【おすすめ書籍①】ゲノム・オデッセイ

ゲノム・オデッセイ 診断のつかない患者を救う、ある医師によるゲノム医療の記録 

以前、知り合いの研究者(米国人)がこの本の原著を強く推していた。興味があったものの、英語で読みきる時間もなさそうだったので買わずにいたが、いつの間にか羊土社から日本語訳本が出ていました。非常に良い本だったので、専門的な記述はなるべく抑えつつ、少しnoteに書いてみます。

ゲノム医療、といったときに、なんとなく「個人個人の遺伝子(ゲノム)の情報を元に、それぞれの患者に最適な治療をしてくれる」位のことを考える人は多いのではないでしょうか。本書は、個別の事例ごとに様々なゲノム医療について記載されており、「ゲノム医療」のどのような点が新しく、革新的で、どのような点に課題があるか、について具体的に理解することができます。

本書は、ゲノム解読の超高速化を可能とした次世代シーケンサーの開発経緯から話が始まり、その後、様々なゲノム医療の事例が詳細に書かれています。ゲノム医療では、次世代シーケンサーをはじめとする最先端技術を駆使して病気に関連する(原因となる)遺伝子を同定すし、これを治療に結び付けるというものです。後半ではゲノム編集技術や、核酸医薬などを用いて、「ゲノム情報を直接標的とする」タイプの医薬モダリティに関する最先端事例も取り上げられています(核酸医薬の個別化医療は2018年に最初の事例が始まったばかりであり、本当にごく最近の話題といえます)。

全体を通じて、本書は一般書ではあるものの、あまり軽く流し読みできる本ではありません。PSCK9や、CLN7など遺伝子の名称なども平気で登場し、生物学に多少の素養があった方がより楽しめる本ではあると思います。ですが、専門書とは異なり、本全体の構成は「人」にフォーカスしており、良質なドキュメンタリー映画を観ているような感覚で、読みながらどんどん引き込まれていく素晴らしい本でした。また、個人的に印象に残った点は、図がほとんど(というか、全く?)使われていない点です。遺伝子の機能や、医薬の作用機序なども全て文章で表現しており、にもかかわらず全くわかりづらいと思わせない文構成、文章力(訳も含め)は見事といえます。本書は、本領域の「平易過ぎない一般書」として秀逸だと思います。科学分野全般に、こういう本がもっと沢山出てくると良いですね。特に和書は、少ないので。

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