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キャリアウーマンを目指した女性が、良い暮らしを重視するようになるまでの物語

はじめに
このインタビューはinquireの社内ライティング勉強会内の課題として取り組んだ記事です。取材対象者の佐々木まゆさんに許可をいただきこちらに掲載しています。

「入社したらバリバリ働いて成長したい」
「周りの誰よりも早く出世したい」
このような気持ちをもって、会社に入る方はたくさんいるでしょう。

今回取材したのは、ライターとしてキャリアを歩み始めた佐々木まゆさん。ゆったりとした話し方、画面上から感じる優しい雰囲気からはその姿は想像しにくいですが、彼女もまたキャリアウーマンを目指していたひとりだったそう。

取材では彼女のいままでのキャリア、そしてライターになるまでの経緯を探りました。仕事に真剣に向き合ってきた彼女だからこそ、ぶち当たったいくつもの壁。決して上手くいくことばかりではなかったと言います。そうして話を聞くうちに、今回“彼女が本当にありたい姿”について触れることができました。

「何か名誉のあることをしなくても、いいじゃん」

取材中、彼女の口からはそのような言葉が溢れていました。


将来の夢はキャリアウーマン。前職では週7で働いていました

——今回はこれまでのキャリアを軸に取材させていただきます。早速ですが、まゆさんはもともとどのような夢をお持ちだったのですか?

ずっとキャリアウーマンになって子供が欲しいという夢がありました。離婚をしても子供を一人で育てられるくらい自立した大人になりたかったからです。「誰にも頼らずに生きるぞ!」と意気込んでいたのは、小さい頃から母親に自立を促されていたからだと思います。

もともと何かを作ることが好きで、特にクリエイターに興味があったんです。新卒ではある料理教室で動画制作をしていました。興味のある仕事でしたが、同じフォーマットで大量生産の動画制作を続ける毎日に対してあるとき違和感が生じ転職を考え始めました。そうして次に転職したのが、前職のデザイン業界の会社です。

——なるほど、そこはどんな会社だったんでしょうか?

デザインの会社と言っても扱っている業務の幅が広く、Web制作から街づくりまでなんでもやっているところでした。私はそこで自分の専門性を見つけたいと思ったんです。ここであればいろんな経験ができ、何か自分に向いていることが分かるかもしれないなと。

しかし、実はその会社では周りに追いつかなきゃと焦る気持ちから、気づいたら週7で仕事をしていました。平日で終わらない仕事を土日に回し、いっぱいいっぱいで。結果かるいうつ病にかかってしまい、退職せざるを得ない状況になったんです。


どうしたら社会とつながれるだろう? 本を読み耽った2年間

——退職された後、どう過ごされていたんでしょうか。

約2年間働くことから離れていました。1年間は全く記憶がなく、ずっとベットの上。働きたいという思いはありましたが、体が追いつかない。「私、社会との関わりをなくしてしまったんだな」と思っていましたね。唯一、旦那が会社の話をしてくれることで社会とのつながりを持てている感覚でした。

——そうなんですね。では、2年目は……?

体調はまだまだ回復せず……。その頃は文章をひたすら読んでいました。「どうやったら自分の体調はよくなるのか」「どうやったらメンタルが回復するのか」と、ネットで記事をあさっていましたね。あとは本もよく読みました。

——お。例えばどんな本を読んでいたんでしょう?

主にエッセイです。イタリア文学者の須賀敦子さんや、梨木香歩さん、向田邦子さんなど。彼女たちは、ファッションや絵画などの趣味に時間もお金も費やしていて。「主体的に自分の感性を磨く」姿にはとても刺激を受けました。おかげで、自分が好きだなと思う感覚を絶やさないことが大事なんだと気がつきました。

本を読むことでみつけた新たな兆し

——ご自身の病気も本を媒介にして、旦那さんに伝えたと言っていましたよね。

はい。本は夫婦をつないでくれるものでした。当時旦那は長い間、私の症状を理解できず、今思うと心苦しい毎日を過ごしていたんではないかなと思います。私自身も、自分の症状が何なのか分からず、症状を相手に上手く伝えることもできず辛かったですね。

しかしある時、そんな状況を変えてくれる一冊の『うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間』という本に出会ったんです。そこにはプロ棋士である先崎学さんのうつ病の回復期に書いた回顧録が書かれていて。私がまず本を読んで、自分と重なる部分、共感する部分に線を引く。その後、旦那に読んでもらいました。そうしたら彼もだんだんと「こういう気持ちだったんだね」と症状を理解してくれるようになったんです。

——本を通して、分かり合えたんでしょうか……!素敵です。

ありがとうございます(笑)。私的には本を通じて自分の気持ちを整理できるし、症状を客観的に見れるようになるのではないかと思っていまして。旦那も読書家なので、もしかして私以外の誰かが書く文章だったら、理解できるかもしれないなとも思ったんです。

またこのことをきっかけに、社会のためにライターとして仕事をしていきたいと思うようになりました。自分と同じような状態になっている人に私も文字を通して助けられるのでは、と。

——なるほど。まゆさんがライターを始めたきっかけがようやくわかりました!

その2年間は辛かったですが、マイペースにお仕事していこうと思うきっかけにもなりました。体調を崩したことにより、働けない状態に。その時はきっとよくない方向に進んでいましたね。世の中は名誉ある人のことを取り上げがちですが、何気ない日常が送れることは素晴らしいなと思いました。

ライターとして社会に貢献していきたい。彼女のこれからの夢

——もともとはキャリアウーマンを目指していたまゆさん、これまでのキャリアを振り返って現在はどんなふうに自身のキャリアを捉えていますか?

今はもうキャリアウーマンへの夢はまったくないんです(笑)。将来は社会のために働いて、貢献したいと思っています。そのために、まずは自分が楽しく、無理なく働ける状態で良い暮らしができるように今模索しているところです。

ライターとしてはだいぶ覚悟が決まりました。自分の性格ですぐ「嫌だな」「辞めたいな」と思っちゃう部分もあるんですが、良い書き手になるために諦めないで頑張ろうと思っています。

——最後に何か、言い残したことがあれば。

新卒一年目で読む記事は大抵、「起業」とか「成功した人」の記事ばかりです。かつて私もそんな人たちに憧れはありました。けれども病気になった期間があったからこそ、「何か名誉のあることをしなくても、いいじゃん」と自分自身につっこみをいれることができています。頑張りすぎてしまっている人も、少しでも早く自分の違和感に気づけるような、誰もが健やかな暮らしを送れるような世の中になればいいなと願っています。


彼女は辛かった過去も含めて、包み隠さず最後までお話ししてくれました。最後はこれから新しい場所で働く人々に対して、彼女なりのエールを添えて笑顔で締めくくってくれました。まゆさん、ありがとうございました。

彼女が執筆した私のインタビュー記事はこちら


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