晴間千妣絽

書くことが大好き。47年かけて叶えた夢、幻冬舎さんから電子書籍『大人だって友だちが欲し…

晴間千妣絽

書くことが大好き。47年かけて叶えた夢、幻冬舎さんから電子書籍『大人だって友だちが欲しい』1冊で3作品を掲載した短編集を出版しました。noteでは私の常識では考えられない日々の出来事を短編小説「鈴木家の日常」というシリーズに綴っています。

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書いたらいいじゃん?

これを職業と言っても良いのかしら? と思いつつ、お話しします。 まだパソコンのない時代(正確にいうとあることはあったけど限られた職種にだけかしら)、私たちはコピーライターというお仕事を紙とペン、ワープロでやっていました。文字で表現することが好きだった私が、初めてライターとして対価を得たのは21歳。 新人として入社、研修を経て、初めて一人で仕上げた仕事は、上司から両手で足りないほどのダメ出しをされ、半泣きで仕上げた自社の見開き広告でした。ゼロから言葉を生み出す苦しさと戦う毎

    • 愚痴言う前に、ありがとうと思ってよ

      今日美容院でのこと。 いつもの美容院で、いつもの美容師さんに髪を染めてもらっていた私。日々忙しくしている私にとって、長年通う月一度の美容院は、気心知れた美容師さんと他愛もない話に笑う、ゆったりとくつろげる場所なはず。 今日の話題はデニムのエプロン。美容師さんお気に入りのデニム製リーバイスのポケットいっぱいのエプロンがほしいという話。どうしても欲しいわけではないけれど、いいなと思っていることも事実。そんなショウもない話に盛り上がっていると、鏡の向こう側から若い男性の愚痴が聞こえ

      • ムカつく私

        本当はものすごくムカついてる、腹が立ってる、煮えくり返ってる。 自由奔放な兄、自分が一番と思ってる家族、外のストレスをぶつけるあの人、「あなたなら」「あなただから」っていうその人、押し付ける君、すべてを委ねるあなた。私はATMじゃない、AIじゃない、サンドバックじゃない、出来できないこと知らないことだらけのただの凡人。 けど「うちの妹っていい妹だから」「お母さんって最高だよ」「非の打ち所がないもんね」ってみんなが言うから、私は何も言えなくてニコって笑う。涼しい顔で目の前に転

        • 鈴木家の日常 ⑰「それでもまだ、乗りますか?」

          「普通」の基準は一人一人違うから、「普通」という言葉をあまり使わないように生きてきた。これは父の教えだ。今思えば、その教えに都合よく言いくるめられていたのかも知れないが、おかげで私は人と違うことに違和感を覚えることなく、「ちょっと違う」人や行動、出来事に対して比較的柔軟だった。そんな私に、どうしても納得できない衝撃的な事が起こった話をしようと思う。 5月生まれの義父は、あとひと月範で87歳になるが、まだ毎日運転を続ける。駅まで徒歩5分、上下線ともに5分おきに電車が来て、都心

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        書いたらいいじゃん?

          鈴木家の日常 ⑯「病気になってごめんなさい」

          「普通」の基準は一人一人違うから、「普通」という言葉をあまり使わないように生きてきた。これは父の教えだ。今思えば、その教えに都合よく言いくるめられていたのかも知れないが、おかげで私は人と違うことに違和感を覚えることなく、「ちょっと違う」人や行動、出来事に対して比較的柔軟だった。そんな私に、どうしても納得できない衝撃的な事が起こった話をしようと思う。 私は鈴木家に嫁いでから、幾度か救急車で搬送されたことがある。1度目はショウを産んで2週間後。深夜2時、頭が沈んでいくような錯覚

