色を通り越して
コーヒー豆と遜色ないような、そんな色にいつからか
なってしまった。
美白美白と皆(みな)が叫び
求めさ迷うこのご時世。
と、流行りはまぁどうでもいいのだが
なんだか
健康面から見ても
美意識的に見ても
なんだか
僕のモチベーションを下げるのだ。

そんな彼女の魅力を
ひとつだけあげるとするのなら
お金がかからない事だ。

着飾ることをしないから
僕のすきなラーメン屋、牛丼屋、
そして
街の中華屋なんかもよく馴染む。

安くてうまいがモットーな店
それらが並ぶ街並み。

そのなかに
僕と彼女の住む2DK の築古アパートもある。

もちろん都心なんかではない。

もうお分かりかと思うが僕にはお金があまりない。
エアコンを付ける余裕もない。
真夏なんかは汗が止まらず
うだりながら畳に寝転がるしかない。

体温の高い僕とは裏腹に
彼女はとても体温が低く、汗をかくことはあっても
その滴る汗はとても冷たい。
アパートのなかで
汗だくの彼女に、肌を擦り寄せて
心地よい気持ちに浸るのは
他人には見せられない僕らだけの秘密なのである。
大きな水滴になっている所を
夕日に照らしてみると
まるでウイスキーグラスを覗いてるかのように錯覚を起こす。
暑さでおかしくなったとかではなく
それ程に美しいのだ。
だが、僕にとっては当たり前の景色。
わざわざそれで彼女を褒めたりはしないのだ。

そんな密やかな幸せがだらっと過ぎ去り、
季節は秋から冬になりかけていた。
いつものように振り向くと
居るはずの彼女の姿がない。

当たり前過ぎて
居ないことに気付けない僕。
仕方なしに街を探してみることにした。
一緒に行ったラーメン屋、牛丼屋、街の中華屋
それらにいなければ
スーパーやドラッグストアにも居なかった……
彼女のそんな目立たなさは
僕を困らせ、次第にイラつかせた。
結局
彼女は見つからず
とぼとぼと帰路についた。

薄寒いこの季節に
彼女の冷たさは必要ないけれど
当たり前だったモノが居なくなるというのは
僕の心に終わりかけの
秋風を吹かせた。

彼女が居ないのに
水滴で畳が濡れているのは
彼女の汗染みかもしれない。
外を探し回り
身体から水分が抜けたせいか喉が渇き
台所に向かう。
すると、ゴミ箱に
青い空の封筒が挟まっていた。

手に取ると彼女の気持ちが読み取れた。

『次の夏まで待ってます』

麦茶な彼女。

end

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