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akiko with 海野雅威トリオ @billboard live 横浜

9/17(日)昼間 
ビルボードライブ横浜で

akiko with 海野雅威トリオ
akiko (Vocals)
海野 雅威 (Piano)
吉田 豊 (Bass)
海野 俊輔 (Drums)

のライブを聴いてきました。
私がジャズを歌い始めて間もない20代半ばころからずっと生で聴いてみたかったライブです。



歌を始めた頃から私はakikoさんのアルバムを聴いていました。

2001 「Girl Talk」


2002「hip hop bop」


2003「mood swings」


2004「mood indigo」


このあたりのアルバムは私と同じ世代、2000年代始まり頃にジャズに関わっていた人ならば
ボーカリストに限らず楽器奏者も殆どの人が注目して聞いているのではないでしょうか。
名門verveからデビューして次々新作を発表する日本人ボーカリスト。
歌も選曲も共演者もアレンジも演奏も、プロデュースも、
どれもハッとするような刺激と衝撃を持っていて
しかも、
スタンダードジャズを
「akikoという歌手がいまここからその先まで自分のスタンダードナンバーにし続ける」説得力のある作品ばかり。
何度も繰り返し聞き続けました。

 自分とたいして歳の違わない人がこんなすごい歌を歌い、こんな強力なミュージシャン達と世界感のあるアルバムを作っているんだ、と、子供の頃から志していた演劇から距離を起きジャズを歌い始めたばかりの当時の私は震えるような興奮と羨望をもって聞いていました。

そして

2005年発表ライブアルバム
akiko with 海野雅威トリオ
「simply blue」

 最も衝撃を受けたアルバムです。

海野雅威さんの空気を切り裂くような鋭く熱いピアノ、ドラム海野俊輔さんの一糸乱れぬ集中力、ステージ上にすごいスピードで交錯する全てを受け止めて支え打ち返してゆく吉田豊さんのベース

こんな、油断したら肌が切れて血が出そうな集中したステージの真ん中で、しかもお客様を目の前にしたライブで、一曲ずつの中の一瞬を積み重ねながらその場で音楽を作って歌ってゆくakikoさん。

こんなに強いうねりの中でしっかりと立ち
こんなにも高い熱が燃える中で興奮と共にどこか氷のような冷静さも常に保ちながら今とその先を見つめて歌っていることに、怖さすら感じました。

このライブが録音され作品となる事が一瞬足りとも意識から外れていない。
もし私がこのステージに立ったらこの熱とうねりに吹き飛ばされてしまう、
もしも私がakikoさんくらいに歌える歌手だとしても、このトリオが産み出す熱に巻かれ観客の勢いに押されてライブに翻弄されてしまう、絶対に。

この人は情熱を込めて歌いながらなんでこんなに冷静な部分を持っていられるんだろう。
この冷静さと俯瞰する力を持ってるからこのとんでもないトリオと掛け合えるし、共にステージに立てるんだ、
この精神力の強さ、とてもじゃないけど私には持てない
と思いました。

 このアルバムの数年後、海野雅威さんは渡米しNYで瞬く間に頭角を表してロイ・ハーグローヴ・トリオのメンバーとしての活躍を始められました。

「海野さん、NY行ったらしいよ」 
色んなジャズバーで話題になっていた海野さんの渡米。
ああやっぱりなあそうなるべきだよなあと思いながら
モタモタしていて生で聞き逃した事を後悔しました。

  18年が経った2023年9月
ビルボードライブ横浜でまさにこのトリオでのライブが行われることを知り、即チケットを取りました。

同じ日の夜に国際フォーラムで平沢進さんのライブがあるというとんでもないスケジュールになりましたが、仕方ない!どっちも逃せないんだ私には!


これまで何度もsimply blueを聴いてきて、その回数だけ脳内でライブを再現してきました。
ステージに射す照明の色、メンバーの表情や交わす視線の速さ、客席の熱気も、もう何度も味わってきている、そんな感覚です。


2008年「What's Jazz?」
というアルバムの中に

JAZZ introducing How high the moon
という曲があります。
名曲How high the moonのメロディにakikoさんが英詞を付けて歌う曲。

ージャズには素晴らしい曲がたくさんあって
時代を越えて輝き続けてる
how high the moon て曲を紹介させてね
モーガン・ルイスとナンシー・ハミルトンが作った曲

エラはこの曲をこんな風にキュートにスウィングする、
チャーリー・パーカーはこの曲のコードでオーニソロジーっていう新しい曲を作ったわ
チェット・ベイカー、ソニー・ロリンズ、デューク・エリントン、多くのジャズジャイアンツが素敵に演奏し愛した曲よー

