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映画「金の国 水の国」感想

 一言で、とにかく優しい物語なので、広く好かれるとは思います。ディズニーやジブリの良さを受け継ぎつつ、独自の世界観は出せています。ただ、二人の葛藤の乗り越え方や国の問題解決は結構軽く、何とも惜しい作品でした。

評価「C」

※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。

 国が動いた- 2人だけの「小さな嘘」から…。

 本作は、岩本ナオ氏による同名漫画作品のアニメ映画です。『月刊flowers』(小学館)にて2014年12月号から前後編の読み切りを経て、2016年6月号まで不定期に掲載されました。
 とにかく優しい異世界ストーリーが多くの読者の支持を獲得し、2016年、「このマンガがすごい!オンナ編1位」を受賞し、また同年に、「THE BEST MANGA 2017 このマンガを読め!」で3位にも選ばれました。そして、翌年には、「マンガ大賞2017」で第2位を受賞し、人気作品となりました。

 本作の宣伝では、『サマーウォーズ』制作のマッドハウス ×『竜とそばかすの姫』プロデューサーの谷生俊美氏 ×『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』劇伴のEvan Callがタッグを組んでおり、邦画アニメとしてはトップレベルのチームで制作されました。

・主なあらすじ

 隣り合う国、アルハミドとバイカリ、二つの国は昔から何度も戦争を起こしていました。
 それを見かねた神様が二国の間の戦争を仲裁し、和平のしるしに、アルハミドには、「国で一番美しい娘をバイカリに花嫁として贈る」ことを、バイカリには「国で一番賢い若者をアルハミドに花婿として贈る」ことを命じます。

 そこで、アルハミドの国王は花婿の結婚相手として、自分の娘である「第93王女のサーラ」を指名します。しかし、彼は何故か花嫁として「子猫」を贈ってしまいました。

 一方で、バイカリの族長は花嫁の結婚相手として国境近くの村に住む「失業中の技術者ナランバヤル」を指名します。しかし、彼は何故か花婿として「子犬」を贈ってしまいました。

 サーラとナヤンバヤル、お互いが「結婚相手」だと思っていたのは、何と「犬と猫」…?
 そこで、サーラは子犬を「ルクマン」と名付け、「花婿が子犬であること」を秘密とします。
 一方で、ナランバヤルも子猫を「オドンチメグ」と名付け、「花嫁が子猫であること」を秘密とします。

 二国の国境は高く分厚い塀が築かれており、普段は両国の行き来など御法度でした。
 しかしある日、サーラはルクマンを追いかけてバイカリの森に入ってしまいます。そこで穴に落ちたルクマンを助けたのは何とナランバヤルでした。 
 そこで、サーラは咄嗟にナランバヤルに、バイカリから来た花婿の「代役」を演じるように依頼します。ひょんなことから二人がついた「小さな嘘」、やがてこれが国を大きく動かしていくのでした…。

 尚、原作漫画からアニメ化にあたって、二国の名前が「A国」から「アルハミド」に、「B国」から「バイカリ」に変更されました。

・主な登場人物

・サーラ(声 - 浜辺美波)
 本作の主人公。アルハミド国王の娘で、「第93王女」。体格は少しぽっちゃりで、おっとりとした性格ですが、心優しく、芯は強い面もあります。普段は、ばあやと共に生活しています。

・ナランバヤル(声 - 賀来賢人)
 もう一人の主人公。バイカリの図書館長の息子で建築士ですが、実は「失業中」。一見するとお調子者ですが、心優しく、決めたことをやり遂げる性格です。

・ルクマン
 サーラのもとに送られた子犬。

・オドンチメグ
 ナランバヤルのもとに送られた子猫。片耳が黒いのが特徴的です。(オドンチメグとはバイカリ語で「星の輝き」という意味です。)

・レオポルディーネ(声 - 戸田恵子)
 アルハミドの第1王女でサーラの腹違いの姉。「反戦派」の中心人物。左大臣とは愛人関係。末妹のサーラには一見辛辣な態度を見せていますが…

・サラディーン(声 - 神谷浩史)
 アルハミドの左大臣で、国No.1のイケメン俳優で、レオポルディーネの愛人です。
 元は滅んだ北の国の遊牧民の出身で、自他共に認めるお飾り大臣でしたが、ナランバヤルと出会ったことで変わっていきます。

・ピリパッパ(声 - 茶風林)
 アルハミドの右大臣。王の病を治したことで、祈祷師から大臣に取り立てられますが、実は「開戦派」の中心人物で、王を操ろうと目論んでいます。

・ライララ(声 - 沢城みゆき)
 常に目だけ出した黒いベールを被っている謎の女性。実は用心棒。もともとレオポルディーネに仕えていましたが、とある理由から、サーラとナランバヤルの手助けをします。

