見出し画像

舞台「Slip Skid」感想

こんにちは。ちるりです。
THE RAMPAGEの陣さんの1人芝居「Slip Skid」を配信ではありますが観劇しました。
人生において、誰かに憧れと嫉妬を同時に持つことは少なくないのかなと思っていて、そこで苦しんだことのある人には、見ている途中、もしかしたら終わった後も相当苦しい舞台だったのではないでしょうか。
現地で見た方、複数回見たくなったのでは……??

「Slip Skid」という舞台

この舞台は陣さんが演じる主人公の「ケン」が、事故にあった友人の「ノボル」との記憶を遡っていくお話です。
もう少し詳しいあらすじは公式サイトのイントロダクションをご覧いただいて。

時を遡っていくのを「電車が逆方向に進んでいく」ことで表現し、その時その時をチャプターのように分け、「次は○○」という電車のアナウンスが、駅名とこれから始まるチャプターのタイトルを掛けているのが自然かつよりイメージが沸きやすくなっているのが面白かったです。

更にカセットのラジカセからケン以外の声が流れているのが「記憶の再生」である印象をより強めているようで、その他にも様々な小道具を使った比喩(倒れる椅子=倒れるノボル、照明で表現される分かれ道など)や陣さんらしい雑学披露など、演出も面白いポイントが多かったです。
舞台セットもカオスなようで統一感があるのが不思議でした。あのミニジオラマとかあったら面白そう。バスケットボールの点数表の数字、意味あったのかな。ケンの衣装のフードの紐の左右で色違うのも意味あったのかな……。

物語の構成は時を遡っていくようになっていて、先に出たセリフの答え合わせが後からされるようになっています。セリフを聞いていて「ん??」と思ったポイントが後々大切になって来ることも。
なので、見終わった後に再度見てみると新たな発見も多く、この先が分かっているからこそ気づくことや、唸るセリフもたくさんありました。
高校時代に出てきた「もうシンバルやんないの?」「もしかして中学のこと気にしてる?」というノボルのセリフなんかが分かりやすいでしょうか。
楽器をやっていたのはノボルだけだったはずが、実はケンもやっていた。
情報の出し方が絶妙で、「どういうこと??」の連続で、脚本の力でも非常に引き込まれる舞台でした。

そんな中約1時間半ケンを演じる陣さんは、どこからどうしてもケンでした。
特に印象的だったのは、中学時代にノボルがシンバルに選ばれたシーン。直後に発覚しますが、2人の「力関係」が逆転する瞬間ですよね。ケンの悔しさを表に出さないようにしてるのに隠しきれていない感じが、もどかしい!
現実を直視しないようにしているここからのセリフたちの声色を聞いているのが、苦しい。

演出、脚本、そしてお芝居。全てが素晴らしい舞台だったと思います。

「ケン」という人間

冴えなくて、コミュニケーション下手で、自分に自信のないケン。
明るくて人が良くて、誰とでも上手く付き合えて、自分の夢を叶えたノボル。
ノボルとは友達だけど、どこかノボルに苛立ちと劣等感を抱えているケン。

自分がきっかけでノボルが始めたシンバルで追い抜かれ、キラキラ輝いていくノボルを見て、特に思春期のケンが「気持ち悪いもの」を心に抱えるのは無理もありません。憧れと嫉妬、悔しさ、ありとあらゆるものがごちゃまぜになった感情を抱えてしまうしかない状況であったと思います。

私の学生時代の話です。
自分が経験者で、自分が先に選手に選ばれていたのに。
私が練習し過ぎてケガで選手から外れて、コーチ的立場になった後の大会で最高の成績を収め、喜ぶ皆を見た時に、「気持ち悪いもの」を抱えた私の記憶。

やった!!いい成績を残せてよかった!これで部が校内でも表彰される!
私は、そうか、こういう立場が向いてるのかもしれない!… …でも。

私は、そうか、そのフロアの、ライトの真ん中にはいられない人間なのか。
私も、本当は、その真ん中に立ちたいのに。

見ながら自分の過去を思い出し、ケンを自分に重ねてしまった私にとって、中学の文化祭で演奏が始まったあたりからは拷問の時間のようでした。
失敗するじゃん。しかも大勢の前で。
あああああ死ぬほど恥ずかしい!!こんな思いをするならいっそここで一思いにやってくれ!!!!
と、正直ここで映像止めようかと思いました。現地で見ていたら止められないし逃げ場がないので、より拷問感マシマシでしたでしょう。

それでも、自分の過去と向き合い、最後にノボルの作文を聞いたケンは、自分の「気持ち悪いもの」も含めて、気持ちを素直にノボルにぶつけられました。

ノボルの作文を小学生のケンが聞いていたら、ケンは何かが変わっていたのかもしれません。もしかしたらケンも諦めずに一緒にステージに乗っている未来はあったのかも。でも各々の進んだ道は現実と変わらず大学から分かれて、ノボルが事故に遭うという現実は変えられなくても、ケンの心はもう少しキラキラしながら最初からコンサートホールの仕事をしていたのかも。
ノボルのいるコンサートを見た帰り道、素直に「良かったよ」と言えていたのかも。

でも、ケンは気づけた。
状況は変えられなくても、少なくとも心の向き合い方は変えられる。
「ノボルはすごい」と素直に思って言えるケンは、かっこいいですから。
自分の嫌な部分も自分であると認めてあげることが、自分を輝かせることができる秘訣なのかもしれません。
最後に完璧にシンバルを鳴らせたケンの未来は明るいんだろうと思います。
人生がどうなっていっても、自分に自信が持てたケンは何とかして乗り切っていけるのではないでしょうか。

おわりに

自分をケンに重ねてしまった人ほど、この物語を見ていきながら一緒に苦しんだのだろうと思います。
ノボルのような人はレアな存在でしょう。
自分にないものを持つ人が身近にいたら、劣等感や妬みを抱えてしまうこともあるでしょう。でも、その人がそれを持っている理由もあるし、自分にしかないものもある。
そこを認められると、もう少し生きやすくなるのではないでしょうか。

ああそうか!今頭のセリフ聞きながらこの文章を書いているのですが、尊敬と刺激なんですね。だからずっとケンはノボルと友達でいられたんだ。


(余談)陣さんがケンを演じるということ

そもそも陣さんは、世間一般の人からしたら「すごい一握りの一握り」の人間であるのは間違いありません。THE RAMPAGEのメンバーに選ばれ、ドームのステージにも立つ人です。
ただ、グループの中において、表に出ていって、いろんなメディアに取り上げられるような人かと言われると、そうではない、のかなと。ラジオによく出演されていますが、どちらかというと縁の下の力持ちタイプな印象です。
リーダーですし、グループがグループであるためには非常に大切な存在です。しかし、ここに来るまでにどれだけ努力を積み重ね、悔しさを抱えたのでしょうか。
そういう印象がどこか陣さんとケンの感覚が近い理由の一つなのか。もちろん純粋に陣さんのお芝居が素晴らしいのは大前提としてありますが。


この記事が参加している募集

舞台感想

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?