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【『ゆるゆると生きる』絵本】3話:『別れは本物の愛とともに』


1.絵本本編



カラン、と。
グラスの氷が音を立てました。
 
渚は
その音にはっとします。

 
本郷君:『……佐藤さん? どうしたんですか?』
 
渚:『……あ、ううん。何でもないよ』

 
そう返した渚に
本郷君は不満そうに眉をひそめました。

 
本郷君:『その言葉、いい加減聞き飽きたんですが……?』
 
渚:『えっと、そう……だったかな?』
 
本郷君:『そうですよ。職場でも、上の空と言うか、何というか。今だって、僕の話、全然聞いてないですよね?』

 
本郷君の目が
試すように渚を見ます。

 
渚:『そ……んなことはないよ?』
 
本郷君:『じゃあ、僕が今さっき話してたことが言えますか?』
 
渚:『…………ごめんなさい』


渚が素直に謝ると
本郷君はふぅっとため息をつきます。
 
それに合わせるように
グラスの氷がカラン、コロン、と
音を立てました。

 
本郷君:『まぁ、プライベートを話すかどうかはあなたの自由ですけど』
 
渚:『……えっと』

 
渚が戸惑っていると、
本郷君は肩肘を立てながら、
 
渚をじっと見つめるように
顔を傾けました。
 
オッドアイの瞳が
渚をとらえて離しません。
 
そのまま
しばらくにらめっこを続けた後、
 
本郷君は
ため息をつきました。

 
本郷君:『僕にできることがあれば、言ってください。……一応、仕事仲間なので』
 
渚:『……あ、りがと』

 
そう言いながら、
渚はぎこちなく笑います。
 
彼が言わんとしていることは
何となく分かるからです。

 
 
最近、
1つのことに気を取られて
周りが見えていなかったのは事実。
 
そして、
 
その火種が
着実にくすぶって
 
大きな火になるのを
待っていることに
 
そのときの渚は
気づいていませんでした。
 

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