          鈴木家の日常 ⑯「病気になってごめんなさい」

          鈴木家の日常 ⑮「誰のための旅行ですか」

          「普通」の基準は一人一人違うから、「普通」という言葉をあまり使わないように生きてきた。これは父の教えだ。今思えば、その教えに都合よく言いくるめられていたのかも知れないが、おかげで私は人と違うことに違和感を覚えることなく、「ちょっと違う」人や行動、出来事に対して比較的柔軟だった。そんな私に、どうしても納得できない衝撃的な事が起こった話をしようと思う。 春休み、夏休み、冬休み、年3回の家族旅行はかつて我が家の恒例行事だった。ショウが小さかった頃は、子供の喜びそうなことや学びにな

          鈴木家の日常 ⑮「誰のための旅行ですか」

          鈴木家の日常 ⑭「愛犬家って意味知ってます?」

          「普通」の基準は一人一人違うから、「普通」という言葉をあまり使わないように生きてきた。これは父の教えだ。今思えば、その教えに都合よく言いくるめられていたのかも知れないが、おかげで私は人と違うことに違和感を覚えることなく、「ちょっと違う」人や行動、出来事に対して比較的柔軟だった。そんな私に、どうしても納得できない衝撃的な事が起こった話をしようと思う。 ショウが中学校へ上がるころ、私は犬を飼い始めた。知人から保護犬の話を聞かされたのと同じタイミングで、ショウが学校の校外活動で保

          鈴木家の日常 ⑭「愛犬家って意味知ってます?」

          鈴木家の日常⑬「これ、洗うのって誰ですか?」

          「普通」の基準は一人一人違うから、「普通」という言葉をあまり使わないように生きてきた。これは父の教えだ。今思えば、その教えに都合よく言いくるめられていたのかも知れないが、おかげで私は人と違うことに違和感を覚えることなく、「ちょっと違う」人や行動、出来事に対して比較的柔軟だった。そんな私に、どうしても納得できない衝撃的な事が起こった話をしようと思う。 以前も話した通り、鈴木家の人々は自分で使った食器を自分で洗うという概念がない。それどころか、シンクまで持っていこうという行為さ

          鈴木家の日常⑬「これ、洗うのって誰ですか?」

          窮屈な時代に狭い自由を選んだ人

          特別に罪悪感などないし、だからと言って優しい思い出や涙を流すほどの美談があるわけではないが、棘のようにずっと私の胸に刺さったまま抜けない人がいる。片時も忘れないとか、会いたくてたまらないとか、そういう感情とも違う存在だ。 刺さったままの棘はどうしたら抜けるのか。抜いたあとのキズはどうなるのかわからなけれど、私は今それを抜こうとしている。 私の名前は佐藤ちひろ。これは、私の母康子の弟、武文おじさんの話。それを話すにあたり、どうしても武文おじさんの生まれ育った背景を知っておいて

          窮屈な時代に狭い自由を選んだ人

          鈴木家の日常⑪「この時間、誰のものですか?」

          「普通」の基準は一人一人違うから、「普通」という言葉をあまり使わないように生きてきた。これは父の教えだ。今思えば、その教えに都合よく言いくるめられていたのかも知れないが、おかげで私は人と違うことに違和感を覚えることなく、「ちょっと違う」人や行動、出来事に対して比較的柔軟だった。そんな私に、どうしても納得できない衝撃的な事が起こった話をしようと思う。 時間とは、皆に平等に与えられている権利だと思っている。だから一人一人の時間は自分で使うものだ。何に使うのか、誰に使うのか、決め

          鈴木家の日常⑪「この時間、誰のものですか?」

          鈴木家の日常⑧「その靴下、いつからですか?」

          「普通」の基準は一人一人違うから、「普通」という言葉をあまり使わないように生きてきた。これは父の教えだ。今思えば、その教えに都合よく言いくるめられていたのかも知れないが、おかげで私は人と違うことに違和感を覚えることなく、「ちょっと違う」人や行動、出来事に対して比較的柔軟だった。そんな私に、どうしても納得できない衝撃的な事が起こった話をしようと思う。 一人息子のショウが5年生になって、私は週2回リフレクソロジーの教室へ通い始めた。足つぼのサロンを開業したいとか、そういう店で働

