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キツネなシッポと遊びましょ、の話エピソード4その③早朝の街を駆ける

とりあえず話④を読んで頂ければココの世界観が伝わります。
うっすーい世界観でスイマセン。日々に疲れたら、そんな時にぜひどうぞ。
今回は感動作を目指してます。それにしてもシッポって、どうなったんでしょうね。

そばに駆け寄ると、奥さんは少し出血しているようだ。抱き起すとシーツに赤いしみができているのが分かった。

困った、時間がない。でもまだ道は混んでるし、電話も通じないから救急車は呼べない。…
「私は大丈夫だから…」
奥さんの顔は汗ばんで、血の気が引けている。急がないと。ボクは奥さんをタオルケットにくるむと、急いで荷物を整えた。お腹を押さないように奥さんを抱えると、ボクは玄関のドアを蹴って外へと駆けだした。近くの産院までは車で10分、歩いて20分ほどだ。走ればもっと早いだろう。通りには数は減ったがまだ帰宅困難の人の波が続いていた。渋滞はようやく落ち着きだしたが、暗がりの中で警察官がライトを振って隙間なく並ぶ車の列を誘導していた。ボクは覚悟を決めて裏通りを走ることにした。走り出して数分で両腕がしびれてきたが、離す訳にもいかない。こういう時は人間って大抵のことはできるものだ。汗が額から伝い目に染みたが、気にしてる場合でもない。ボクは両腕と両足に神経を集中させて、ひたすらに先を目指した。何度か通りにぶつかったが、そのたびにボクは大きな声で、すいません通ります、そう何度も繰り返して人混みを突き抜けた。息が上がったような気がしたが、気にしなければ意外に平気なものだ。

何分経っただろうか。気づいたらボクは目指す産院の玄関にたどり着いた。ドアを叩くが反応がない。庭先に回ると、小さな物置の入り口に人影が見えた。
「すいません、こんな時間に。奥さんが、お腹が痛いって。」
僕の声が大きすぎたのか、人影は暗がりの中で驚いたように目を見開いたのが分かった。
「広瀬さん?どうしたの、そんなに慌てて?」
そばに来た先生は、奥さんを一目見て表情を変えた。
「大変、でもウチは電気が落ちちゃって。これじゃ何もできないの。救急車を呼びたいけど、外はまだ大変なようだし…どうしようかしら…」
「電気なら大丈夫、持ってきましたよ。」
ボクは背中に縛り付けた携帯バッテリーを先生に見せた。
「そう。早く入って。すぐに診るから。」
先生は急いでボクらを中に入れると、懐中電灯の明かりを頼りに診察室のドアを開けた。ボクは奥さんを診察台に寝かせると、機材を降ろして先生に言われた通りバッテリーを機材のコードにつないだ。

電子音が鳴って、画面が明るく照らされた。
「エコーが使えれば、何とかなるかも。」
先生はそう言うと、奥さんのお腹を診察しだした。ボクにも画面が見えたが、暗い水の中を泳ぎ回るの姿が見えた。
「大丈夫みたい。赤ちゃんは元気みたいですね。」
その言葉に安心したように、奥さんの目には涙が溢れていた。

その後は診察があるから、と言ってボクは部屋から追い出された。そこは待合室らしき場所で、ようやく朝日が窓から入り込む時間になったようだ。ボクは力が抜けたように、朝日がさしかけた床に座り込んだ。何だかもう動ける気がしなかった。


(イラスト ふうちゃんさん)


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