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泣き笑い

3月も今日で終わり。
3月と言えば、出会いと別れの季節である。
僕の会社でも人事異動があった。

僕はまだ2年目だから今回異動はなかったけど、
僕の直属の上司Yさんが異動となった。

その人は僕にとって、
頼りになる本当に尊敬出来る人であった。
周りからも信頼されていて、
今回の人事異動で最も悲しまれた人である。

僕は何かプレゼントを贈ろうと考えた。
部署全体では名前入りのボールペンを送ることになっていたけど、
僕個人からも贈りたいと思ったのだ。

こういう時、僕はいつも何を渡していいか困る。
タオルとかマグカップとか
そういった雑貨は好みがあるかもしれないから、
出来るだけ渡しても負担にならないような物にしたい。

僕は結局無難にデパ地下で買った菓子折りを渡すことにした。
きちんと綺麗な紙に包んでもらい、
いつでも当日渡せるよう準備万端で用意していた。

しかし、やっぱりどこか抜けている僕である。

当日そのお菓子を忘れてしまった!!!

それに気付いたのは電車に乗って一駅過ぎた後である。
僕はそこから乗り換えするため、改札を抜け歩き出していた所であった。

「遅刻するかもしれないけど取りに帰ろう」そう思った。
僕は今まで会社で遅刻なんて1回もしたことないが、
今日Yさんに渡せなかったら一生後悔すると思った。

それに今帰れば最悪まだ間に合うかもしれない。
僕はいつも余裕を持って20分前には会社に着いている。
急いで帰れば、ギリギリ間に合うはず!!!
そう思ってすぐに引き返した。

しかし、ここでもやらかす僕である。
乗りたい電車と反対方面の電車に乗ってしまったんだな…。

駅員さんの「次は○○駅~○○駅~」の
アナウンスで初めて気付く。

降りようと思っても電車はもう走り出している。
もう地面に座り込んで大声で泣きたい気分である。
ここから急いで降りて家に帰ったとしても、
もう出社時間には間に合わない。

僕はもう半分諦めていたが、
最後の望みの綱として母親に電話をした。

「もしもし、お母さん?本当に申し訳ないんだけど、
和室に置いてあるお菓子を急いで駅まで持ってきてくれる?
反対方向に乗っちゃってもう間に合いそうになくて…」

母は「何でいつもそうなるのよ!!」と怒っていたが、
僕の半泣き状態を見かねて最寄り駅まで届けてくれることになった。

その日は雨も降っていたし、
母も出かける準備をしていないから
僕の方が先に駅に着いちゃうかもしれない。
そうなった時は僕は家まで走って取りに行こうと思っていた。

しかし、母は偉大であった。
僕が最寄り駅に着く前に「もう改札にいるよ」とLINEを送ってきた。

僕は駅に着いたら急いで改札まで走り、
改札越しに母からお菓子を受け取った。
その時の母の姿を見たら、服が凄くびしょ濡れだった。
母は急いで走ってきてくれたんだと思ったら
感謝と申しわけなさでいっぱいになった。

ありがとう、お母さん。

これでお菓子は何とか手に入ったものの、
僕が逆方向の電車に乗ったせいで、
出社にはもう間に合いそうになかった。
携帯で時刻表を見たら次の電車は10分後である。

まぁしょうがない。
遅刻しても今日絶対渡さなきゃ意味がないんだ。
遅刻のひとつくらいしてやるよ!!!

そう覚悟を決めていたら、
なんと奇跡が起きた!!!

電車がちょっと遅れていたのだ。
本来なら3分前には来ていないといけない
快速急行の電車が遅れやってきたのだ。

ちょうど僕が駅のホームに着く頃にやってきて、
僕はその電車に間一髪乗れた。
10分待たなくて済んだのである。

僕はそこから急いで最短でいけるルートを携帯で調べた。
乗り換えを超ダッシュで行えば、
なんとか間に合いそうである!!!