          鈴木家の日常⑧「その靴下、いつからですか?」

          鈴木家の日常⑦「うぐいす餅で正解ですか?」

          「普通」の基準は一人一人違うから、「普通」という言葉をあまり使わないように生きてきた。これは父の教えだ。今思えば、その教えに都合よく言いくるめられていたのかも知れないが、おかげで私は人と違うことに違和感を覚えることなく、「ちょっと違う」人や行動、出来事に対して比較的柔軟だった。そんな私に、どうしても納得できない衝撃的な事が起こった話をしようと思う。 夫の両親が熱を出した。ユキオ夫婦が出て行った年の8月のこと。 「ちょっとメシ作りに行ってやれ」 夫に言われて、私は鈴木の実家へ

          鈴木家の日常⑦「うぐいす餅で正解ですか?」

          鈴木家の日常⑤「トイレ使ったの、誰ですか?」

          「普通」の基準は一人一人違うから、「普通」という言葉をあまり使わないように生きてきた。これは父の教えだ。今思えば、その教えに都合よく言いくるめられていたのかも知れないが、おかげで私は人と違うことに違和感を覚えることなく、「ちょっと違う」人や行動、出来事に対して比較的柔軟だった。そんな私に、どうしても納得できない衝撃的な事が起こった話をしようと思う。 私の嫁いだ鈴木家は、自営する会社を挟んで両隣に夫の実家と私の家がある。敷地はマルッと地続きだ。夫の実家には弟のユキオ夫婦が同居

          鈴木家の日常⑤「トイレ使ったの、誰ですか?」

          鈴木家の日常③「そのタオル、臭いませんか?」

          「普通」の基準は一人一人違うから、「普通」という言葉をあまり使わないように生きてきた。これは父の教えだ。今思えば、その教えに都合よく言いくるめられていたのかも知れないが、おかげで私は人と違うことに違和感を覚えることなく、「ちょっと違う」人や行動、出来事に対して比較的柔軟だった。そんな私に、どうしても納得できない衝撃的な事が起こった話をしようと思う。 夫の妹ユミが結婚したのは35歳を過ぎてからだった。相手は7歳年下の商社マン、トシユキ君だ。夫とユミはひとまわり離れているから、

          鈴木家の日常③「そのタオル、臭いませんか?」

          鈴木家の日常②「そのお湯、いつからですか?」

          「普通」の基準は一人一人違うから、「普通」という言葉をあまり使わないように生きてきた。これは父の教えだ。今思えば、その教えに都合よく言いくるめられていたのかも知れないが、おかげで私は人と違うことに違和感を覚えることなく、「ちょっと違う」人や行動、出来事に対して比較的柔軟だった。そんな私に、どうしても納得できない衝撃的な事が起こった話をしようと思う。 鈴木家のお風呂は生臭い。臭気が家中に漂う。魚が水槽で死んでいるんじゃないかって、そんな臭いがする。 夫の義母は自称風呂好きで

          鈴木家の日常②「そのお湯、いつからですか?」

          鈴木家の日常①「その箸、誰のですか?」

          「普通」の基準は一人一人違うから、「普通」という言葉をあまり使わないように生きてきた。これは父の教えだ。今思えば、その教えに都合よく言いくるめられていたのかも知れないが、おかげで私は人と違うことに違和感を覚えることなく、「ちょっと違う」人や行動、出来事に対して比較的柔軟だった。そんな私に、どうしても納得できない衝撃的な事が起こった話をしようと思う。 鈴木家へ嫁いで間もなくのこと。夫の家族全員と、夫の実家で食事をした時のことだった。それぞれがそれぞれの箸を使っている家族の中で

          鈴木家の日常①「その箸、誰のですか?」