こんな感じの歌詞を英語で付けて、それはそれは気持ちのいいメロディとスウィングで歌い
そして

ーそんな曲をいまから私のバンドが演奏するから聞いてちょうだいー

そう歌ってから、インストゥルメンタルの部分が始まるのです。


 それまでakikoさんのアルバムを聴いてきた上でsimply blueのライブ録音に衝撃を受けていた私は、このHow high the moonにさらに大きな衝撃を受けます。

こんな風にスウィングもバップも含めて歴史を自分の中に落とし込み、愛し、理解し、自分の言葉で構築しなおして英語で語り伝えられる人だから
verveが認めたし、この曲を、ジャズを歌う資格があるんだ。

そして「私のバンドが演奏するから聞いてちょうだい」というフレイズ。


当時の私には逆立ちしたって出てこない感覚でした。

ー私のバンドが演奏するから、聞いてー

私はMy blue heavenやDinahなど、日本でいうと昭和初期に流行ったような
かなり古いジャズを好きで歌っていたこともあり、ライブは大先輩のミュージシャンの方々にお声がけいただいてご一緒させて頂くことが多かったのです。

いつも“歌わせて頂く、ご一緒させて頂く”という感覚で、
ミュージシャンと自分が並列であるという意識すら持ったことがありませんでした。
そんな私に「私のバンドが演奏するから聞いて」と歌うakikoさんがどんなに強く眩しく、信頼と自信に満ち、世界の違う人に見えたことか。

 ビルボード横浜のステージでakikoさんがこの曲を歌われたとき、
あの当時の自分が持っていた沢山のもどかしい気持ち、悔しい気持ち、
自分は本当は演劇をやるはずの人間なのに演劇はできずジャズを歌っていて、一体このままどうなるんだろうどうしたいんだろうといつも不安だった気持ち、

こんなにジャズが好きだけど芝居への未練がある限りやはり本気でジャズをやってる人とは並べないという罪悪感をずっと持ちながら歌ってた頃のこと、


それでもやはり好きで仕方なく、いろいろな縁が繋がって沢山の人に引っ張ってもらい、救われて、
歌い続け、聞いて頂くことができ
自分が今ここで曲がりなりにも歌手として18年ぶりのsimply blueカルテットのライブを聴いてること、

24歳からここまで歌い続けて来た中で感じたあらゆる感情が一気に溢れて
涙が止まりませんでした。

18年後のsimply blueカルテットは
皆さんずっと穏やかで、幸せを噛み締めるように、メンバーの発する一音一音を大事に受け止めるように演奏していて、
あのアルバムの触れたら切れそうな鋭さとは違うふくよかさと、
「今と戦う」のでなく「今を慈しむ」ような豊かさに満ちていました。


18年の間に私にもいろいろあったように
今このステージで演奏するメンバーの1人1人にも様々な歴史があって、中でも海野 雅威さんには生死の境を見るような恐怖と苦しみと痛みの時間があり、それを乗り越えてゆく深い戦いは今も続いているはずで、

18年前から続いている時代をそれぞれが音楽と共に生き、今ここに、同じ空間にいて音楽を共有していることの凄さ、不思議さ、有り難さを感じました。


 私が昨年、音楽を勉強するために学校に行く事を決めたことにも、20代でakikoさんの数々アルバムを聞いてショック受けた事は確実に影響しています。
震えるような興奮と羨望と同時に嫉妬の気持ちももちろんあったのです。
嫉妬するのも情けなくなるくらいすごい力を持っている人だからこそ、立ち位置不明だった私は情けなく嫉妬しました。

「こんな風に音楽を理解すること、愛を持って人を納得させること、自分には無理だ」 

と思い
自分を諦めさせようとし続けた事や気を逸らし続けようとしていた部分にとうとう無理が来たから
今からでも音楽理論について一から勉強しようと思い、国立音楽院への入学を決めました。

そして今、その決断は間違ってなかったと自分に感謝する日々を送っています。
なんとも気の長い話ですが、私は私に必要な時間の掛け方でしか前に進めない。
今日のライブは私の人生に押すことのできたスタンプのようなものです。

大事なスタンプを貯めるほどにいい音楽家になれる
ということなのだと思います。

この日記を書くにあたり検索していたら
akikoさんが2021年、活動20周年の節目に書かれたブログを見つけました。


akikoさんがいてくれるから
ジャズを歌い続けることが出来ている所が私には確実にあります。
尊敬する、同時代を生きる大切な歌手・akikoさん。
ずっと憧れの人です。

akiko with 海野雅威トリオ
akiko (Vocals)
海野 雅威 (Piano)
吉田 豊 (Bass)
海野 俊輔 (Drums)

このメンバーでのライブを聴くことができて幸せです。
どうもありがとうございます。
どうか、ずっと、素晴らしい音楽を聴かせてください。

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