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カオスな時代 ver.2~オタクの中心で愛を叫ぶ


この作品はフィクションです。当時の文化慣習の風情がふんだんに表現されていますが、昭和文学作品としての観点から、敢えてそのままの様式で掲載しています。アホらしくも愉快なボクの体験談、ささ、ごゆるりとお楽しみください。

先に言っときますけど、さらにアホらしくなります。
何を読まされたんだ?ムダにした時間を返せ!そんな黄色い声援が聞こえてきそうです。
ただのオフザケなんで、何かホントもう、スイマセン…


オトコ達は最初こそ戸惑とまどっていたものの、今やノリノリになって舞いと雄叫びを繰り返し、一度は萎えかけたココロが次第にたかぶっていくのを感じていた。精神が高揚するとはこういうのを言うのだろう。死んだサカナの目はいつしか生き生きとした輝きを取り戻し、霊験あらたかな御神木を前にひたすらに舞と雄叫びを繰り返した。ボクはといえば、舞に集中しようにも前の女子から目が離せなくなっていた。いや、正直に言えば彼女の胸・・・・から目が離せなくなっていた。自由を求めて舞踊るその様は、『バインバイン』、『プルンプルン』とボクの知る擬音語表現オノマトペの限界を求めるかのようにボクの脳を刺激し、脳裏に焼き付いた。

ボクのココロに天使と悪魔がいるのなら、彼らはきっと言うのだろう。
 悪魔クン「おいおい、少しも目を離すなよ。もうすぐ見えそうだぜ。コイツはたまんねぇな、ヘッヘッヘ」
 天使さま「神聖な舞の最中に何というふしだらな!ああ、もう汚らわしい!これはもう、本当に嘆かわしいことです!」
 悪魔クン「おいおい、せっかくのきょうに水を差すんじゃねぇよ!オマエだって中身は似たようなモンじゃねぇか!」
 天使さま「何を言いますか!ああもう、けがらわしい!アナタとなんか一緒にしないでください!」

…きっとヒトは、もう何千年もこうした葛藤を抱え生きてきたのだろう。言わばヒトの歴史とは、チチの歴史でもある…真顔で言えばドン引きされそうなボクの確信に満ちた思いは、舞い叫ぶオトコ達の熱気を受けてさらに熱くたぎるようだった。御神木の前にかれた紅蓮の炎は、夕闇の中でさらにその色を濃く熱くしていった。ああ、ボクのココロは次第にトランス状態へと堕ちていく…その昂りが最高潮に達しようとした時だ。ボクは前へと数歩歩み出すと、ココロが弾け飛ばんばかりにオリジナルの舞を披露していた。

「あ、アイツ勝手に踊り出した。しかもアレ、ただのオタク踊りじゃねぇか!!」
僕の舞う様を見て、脇に並んだ幹部と思しき線の細い男が呆れたように声をあげた。
「いや待って、あれはもしや…ケチャダンス*のようにも見えるが…あれは「女神のポーズ*」よ!!」

作者注:
ケチャダンス:インドネシアはバリ島に伝わる民族舞踊です。観光名物としても有名で、旅行に行くなら見逃せないイベントだとも言われています。
女神のポーズ:ヨガのポーズの一つで、両肘両膝を折り曲げ、股関節を開脚させた姿勢の名称です。女子の健康に良いとされています。

ただのオフザケなんで、何かホントもう、スイマセン…

その声を制するように、他の幹部が感嘆の声をあげた。その眼差しはボクの舞を前にして、神聖な光景を見るかのごとく感動に震えていた。その感動は徐々に周囲へと伝搬し、いつしかオトコ達はボクに道を譲らんとボクの周囲には道ができていった。…ボクの前に道は開けた。ボクは導かれるまま前へと進み出ると、振り返りオトコ達の眼を見据えた。いつしか死んだサカナたちは生き返り、生への悦びが溢れ出している。…そうだ、お前たち、生きるのだ。ボクはもう一度女子の胸を拝むと、オトコ達を前に意を決したように声を張り上げた。

チチに勝る乳はなーし!」
ボクの雄叫びにオトコ等は応えた。
ちちに勝る父はなーし!」
ボクとオトコ達は何度も雄叫びの大合唱を繰り返し、その度にその魂はより高みへと昇り詰めていくような心地がした。白装束の集団も突然のことに驚いていたが、幹部同様にその神聖な光景を前に感嘆の眼差しを浮かべ、そして雄叫びの大合唱に加わるのだった。

「ああ、なんということでしょう。今まさに神が舞い降りんとしているかのようです。あの方こそがの方なのでしょうか。」
先程の幹部の一人が目をうるまませながら呟いた。
「イヤ、アイツのチチって、そっちのチチじゃないんじゃない?」
ボクを疑う線の細い幹部がは心配そうに彼女を見つめてそう言った。

我等われらチチと共に!ふおーっっ!」
我等われらちちと共に!ふおーっっ!!」
雄叫びの大合唱はさらにその力を増し、熱気は辺りをかすませんばかりの勢いだった。
「今こそ我等われらチチと共にあらん!ふおーっっ!」
「今こそ我等われらちちと共にあらん!ふおーっっ!」

繰り返す舞と雄叫びが響き渡る中、ボクは静かにその女子の前へと歩み寄った。彼女の目は潤み、神々しくもある眼差しでボクを見返していた。


「さあいざ我等ぁ、ひとつにならん、その胸にこそぉ、飛び込まん…」
ボクはそうつぶやくと、天を仰ぎ諸手もろてを広げ彼女の胸元目がけて飛び込んだ。熱狂的な群衆はその光景に戸惑った、がすぐにその意図を理解し、我先にその胸に飛び込まんと彼女の元に殺到した。雄叫びはいつしか阿鼻叫喚の叫び声へと変わり、神聖な祈りの場はいつしか地獄絵図と化していた…


「あの、もういいですから。もう帰って下さい。それと…お願いですからもう関わらないで下さいね…」
線の細い先ほどの幹部の男は、冷ややかな視線を僕に向けてそう言い放った。
「イヤイヤ、連れて来たのはオマエらじゃん…」
そう言ってやりたがったが、これ以上の面倒事は避けた方が良いだろう。黙ってバスに乗り込むと、ボクはひとりその会場を後にした。


…この神の国には、ボクの居場所はなかったようだ…ボクには汗の冷えたシャツがひどく肌に冷たかった。



イラストは、いつものふうちゃんさんです。
本当に、いつもありがとうございます。
お下品な作品にまで登場させてしまい、ホントスイマセン…




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