・ジャウハラ(声 - 木村昴)
 アルハミドの学者。投獄されていましたが、ナランバヤルの事業を手伝うために釈放されます。学者ながら肉体派です。

・オドゥニ(声 - てらそままさき)
 バイカリの族長。貧しい国の中で贅沢をしています。実は男色家。

・ラスタバン三世(声 - 銀河万丈)
 アルハミドの国王でサーラとレオポルディーネの父。過去にバイカリとの和解を試みたために「腰ぬけ王」と言われた、父ラスタバン二世の名を受け継いていることに悩みます。

1. ストーリーはシンプルだし、絵の癖はそこまで強くないので、好きな人は好きだと思う。

 本作、世界観は良いし、綺麗で優しい物語でした。ふんわりとした絵はずっと眺めていたかったので、パンフレットは買いました。
 予告編でも、上記の雰囲気はしっかりと伝わっており、掴みは良かったと思います。また、1月上映で「初泣き!」と宣伝されており、『CLANNAD』や『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のような、所謂「泣けるアニメ」として観た方も多かったと思います。
 そのため、レビューサイトの評価は4.0前後と高いですが、主なターゲット層はローティーン女子向けで、そこに大人でもギリギリ観れるかなという感じでした。だから、「過度な期待をしなければ」良い作品ではないかと思います。

 まず、ストーリーはとにかくシンプルでした。異世界物語ということもあり、「何となくドキドキ・ワクワクするような冒険があるのかな」や、「物凄く細かい伏線からの、最後で大ドンデン返し!みたいなお話なのかな」と思っていましたが、その辺は意外とストレートでした。

 また、絵の癖もそこまで強くはないですね。このようにストーリーと絵については、多くの人に広く好かれる要素はありました。エンドロールムービーのその後の二人の人生も良かったです。

 そして、設定モリモリ過ぎる、如何にもアイドルっぽいイケメン左大臣が登場したり、族長にゲイっぽさがあったりするのは、今時の作品かもしれません(笑)。後は、犬猫好きにも良いでしょう。

 最も、最近の邦画アニメは、演出に全振りしすぎて脚本が下手だったり、話やキャラクターを下手に拗らせたりする作品が目立つので、その中では「良作」な方だったと思います。

2. 色んな作品からの「オマージュ」は見られる。

 本作は、前述より「ガッツリ異世界物語」です。この手の作品が好きな人は嵌るかもしれません。また、色んな作品からの「オマージュ」も結構見られました。

 ・上橋菜穂子氏の『精霊の守り人』や『鹿の王』

・田中芳樹氏の『アルスラーン戦記』

・ディズニーの『アラジン』・『シンデレラ』・『塔の上のラプンツェル』

・スタジオジブリの『天空の城ラピュタ』・『ハウルの動く城』

・片渕須直氏の『アリーテ姫の冒険』

・大高忍氏の『マギ』や『オリエント』

・村山早紀氏の『シェーラ姫の冒険』

↑以上の作品達をうまくミックスしたような作風でした。

 西アジアっぽい音楽も良かったです。もっと聴きたかったなぁ。公式サイトやパンフレットの紹介より、本作のプロデューサーの谷生俊美氏が中東に縁のある方のようなので、この辺の要素が演出に巧く組み込まれていたのかもしれません。

3. 「今売れる作品」がどんなものかを知るには良かったかも。

 ここまで、本作を褒めてきましたが、「手放しで大絶賛」ではないのです。率直な感想としては、上記のような良い点はあり、決して「つまらない作品ではない」です。
 一方で、評価の高さの割には「今一つで惜しい」点もありました。「悪くはないけど、何か物足りない」というか。そのせいか、「泣ける」という前評判はありましたが、涙は出ませんでした。

 本作に然り、『かがみの孤城』に然り、どちらも皆に好かれる作品ではあります。全てをブチ壊すような地雷展開や不快表現はありません。しかし、同時に「今一つ超えてこない」感じもありました。(まぁ、映画『鹿の王』ほど「改悪」はされてないので、それよりはマシかなぁ…というくらいでした。)

 元々、原作が「全1巻で8話完結」の漫画ということもあり、そこまで「厚い」話ではないのかもしれません。
 上記にて、上橋菜穂子氏や田中芳樹氏のお名前を挙げましたが、彼らのようなハードボイルドな異世界ストーリーを求めると、肩透かしを喰らいます。寧ろライトノベルに近い内容でした。(まぁ、上記の作家さんの作品は長編が多いので、逆に映画化は難しいんですよね。せめてドラマ化、1クール以上のテレビアニメ化ならありですが。)

 もしかすると、評価がとても高いので下手にハードルを上げすぎてしまったのかもしれません。まぁ、「今売れる作品」がどんなものかを知るには良かったかな〜とは思っています。