僕は乗り換えが3回あるのだが、奇跡的に全てが嚙み合った。
時間を巻きに巻き、始業の4分前になんとか会社に着くことが出来た。

本当に神様っているんだ!!!

心からそう思った。
大事な時は神様は見捨てないでいてくれる。
何の信仰もしてないけど、
とりあえず神様という漠然とした存在に感謝し、
僕は遅れることなく仕事が始められた。

さて、このお菓子を渡すタイミングである。
お昼の時間に会社全体で異動する人の挨拶があり、
その時にみんなでお金を出して買ったプレゼントは渡していた。

でも、僕個人のお菓子はまだ渡せていない。
僕はこういう時どうも緊張してしまう。

隣の仲いい先輩と一緒に渡そうと思ったら、
先輩は「もう渡したよ、お昼の時に渡しちゃった」
なんて言うから大変である。

1人で話しかけるしかない!!!

就業時間を終え、これから飲みに行く流れになっていたが、
Yさんは引継ぎの仕事でまだ残業をしていた。
そこに意を決してお菓子を持っていた。

「あのっ!Yさぁあああん!!」

僕はYさんと話したら泣いちゃうかもと思っていたけど、
想定をはるかに超えて初っ端から大号泣をかましてしまった。

ていうかもう嗚咽するほど泣いてしまった。

僕を見守っていた先輩も
「えっ?いきなり!?」と戸惑っていた。

話しかけられたYさんも
「どうした、どうした」と突然の事に困惑である。

なんでだろう、予め考えていたことは何ひとつ上手く話せずに
涙だけがとめどなく流れてきてしまった。

Yさんは本当にいい人で、
僕が困っていたらすぐに助けてくれる人だった。
一番相談しやすかったし、誰よりも親身になって話を聞いてくれた。

嫌な顔ひとつせずに。

僕が仕事でやらかしてお客さんに怒られた時も、
急いでバイクで駆けつけてくれて一緒に謝ってくれるような人だった。

僕は心の中でYさんが居てくれるから大丈夫だと甘えのようなものがあったと思う。
それは僕だけじゃなく、
同じ部署の全員が思っていたことだと思う。

みんないつも気付いたらYさんを頼りにしていた。

だけど、もう来年からはYさんはいないし、
後輩も入ってくるからいつまでも甘えてはいられない。

本当に頑張らなきゃいけないとYさんの異動で思ったんだ。

そう伝えたいのに、
伝えたいことは山ほどあるのに、
言葉がもう形にならないほど泣いてしまった。

Yさんはそんなに僕に
「そんなに泣いてくれて嬉しいよ、ちくわ君は
考えすぎるところがあるから気張らずに楽しくやっていきなね」と
最後までアドバイスをくれた。

僕は泣きながら「はい」と答えたけど、
やっぱり上手く話せなかった。

周りにいた人は僕を見て感動したと言ってくれたけど、
めちゃくちゃ恥ずかしかった。
あんまり仕事で感情を出すようなタイプじゃなかったから。

その日は同じ部署の人たちで最後の飲み会をした。
Yさんは飲み会でも、
僕の涙で「1年やってきてたことが救われた」なんて言ってくれた。
最後はみんなで泣いたり笑ったりと本当に楽しい時間を過ごせた。

本当に僕は人に恵まれていると思う。
最初の上司がYさんで本当に良かった。

その日は朝からプレゼントを忘れたりハプニングもあったけど、
やっぱり別れの日に渡せて良かった。

それもこれも母のおかげだな。

僕は本当に心からそう思ったから、
家に帰ってから母にありがとうと感謝を伝えたけど、
母は思っていたよりお怒りであった。

「小学生の頃から寝る前に明日の準備をしなさいって言ったでしょ!!!」

僕はいくつになっても怒られる、
本当に明日から3年目になることが不安だよ。

まずは明日の準備から始めないとね。






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