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ネコ耳の思い出

まだ社会に出て数年目の頃、僕は職場近くにあった借り上げのアパートで暮らしていた。就職前から付き合っていた彼女とは月に数回週末に会う程度で、僕はまだ仕事や職場に慣れるのに苦労していた。

その子とのきっかけは飲み会での何気ない会話だったと思う。部署が隣だったので、業務上のやり取りは何度かあった。だから顔と名前は知っていた。年頃の男女なら話すことは大体一緒で、彼氏彼女がどうとか、前に付き合った人がどうとか、まあそんなところだ。お互い酔った勢いからか、色んなことを突っ込んで話した。帰り際、突然その子が僕の部屋に遊びに来たいと言い出した。彼女いるんだからそういうの気を遣わないのかな、などと思いつつ話を受け流そうとした。でも食いつきよく絡んできたので、困った僕は「そうだ、ネコだったら問題ないよ。ネコに変身できたらおいで。」と一休さんまがいの問答を口走った。いつかのネコ様のことを思い出したのかもしれない。彼女は不思議そうな顔をしたが、何かしら理解したようで「うん、わかった。」そう言ってその場で話は終了した。

数日して、休日に部屋でぼーっとしていた僕の家電が鳴った。その頃公私に活躍したのはポケベルで、スマホもなかった時代だ。電話はその子からで、僕の部屋のそばまで来たという。飲み会の席で友人数名とグループで連絡先を交換したのを思い出した。家の住所は僕の同期に聞いたらしい。いつの時代も女子の行動力はすごい。

【参考】↓32歳差の不倫愛を描いたドラマ【ポケベルが鳴らなくて(1993年)】です。放送時期はもっと古いのですが、結構人気だったようです。この倫理観の違い、どうですか皆さん?
「既婚子持ちのサラリーマン、水谷誠司(みずたにせいじ)と32歳年下の保坂育未(ほさかいくみ)の不倫関係と家庭崩壊の様子を描いたドラマ。」



しばらくして、部屋のチャイムが鳴った。本当に来たようだ、スゲーな。僕の話ちゃんと聞いてたのかな?色々と気にはなったが、無下むげに帰す訳にもいかず部屋のドアを開けた。


その子の頭にはネコ耳がついていた…


当時まだそんなネコ耳の二次元アニメは流行ってなかったと思う。一目でお手製とわかった。色紙でつくったネコ耳をつけ、その子はどや顔で立っていた。

僕は絶句した。それってトンチでも何でもない、ただの力業ちからわざじゃん。僕が言うよりもはやく、彼女はドアを開けて部屋へと侵入した。まるであの時のネコのようだった。

ほどなくして何故かその子は僕の部屋の住人となった。何度となく帰るように説得したが、その子は自分がネコだと言い張って譲らなかった。寝食を共にするうちに、気づけばそういう関係になってしまった。そんな事があって前の彼女に言い訳が通用するはずもなく、お別れすることとなった。責められはしなかったが、謝ったり慰めたり大変だった。最後まで優しく振る舞う彼女の姿に、ボクは心を苦しめた。

僕はきっと押しに弱くて優柔不断なんだろう。本気の恋も知らず、先の人生も見えず、悩みも多く生きるのにも苦しんでいた頃の話だ。

この後数年して僕は運命と信じた人に出会い、幸福と絶望の味を思い知ることになった。


今の時代にはアウトでしょうが、もしもネコ耳作戦を試したいという猛者がいたらどうぞ。↓ 一体何に使うんでしょうか?何かのプレイ?


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