4. ギャグとシリアスが所々チグハグで、中途半端なのが引っかかる。

 物語序盤にて、アルハミドとバイカリが長年戦争を繰り広げてきた理由が説明されますが、それは何と「犬の糞、猫の糞をどちらが片付けるか」といったギャグ的要素なのです。(正直これには、ズッコケました。)
 この程度の理由で戦争が起きる「おとぎ話要素」と、一方で両者には資源確保と交易路確保の国の存続を懸けた政治的目的があって、という「リアルさ」が共存しているのですが、ここのバランスが悪いです。間違いなく前者が余計なので、世界観としては今一つでした。

 そのため、ギャグ漫画にしたいのか、国同士の戦争シリアスなストーリーにしたいのか中途半端に感じました。個人的には、前者のノリが合わなくて、あまり笑えませんでした。

5. それぞれのキャラのエピソードにまとまりがないのは惜しい。

 本作は、異世界ストーリーにしては意外と地味でした。異世界ストーリーにありがちな、魔法もファンタジークリーチャーも、モンスターも出てきません。また、こういう作品に期待されるような、バトルやアクションシーンはあるっちゃあるのですが、主人公達はそこでは活躍しません。

 つまり、このような作品であれば、「キャラクターの深み」を出す事が必要不可欠だと思います。
 「どの様なキャラクターであるか」が読者や視聴者に伝わらないと、成長しても、退化しても、「他人事」になってしまいます。アクションやミュージカルのようなわかりやすい動きがない分、表現は難しいのですが、上手に描ければ名作になる事が多いと思います。

 しかし、残念ながら本作は今一歩足りませんでした。
 アルハミドとバイカリの王家や国民達、それぞれが政治や生活で悩みを抱えているのですが、2時間という制約上、全員を描く事が出来なかった為にダイジェストの様になってしまったのが惜しかったですね。(この辺も『かがみの孤城』の感想と似ています。)

 メインプロットであるサーラとナヤンバヤルの恋の物語に関しては、悪くなかったと思います。漫画故に、また2時間という尺に収めなければならない故に、色々と突っ込みたくなる部分はありましたが、紆余曲折を経て二人が無事に結ばれたのは良かったです。

 一方で、サブプロットとなる国王の苦悩・サーラ姉妹の確執・国王と王女(父娘)の和解・王家の陰謀・親衛隊・族長・ナヤンバヤルの家族の話などが、どれもバラバラでまとまりがなかったのが勿体なかったです。

 例えば、アルハミドでは、レオポルディーネ率いる「反戦派」と、ピリパッパ率いる「開戦派」と、二つの大きな派閥があるのに、ただ「対立している」としか描かれず、掘り下げが弱かったです。 
 それに、サーラとナヤンバヤル、二人の嘘が回り回って両国を結ぶ水路建設に繋がるのですが、そこのエピソードの持って行き方も今一つでした。

 勿論、サーラとナヤンバヤルの「真実の愛」が国王の心を動かし、そして皆の問題を「解決」へと導いたのはわかりますが、そこに至るまでの皆の心情変化の描写がどれも弱いので、頭では「こうだからこうなったのね~」と捉えられても、心から感動にまでは至りませんでした。

6. 一部の声優の演技が合ってない…。

 本作、一部の声優の演技が合ってないと感じました。(私は、本職声優以外の人が声優をやることには反対しません。「合っていれば良い」と思うくらいなので。)

 ただ、浜辺美波さんの細い声が、サーラのぽっちゃり感とマッチしておらず、終始違和感がありました。サーラが優しい子というのは伝わるのですが。勿論、浜辺さんは可愛らしいし、苦手な方ではありません。ただ、今までも声優のお仕事はされているようですが、あまり声優向きのお声ではないように思います。

 賀来賢人さんは良くも悪くも賀来賢人さんでしたが、そこまで悪くはなかったです。

 戸田恵子さんはすぐにわかりました。流石でした。他のプロの声優さん方にも不満はなかったです。

 最近は、ジャンプやマガジン、サンデーなど大きな出版社の漫画誌だけでなく、ウェブ・pixiv・電子コミックサービスなど、色んな所から出版できるようになったからこそ、多くの作品を読むことができるようになったと思います。だからこそ、ヒット作も増えましたね。

 ただ、それ故にそれぞれの出来はマチマチだし、好みもハッキリと分かれると思います。個人的には、「このマンガがすごい!」に選出された本作も、『マイ・ブロークン・マリコ』もそこまで響かなかったです。

 それでも、本作のように、「終わりのわかる漫画」だからこその良さはありますね。「必ず結末まで辿り着ける安心感がある」と言いますか。

 最も、今は一部の人気漫画は超長期連載になっていて終わりが見えないです。それ故に、新規参入が難しくなっているし、離脱する人も多いので、余計にそう思います。

出典: 

・映画「金の国 水の国」公式サイト

https://wwws.warnerbros.co.jp/kinnokuni-mizunokuni-movie/

※ヘッダーはこちらから引用。


・映画「金の国 水の国」公式パンフレット

・「金の国 水の国」Wikipediaページ


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